単一スペックから派生機誕生へ。
その名はPS4 Pro
今まで、コンシューマ機のハードウェアはそのプラットフォームに一つとされてきた。
一つのコンシューマ機がメインとして稼働するのは大体5~6年で、その間は多少最適化されたハードウェア、つまり廉価機の発売はあったとしても主となるスペックが変わるという事はなかった。
しかし遂にPS4世代でそれが覆される。いや、正確にいうともっと先に発表されていたXbox Oneからその流れが生まれたのだが、少なくともその話がメジャーになったのはPS4と言えるだろう。
具体的には、PS4の高機能版はPS4 Proという名称が与えられ、4KとHDR対応、その他グラフィックス品質が向上する事になる。だが、Sony側はそれでもPS4 Proはあくまでも「ゲーム体験は従来機種と同じ」という言い方をする。つまり、PS4 Pro専用のタイトルの発売はない、としているワケである。だから従来ソフトのグラフィックス品質向上も含めて、今後発売されるタイトルの表示品質が従来機種よりも向上するという事のみを訴えている。
なので、グラフィックス関係で従来のPS4で十分、と考えている人であれば、PS4 Proを購入する必要はない。従来機種のPS4を持っている人はそのままで良いし、これから買おうと思っている人は、今回のPS4 Proの発表と同時発表される廉価版PS4を購入すれば何ら問題はない。
ただ、個人的には今回のPS4 Proは随分ともったいない仕様だな、と思う所がいくつかある。中身的にはそれだけ変化している、という事である。
16nmプロセスコアを搭載
PS4 Proと廉価版PS4に搭載されるCPU…いや、APUは、共に16nmプロセスで製造される事が判明した。以前このBlogで廉価機は変わらず28nmではないか? と予測したが、16nmプロセスの製造ラインを押さえたようで、シュリンクされたAPUを搭載する事で発熱を抑え省電力化したようである。
問題のそのAPUだが、廉価機に搭載されるAPUは中身は28nmプロセスと全く同じで、シュリンクされただけのコアが使われるようだ。
一方、PS4 Proに使われるAPUは、4Kに対応させるだけの改良点が実装されている。いや、多分それ以上ではなかろうか?
具体的には、APU内のGPU部分、つまりCU(Compute Unit)数が従来のPS4と比較して2倍搭載されている。従来は18基のCUが搭載されていたものが36基になるわけで、CUあたり16wayのFP32浮動小数点演算ユニットは4個搭載される為、CUあたりFP32ユニットは64個となる。
つまり従来のPS4では1,152個のFP32ユニットが搭載される事になるが、PS4 Proでは2,304個搭載されるワケで、このCU数はAMDのディスクリートGPUである「Radeon RX 480」と同等という事になる。「Radeon RX 480」という事は、AMDの説明でいけば単体でVR Ready、つまりVRを問題なく実現できる処理ができる事を意味する。
しかも、PS4はGPUコアを800MHzで動作させていたが、PS4 Proでは911MHzで動作させる為、動作周波数でも性能は上がっている事になる。
これらの性能を考えれば、PS4 ProはPS4と比較して2倍以上のグラフィックス能力を持っている、と言えるだろう。
拡張されていない所
2倍以上のGPU能力を持ったPS4 ProのAPUだが、それ以外のコマンドプロセッサ部分は拡張されていないという。
全体の処理運用を制御するACE(Asynchronous Compute Engine)ユニットも8ユニットのままだし、レンダリング部分のROP(Rendering Output Pipeline)も従来のPS4コアと変わらない。あくまでもシェーダ性能のみ拡張した仕様と言える。
また、ココが一番解せない部分だが、PS4 Proはディスプレイパイプも1本のままと拡張していない。つまり、1系統の映像出力しか持っていないという事である。
この映像出力が1系統しかない、という事が、PS VRを運用する上でプロセッシングボックスを必要とする原因の一つなのだが、プロセッシングボックスで2画面出力を行わせないと、PS4 Proと言えどもPS VRを動作させる事ができないのである。
前述したように、PS4 ProのGPUは「Radeon RX 480」とほぼ同等の性能を持っている為、ディスプレイパイプが複数あれば単体でVR出力が可能と言える。しかし、それをあえて行っていないというのは、その必要性がない、と考えたからだろうが、ユーザーがPS VRを利用する際、PS4とPS4 Proで必要となるハードウェアに違いを持たせる事で混乱するのを避けた、という言い方もできる。
商品構成を極力複雑化させない…そういう意図があるのかもしれない。
それでも高性能化
GPU部分以外はどうなっているかというと、これはもうアーキテクチャ的には何も変更がない。実際には16nmプロセスになる事でFinFETプロセスに最適化されるというアーキテクチャの改良が行われているのだが、これはあくまでも製造上の改良であって設計上の改良ではない。
