最近、ソーシャルゲームなどの影響でゲームの価格崩壊が始まっている。
iPhoneをはじめとしたスマートフォンでのゲームがその火付け役とも言えるが、要するに多数の人間が購入する可能性を秘めた市場は、ゲーム価格が従来よりも安くても採算がとれる…という事なのだが、問題はソーシャル系ゲームは無料なんてのもあるわけで、そうなると従来のパッケージ販売におけるビジネスモデルでは太刀打ちできない状況になる。
もっとも、そのパッケージ販売されるゲームとソーシャル系のその内容では、そもそもボリュームも違えば開発期間も違う。要するに最初の予算からして違うわけで、それを横一列で見るのは間違いというものだ。
だが、残念ながら消費者サイドから見えているものが必ずしもそれと一致するかといえば、そうではない。
ゲームというものの本質を問われる昨今において“おもしろさを感じるゲーム”が、イコール“予算の掛かっているゲーム”とならない。
それ故、ゲーム開発は昔から比べて格段に難しくなっている。
その中で、そんな事を本気で感じさせるゲームに出会った。
マリシアス(MALICIOUS)。
PS3のダウンロード専売のゲームで、その価格は800円。
しかして、その内容はといえば、おそらくほとんどの人が800円は安い(お買い得)、もしくは安すぎる(大丈夫か?)と感じる事だろう。
マリシアスは、単純に言えばアーケードタイプの3Dアクションゲームである。
世界設定などもよく出来ていて、公式サイトには小説も掲載されている。本作はその小説の後の話。
いきなりボスとの戦闘シーンから始まるアクションゲームは珍しいが、マリシアスはそもそもボス戦闘しか存在しない。
ボスがいるエリアにいわゆるザコ敵も一緒にいて、そのザコ敵を倒す事でオーラを集める事が出来、そのオーラを利用して自身をパワーアップ、その後にボスとの戦闘に入る、という流れになる。
自分が弱い時は結構ちまちまと戦わなければならないが、それなりの強さになると、ザコ敵を一気になぎ倒したりする事もできたりして、爽快感もそれなりにある。
ボスを倒すと、そのボスが持つ特殊能力を得ることが出来、次のボスとの戦いを有利に進める事ができるようになる。ちなみにステージには順番が決まっていない為、どのボス敵から戦うかは選ぶことができる。自分なりの順番を見つけるのが一つの攻略法になるだろう。
このMALICIOUSというゲーム、発売元はアルヴィオン(ALBION)という会社である。
あまり聞いたことがないかもしれない。というのも、この会社はいわゆる下請け開発メーカーであり、今まで自社でのオリジナルタイトルというものを販売した事はない。
今何故そうした自社開発ソフトを自社販売にしたのか、という事には理由がある。
これから先のゲーム市場を考えたとき、下請けメーカーで居続ける事が難しくなるかもしれないからだ。
前述した通り、今のゲーム価格は崩壊に向かっている。
ソーシャル系の進出もあるが、パッケージという“モノ”のスタイルを取っていないビジネスモデルが登場しているからだ。
このMALICIOUSにしてもPS3のダウンロード専売としているように、今やパッケージ品でないものが売買される時代となった。
そこに従来の価格設定と異なる考え方が出てきており、そしてユーザー側もそうした事情からゲームに対する価格設定に大きな幅を見るようになってきた。
つまり、このゲームは高い、安い、という事をもっとダイレクトに判断するようになった、という事である。
ゲームというのは、面白い=予算が掛かっている、という図式が成立しない。
大手ゲームメーカーのゲームは、どうしてもその規模が大きくなるため、予算もかけられるかもしれないが、ソフト単体の価格も釣り上がり、安いゲームを作りにくい。しかもそれが絶対的に面白い保証があるかといえばそうではない。ある意味、消費者サイドからすれば、大きなリスクを背負う事になる。
一方、ソーシャル系をはじめとした、ゲームのボリュームがそう大きくないものを制作できる開発メーカーは、ユーザーニーズに最も近い位置にいると言える。
短い開発期間に、ボリュームの小さなゲームを投入できる事は、その価格も安くする事ができる。ユーザーからすれば手軽に買うことができるワケで、それが面白ければ“得をした”感じになる。つまらなくても諦めがつく…という言い方もできるかもしれない。
つまり、ユーザーニーズとしては、明らかにそうした単位として小さなものを求める流れが現れ始めた。
ただ、ゲームというのはどうして大作を求められる流れもあるため、大手メーカーはそうした大きなニーズに訴求し、小さなメーカーは小さなニーズに応えるスタイルへと向かっていく流れが生まれ始めた。
この流れがすなわちソーシャル系の流れとも言える。私はそう思っている。
このMALICIOUSは、ある意味そういう流れの中から生まれたゲームと言える。
ただ、ソーシャル系と違うのは、そのクォリティが異常に高いという事。
もともと2,000円くらいのソフト単価なのだろうが、1,200円を宣伝費として800円で販売しているのではないかと思う。何しろアルヴィオンは知名度が高くない。宣伝しなければ売れないが、宣伝してもどこまで売れるかわからない。なら価格を下げて購入するハードルを下げ、話題性を価格で表すという手法に出てきたと考えられる。
個人的にはメーカーとして立ち上がる事を考えれば、こういう手法は考えられるやり方だし正しい判断だと思う。
大手メーカーの下請けで居続ける事が難しくなれば、どこかのタイミングで自らが販売元にならなければならない。なら、こういうオーバークォリティな作品を宣伝費を差っ引いた価格で売るというのは、インパクトもあるし、メーカーとしての知名度を上げる意味でも理にかなっている。
というわけで、そうした小さなメーカーの挑戦を高く評価したい。
800円をお布施替わり…とは言わないが、支援する意味でも購入はアリだと思う。
こうしたアルヴィオンのような判断をするメーカーが今後も出てくるように、私は応援したいと思っている。