最近、ポータブルアンプの話はよく聞くがすっかりUSB DACの話は聞かなくなった。
当たり前になったのか?
私がDr.DAC2を購入した頃は、USB DACというものが流行始めた頃だったせいか、次々と新しい、しかも安いUSB DACが乱立し始めた頃であった。
私自身がDr.DAC2という機種を購入したのは、オペアンプを交換できたからだが、当時として安価なUSB DACの中ではオペアンプ交換型は珍しく、これに関しては最近の機種でも珍しいかも知れない。
ところが、ここ最近は1万円を切る価格のUSB DACが乱立、数千円で買えるものも登場し、音響系雑誌の付録にすらなるぐらいの普及を見せ、USB DACは珍しいものではなくなった。
ある一定数のユーザーを確保した、という言い方もできるが、おそらくは一定数を超えた普及を実現した、と私は思っている。
その煽りを受けたのか、ここ最近はUSB DACの新製品があまり見られなくなってきた。
そのかわりに広まってきたのが、ポータブルアンプ、通称「ポタアン」である。
携帯音楽プレーヤーに繋いで音をよくする…単純に言えばそういう機能を持つ製品だが、それだけ人々は携帯型音楽プレーヤーを持つようになったワケであり、そしてその製品の大部分がスマートフォンであるという事である。
もちろんスマートフォンがそうした役割を担うようになった背景はもっと別にある。
音楽ソースが今までのような物理的なディスク媒体ではなく、シリコンメディアに記録された音楽データが巷に溢れた事により、それがスマートフォンの普及と連動、持ち歩く音楽のスタイルを確立してしまった。
そこに上手くポタアンがハマッた。私はそう見ている。
逆に低迷した固定装置型のオーディオ機器が目指した方向は、ハイレゾリューションだった。いわゆるハイレゾ音楽である。
従来の44.1kHz 16bitというCD音源から、より高い96kHz 24bit以上のビットレートを持つ音楽によって、今までよりも深みのある音を訴求しはじめたと言える。
そこで再びUSB DACに注目が戻るか? とも思えたが、実際は…そうでもない。
ハイレゾは分かる人にはそうでもないだろうが、よく分からない人からすると未知の領域にある。だからまだUSB DACがどうこうとかいう話にまで発展していない。おそらく、ゆっくりと長い時間を掛けて普及していく事になるのではないか? と私は見ている。
どちらにしても、今までのUSB DACはある種当たり前になり、今はその進化が極端にゆっくりになり、オーディオに興味のある人にとって珍しいものではなくなった、といえる。
あえて立ち返る
だが私は今、ハイレゾを理解しようとするが為に、あえてUSB DACに立ち返ろうとしている。
というのは、そもそもハイレゾとは何ぞや? という所を考えると、実に面白い事が見えてくる。
よく、オーディオ機器で「ハイレゾ対応製品」という言い方をする商品が存在する。
何を以てハイレゾと定義しているのか?
もちろん、そこには44.1kHz 16ビット以上という明確な数値が見えているのだが、この数値、そもそもヘッドフォンなどではあまり意味がない。いや、正確にはちゃんと意味はあるのだが、ハイレゾだからと言って96kHz 24bit対応のヘッドフォンという言い方はしない。
そもそも、ヘッドフォンは人間の耳に直結する製品である為、デジタルがアナログになって出力される部分である。入力にしても、デジタルではヘッドフォンのユニットを駆動させる事はできない。振動としてユニットを駆動させるには、それらの信号はアナログにならないといけないのである。
そこにハイレゾだから…という理屈は不要である。だから、ハイレゾ対応製品だからハイレゾ音楽が聴けるのではなく、いかに入力された情報をアナログ変換した際にノイズを少なくし、デジタル波形を滑らかにかつ適確に出力するか? がポイントなのである。
そう考えると、別にハイレゾを謳わなくても、現行のUSB DACやアンプでノイズが少なく、出力特性が素晴らしい製品であれば、良い音は聴けるという事である。
そこで私が再び注目したのが、Dr.DAC3だったりする。
Dr.DAC3
Dr.DAC2を持つ私からすると、この後継機であるDr.DAC3はまるで別モノである。
基本設計こそ同じようなものだが、搭載されている部品がことごとく違い、コンデンサからオペアンプまで全てが見直されている。
