Ryzenの登場でIntelも合わせたか?
Intel CPUが値下げされる?
先日Ryzenが正式発表され、そこでその性能と価格が発表された。
驚きだったのはそのコストパフォーマンスで、RyzenはIntel CPUの半分のコストで同等以上の性能を示すという事だった。
その性能をちゃんとした比較で示した事で、Ryzenの性能がより明確になったワケで、自作PCファンからすれば現時点でIntel CPUを選ぶ理由がほぼなくなったと言える。
当然ながら、この状況をIntelが把握していない訳が無い。
私としても、Intelの値下げがやってくるかな、と思ったのだが、早速ネットでIntel CPU値下げの噂が流れ始めた。
ジサクテック
http://jisakutech.com/archives/2017/02/30851
このサイトによると、Intel CPUのほぼ全てが軒並みプライスダウンしている。
Intel Core i7-6950X ($1599 US) – $300 Price Cut
Intel Core i7-6900K ($999 US) – $200 Price Cut
Intel Core i7-6850K ($549 US) – $150 Price Cut
Intel Core i7-6800K ($359 US) – $140 Price Cut
Intel Core i7-5820K ($319 US) – $100 Price Cut
Intel Core i7-7700K ($299 US) – $80 Price Cut
Intel Core i7-6700K ($259 US) – $140 Price Cut
Intel Core i7-4790K ($279 US) – $90 Price Cut
Intel Core i7-7700 ($289 US) – $50 Price Cut
Intel Core i7-6700 (259 US) – $90 Price Cut
Intel Core i5-7600K ($199 US) – $70 Price Cut
Intel Core i5-6600K ($179 US) – $$90 Price Cut
Intel Core i5-4690K ($189 US) – $70 Price Cut
Intel Core i5-7500 ($189 US) – $30 Price Cut
Intel Core i5-6500 ($179 US) – $50 Price Cut
Intel Core i5-4590 ($159 US) – $60 Price Cut
Intel Core i3-7350K ($159 US) – $20 Price Cut
Intel Core i3-7100 ($114 US) – $15 Price Cut
Intel Core i3-6100 ($109 US) – $20 Price Cut
Intel G4400 ($49.99 US) – $20 Price Cut
Intel G3258 ($49.99 US) – $27 Price Cut
公式からの情報ではないので、真実かどうかはまだわからないが、この値下げ情報が真実だったとしてもまだ価格的にRyzenの方が魅力がある事になる。
というのは、PCはCPUだけでは動かないからである。
マザーボードを含めて考える
Intel CPUが値下げを敢行しても、それでもまだRyzenに魅力があると考えられる最大の理由は、PCはCPUだけで成立しないところにある。
PCには最低でも必要なパーツがいくつかある。
CPU、メモリ、マザーボード、ストレージ、ビデオ機能…と、最低でもこれだけの機能を有するパーツを組み合わせないと稼働しない。最近ではマザーボード上にいろんな機能が集約されていて、ビデオ機能もCPUに統合されているケースもあるが、機能として持っていないと扱うものとコンタクトがとれないため、必須なパーツである。
このウチ、Intelが価格を全てコントロールできるのはCPUとビデオ機能のみである。もちろんIntel純正のマザーボードがあればそれはコントロールできるが、サードパーティから発売されるマザーボードでIntelがコントロールできるのはチップセットほぼチップセットのみである(一部LANチップなどもあるにはあるが)。
メモリやストレージなどはIntelで構成したPCでもAMDで構成したPCでも共通で使用できるため、両者の価格に差を生む事はないが、マザーボードだけはCPU依存で製品を選ばねばならないため、幾らIntelがCPUの価格を下げても、マザーボードメーカーが価格を下げない事にはPCとして総合価格は大きく下がらない。
ところが、ここ最近Intel系のマザーボードの価格はうなぎ登りで、高級化している事もあり、総価格が軒並み上昇している。
Core i7 7700Kとちょっとしたマザーボードを組み合わせるだけで10万円超というケースだってあり得る。
ところが、これがRyzenになると、Core i7 7700Kと同等の性能だとして考えると、CPUとマザーボードの合計価格では5~6万円程度で収まる事になる。これは最上位X370チップセットを載せていてもこれぐらいの価格と言われている。
実際には、チップセット以外の機能を組み合わせたマザーボードの最終製品価格を見てみないとわからないが、AMDの説明では大凡こんな感じである。
Intel製品の場合、前世代からの乗り換えなら共通してマザーボードが使えるだろうと思うかも知れないが、Intelは現世代のKaby Lakeの前、つまりSkyLakeでソケットをLGA1150からLGA1151に変えているため、前世代のマザーボードをそのまま流用できるのはSkyLakeからの乗り換えのみである。全体として5~15%の性能アップの為にSkyLakeからKaby Lakeに乗り換える人はごく僅かと思われるため、ほとんどの人はCPUのみならずマザーボードも交換する事になるため、結果Intelが一社で価格を下げても大きなコストダウンには繋がらないという現実がそこにはある。
見えてきた周辺事情
また、ここに来て私として明確にAMDにメリットがあると確信を持った情報もある。