ただ、このFinFETプロセスへの最適化によって、より高い動作周波数を獲得する事が出来た為、PS4 Proに搭載されるコアは1.6GHzから2.1GHzへと向上している。
0.5GHz分の向上と聞くと、そう大した変化ではないように思えるかも知れないが、単純に考えると1.6GHzと2.1GHzとなれば30%以上の性能向上をしているという事になる。
また、メモリ周りも256bitインターフェースのGDDR5という従来のPS4と同じ仕様になっているが、転送レートは引き上げられているため、メモリ帯域も拡張されている。従来は176GB/secだったものが217GB/sec、転送レートで言えば5,500Mbpsが6,800Mbpsへと引き上げられている。性能比でいうと23%強の性能向上である。
全体的にみて、アーキテクチャは変わらずとも確実に性能向上している事は間違いない。
今まで以上に余裕をもってプログラムを実行できる状況がそこから読み取れる。4K対応と聞くと、そう大した変化ではないと思うかも知れないが、4K映像を出力するだけでも、グラフィック周りでは4倍のデータを扱う事になるため、それなりの拡張が必要になる。
今回のPS4 Proはそのあたりに焦点を絞っているという事が変化点から見られるが、実際にはその変化以上の性能を持たせて余裕を生み出しているようにも思える。
その余裕のある性能恩恵を4Kテレビに接続しない人は全く受けられないのか? というとそういうわけではないようで、フルHDテレビに接続した場合は、より高いフレームレートを得られるため、安定した映像を1080pで得られるようになる。
価格的には妥当か?
薄型PS4はシュリンクされただけのAPUを搭載して発売されるが、その価格は29,800円とかなり安くなった。
PS4 Proは上位機種という立ち位置から、価格は44,980円と高めに設定されている。だが、この価格は驚く程高いというものではない。従来のPS4も40,000円くらいはしたのだから。
だが、逆を言えばこれだけの性能を持たせたPS4 Proだが、結果的には映像品質の向上しか恩恵がない、という言い方もできる。
それを従来価格とほぼ同じであると考えると、高いととるか安いととるかは意見の分かれるところかもしれない。
私は妥当ではないかと思うが、薄型PS4が30,000円を下回ってきた事を考えると実に微妙な価格設定である。
次世代を見越した時
ではPS4 Proは買いなのか?
以前、このBlogでもそういった記事を書いた事があるが、現状PS4を持っていない人で、上位品質の映像が欲しい人は買いだと思う。従来機種を持っている人や従来機種と同等品質で十分という人は買いではないと言えるかも知れない。
というのは、次世代機種として既にPS5(もちろん仮称)が考えられるからである。
今回、Sony側はPS4 Proのさらに次のマイナーチェンジがない事を公言している。
つまり、次にPS4関連のハードウェアが発売される時というのは、廉価機しかない、という事である。
それと上位機種はPS5(仮称)として検討されていて、それは計画通り発売する、としている。
その計画でいつPS5(仮称)が発売されるかにもよるが、次が見えている段階でPS4を持っている人がPS4 Proを購入となると、PS4 Proの製品寿命が極端に短い可能性もなきにしもあらず、といった事になる。
ゲーム体験そのものはPS4もPS4 Proも同じなら、今は映像品質はPS4レベルに止めておき、次世代ハードを視野に入れて予算確保する方が賢明かもしれない。何しろ、このPS4 Proのタイミングと同じような時期にPS VRもあり、その価格はPS4 Proレベルの価格なのだから。
あとは個人の考え方次第である。
どうしてもハイレートな映像や4K映像が欲しいとなれば導入だし、PS5(仮称)を視野に入れてPS4に止めておくかを決めればいい。
私は現時点ではPS4 Proは見送る事を考えているが、PS5(仮称)の情報次第で今後を考える事にしている。
案外PCゲームがもっとコンシューマよりに寄ってきて、PS4タイトルとPCゲームに差が生まれなくなったら、コンシューマ機を切り捨てる…なんて選択肢も出てくるかも知れない。
その時、Steamが天下を取ることになるのかどうかという側面も、気になる所である。
PS4が、ほとんど中身がPCと変わらなくなった時点で、PCとの差別化がユーザーインターフェースとプラットフォームの簡易化によるユーザーへの訴求になってしまったと思っている。
できる事に差がなくなった時、PCの利便性を知っている者がPlayStationというプラットフォームに価値を見いだせるか?
それこそ、総括的なプラットフォームサービスが全てである。
と言うわけで、今はまず待ちの段階だろうと思っている。他にも考え方はあると思うが、何に価値を見出すかという問題でもあるので、人それぞれだと思う。