しかも、私が持つDr.DAC2では実装されていないDIGITAL IN端子の切替機構を持っている。これが何気に便利で、私の様な環境で使用する場合、可能性を広げてくれる。
Dr.DAC2も、その後に発売されたDr.DAC2 DXではCoaxial端子への切替スイッチが搭載されたのだが、もしそちらを私が持っていたら、あえてここでDr.DAC3を持ち上げる事はしなかったかも知れない。まして、Dr.DAC2 DXの後に出た、あらゆるパーツを高級品にしたTEバージョンであるなら、音質も含めてDr.DAC3は一気に陰って見えたに違いない。
しかし、Dr.DAC2と比べるとDr.DAC3の良さは光って見える。価格さえ折り合いが付けば乗り換えたいと思うほどのものである。
問題は、Dr.DAC3と他社製品を比較したとき、Dr.DAC3が良いのか他社製品が良いのかである。
これを真剣に吟味すると、それだけでものすごい内容になっていくので、割愛するが、私にとっての現時点でのベスト製品がDr.DAC3だった、とだけ言っておく。
コストを除き、大きさ、音質、使い勝手など、それらを総合して考えると他の選択肢が私の中から出てこなかった、という事である。
基本設計が同じなら、普通にオペアンプの交換で済ませる…という事も考えたが、乗り換えの方がベストと考えた。
何よりDIGITAL IN端子切替スイッチがある事が重要であるし、今回私が提起したいのは、このDIGITAL IN端子から入ったデジタル信号をアナログ信号にする際にどれだけ良い音で変換するか? という所こそ意味があり、残念ながらこの辺りは新機種の方が変換精度が高いと言えるからだ。
私の様に、あらゆる機器を接続して切替ながら使うという使い方をしている人は、こうした切替機構とその変換時の精度には十分気をつけた方がいいだろう。
実はUSB接続していない
私はDr.DAC2をUSB接続で使用していない。これには理由があり、USB接続の音よりもS/PDIF入力の音の方が良い音がでるからである。
PCの音をそのままマザーボードのS/PDIF出力でDr.DAC2に繋いでいる為、PC側からはマザーボード音源の光出力というオーディオデバイスに見える。
PC以外のデバイスはどうやって繋いでいるかというと、これは先日のPS4の音が7.1chでしか入力できないという問題の時に触れたが、HDMIセレクターに集中させ、そのHDMIセレクターから出力された音をDr.DAC2に繋いでいる。
ここが今アナログなのである。つまり、アナログ信号をDr.DAC2に入れて、Dr.DAC2のアナログ出力から音として出しているである。せめてこのHDMIセレクターからの出力をデジタル信号にしてやれば、Dr.DAC2側でアナログ化できるため、音はもっと良くなるのだが。
そうなってくると、このデジタル→アナログ変換、世間ではこれをDAC(デジタルアナログコンバート)と言うのだが、この部分に如何に汎用性と精度を求めるか? という事がサウンドの命題だと言える。
…結局、音を出すデバイスからデジタル信号を出力する限り、USB DACでなくてもDACであれば良いのである。
但し、PCなどでどうしてもデジタル信号として出力できない人はUSBから直接デジタルサウンドを出力した方が良い、という人もいる。そういう人は迷わずUSB DACにした方が良いかも知れない。アナログを信じないわけではないが、ノイズが乗る部分はできるだけ少なくする、というのがクリアサウンドを生み出す重要条件とも言える。
私にしてもUSB DACにUSB接続で利用していない時点でUSB DACではなく、普通のDACであれば問題のない話であり、既にUSB DACという存在は忘れた存在になっているのだが、よくよく考えてみると、最近はデジタル信号を出力できない機器がなくなりつつあるため、あえてUSB接続する必要がなくなってきた、という事なのかも知れない。
ノートPCなどの音をよくするという意味ではまだまだUSBサウンドはその存在価値があるのかもしれないが、もしノートPCにS/PDIF端子などが搭載されれば、それこそまさにUSBサウンドは絶滅機器になるのかもしれない。
つまり、USB DACの話を聞かなくなったのは、純粋に利用頻度が落ちてきた、という事なのかもしれない。
今回考える上で一度立ち返ってみたが、結論としてはこんな感じである。
そうなると…やはり話題に上るのはどうしてもアンプになるな、という事になってしまう。
音を最終的にハイパワーでドライブできるかどうかはアンプにかかっているのだから…。