それはRyzenやX370のPCI Expressのレーン数の情報である。
今までRyzenは最低PCI Express 3.0を16レーンは持っている、という漠然とした情報しか得られていなかったのだが、どうもRyzenはPCI Express 3.0を20レーン持っているようだ。
また、X370チップセットもPCI-Express 3.0を4レーン、PCI-Express 2.0を8レーン持っている事が判明した。
つまり、フル機能を活かすことができるのであれば、PCI Express 3.0だけで24レーン(但しビデオで16レーン使用すると他は4レーン+4レーンに分けて使う事になる)、PCI-Express 2.0で8レーンの通信が可能という事になる。
また、RyzenはUSB3.0を4ポート、SATA 6.0Gbpsを2ポート持っていて、X370はUSB3.0を6ポート、SATA 6.0Gbpsを4ポート持っているため、これらも総計で考えるとUSB 3.0だけで10ポート、SATA 6.0Gbpsを6ポート持っている事になる。
下位チップセットのB350になるとココからグッと数は少なくなり、総計でUSB 3.0で6ポート、SATA 6.0Gbpsを4ポートという事になる。
CPUとチップセットだけでこれだけの数を持っている事になるため、マザーボードメーカーは最低価格でマザーボードを作ろうと思えば、あとはこれに通信関係の機能やサウンド周り、電源まわりを実装すればコストを押さえて製造する事ができる。もしインターフェースを増やそうと思ったなら、あとはマザーボードメーカーのさじ加減でこれらの数を増やすべくコントローラーチップを実装していく事になる。
Intelでも、おそらく似たような構成とは思うが、何故か電源まわりが豪華だったりして価格がどんどん高くなっている。AMD製品が同じような道を進むかどうかはわからないが、AMDの想定ではそこまで価格が上昇しない、としているようである。
Ryzenが安い理由
Ryzenがどうして安く設定できたのか、という事については、いろいろな理由がある。
開発費という面で見れば、おそらくこれだけ安くするのはかなり冒険なのではないかという予測もできるのだが、少なくとも製造面で言えば安くできる理由はある。
Ryzenは、というよりAMDは新しいアーキテクチャでCPUを設計する場合、ほぼフルスクラッチの状態で設計する。これはAMDが必要な要素をかなり細かいレベルでブロック化し、それらの組合せで設計を行うからであり、今回のZenアーキテクチャは従来のBulldozerアーキテクチャと全く異なる事から、まっさらな設計図から新規に起こして設計している。
この事によって新しい機能を盛り込む際も最初からその事を想定した上で設計できるため、その中身にムダがない。だから性能を発揮させる為に必要なユニットが最適な状態で配置されている。
ところがIntelはCore2時代からの設計に、新しい要素を後付でいろいろ付け足してきた歴史がある。だから新しい要素を盛り込んだとき、その機能を発揮させる際、いろいろと配線的に遠回りをしなければならなかったり、ダイ面積を多めに採らなければならなかったりする問題が発生する。
この両社の違いが、今回の製造面での問題に直結している。
つまり、AMDコアは同じだけの性能を発揮する為に必要なダイ面積がIntelコアよりも小さいのである。これはRyzenのコア写真を見ても分かる通りで、Intelよりずっと小さい面積で同等以上の性能を発揮している。
ダイ面積が小さいという事は、即ち同じサイズのシリコンウェハ上で採れるコアの数がAMDの方が多いという事を意味する。一枚のウェハからより多く採れれば、それは即ち製造コストが低いという事になり、結果安く提供できる事になる。
ただ、Intelの製造ラインは3Dゲートなどで他製造会社より洗練されている部分があり、よりムダのない実装面を実現できるとしているが、設計周りの最適化と比較した時にそれらがどけだけ有利なのかと言えば、やはり設計面の最適化の方が効果的と言わざるを得ない。
また、Intelコアのコストが高い理由は、この精密な製造ラインを確立するコストが乗っているからだ、とも言われている。
実際問題はわからないが、Intelはコアの設計から製造まで全て自社ラインで可能であり、昨今の複雑化した微細化プロセスの製造ライン確立にかかる費用が、製造するチップに載っていても不思議ではない。何と言ってもIntelの製造ラインは基本的にIntel製品しか製造しないため、この製造ライン確立のコストは社内製品で得るしか方法がない。
それと比較してAMDは基本ファブレス…というか、持っていた製造ラインをアブダビに売却、その製造工場がGlobal Foundriesとして独立した製造企業になったため、少なくともAMDのコストはGlobal Foundriesに必要なコストをベースに算出される。Global FoundriesはAMDを上客としてはいるが、他企業の製造も請け負っているため、製造ライン確立のコストはあらゆる企業の製品製造の上に乗っているため、ムダが少ないと考えられる。
これら2つの理由があれば、Ryzenが製造コストとしてIntelコアよりも安いのもうなずけるというものである。
ファブレスの強みはこういう所であり、Intelは最新の製造ラインを自社開発によって得ているが、そのコストをデメリットとして製造コストに載せざるを得ないのである。
Intelはどう逆襲してくるのか?
Ryzenはいろんな方向から考えてコストパフォーマンスに優れていると言えるが、Intelだってこのまま黙ってはいないハズ。
今はコストを下げるという手段で一手を打ってくる可能性はあるが、その一手で収まるとは思えない。理由はこのBlogで前述したとおりで、Intelの値下げだけでは効果が薄いからだ。
かつて、Centrinoというブランドで、販売店に圧倒的な優遇策を採り、一気にシェアを拡大したIntelである。Ryzenが登場したからといって、それで牙城が崩れるとは考えにくく、再び何かしらの手段でイメージを覆してくるだろうと私は見ている。
果たして最終的に市場はどのような変化を見せるのか?
その結果は、Ryzenが発売された3ヶ月後くらいに余波として見えてくるのではないかと思っている。