Ryzenの登場でIntelの牙城を崩したのか?
シェアは伸びている
x86系コアを製造しているメーカーと言えば、IntelとAMDぐらいしか主だったところがないほど、今はこの2社が主力と言える。
Intelが80286や80386を製造していた頃は他にもCyrixなども互換CPU製造していたが、最終的に淘汰され、互換CPUメーカーで生き残ったのはAMDだけという状態である。
このAMDにしても、実は2006年ぐらいまではIntelと肩を並べるほどの市場を持っていた。当時AMDが製造していたのは、Athlon64 X2などマルチコアの先駆けとなった64bit対応CPUで、そもそもコンシューマに64bitが下りてきた最初の理由はAMDが64bit命令を搭載してきたからに他ならない。
このAthlon64 X2を製造していた頃のAMDの市場シェアはなんと48.4%ほど。実に半数はAMDだったわけである。
ところが2006年、IntelはCoreシリーズを発表、その後、Intelの怒濤の快進撃が始まる。
当時は、ヘテロジニアスコア(異種混合コア)が登場した頃で、PlayStation2にCell Broadband Engineという、メインコアとサブユニットコアを組み合わせたマルチコアが流行りだした頃でもある。AMDもビデオカードメーカーであるATI Technologiesを買収し、CPUにGPUを内蔵するAPUを開発する方向へ舵取りを始めたころである。
だが、その後AMDはIntelのCore2シリーズに対して性能面で伸び悩む事になる。
シェアは徐々に低下していき、20%台を維持するのがやっとというような状況になる。
AMDが今回発表したRyzenが出てくる前は、その利点がAPUというコストのかからないコアでのGPU能力の高さだけ、と言っても過言ではない状況だった。確かにGPU能力はIntelとAMDではAMDの方がATI Technologiesの技術があるだけに優位だったが、肝心のCPU能力はそのアーキテクチャの関係からどうしてもIntelの後塵を拝する形になってしまい、市場はIntel一強時代へと突入した。
その状況から脱したのが今年2017年の3月。Zenアーキテクチャを搭載したRyzenをAMDが発表してからである。
このRyzenの登場でシェアは26.2%まで回復したという。個人的にはもっと伸びても良かったのかもしれないとも思うが、PCベンダーの採用がまだ進んでいない事もあって、今現在ではまだシェアとしては1/4程度である。
おそらく、Ryzen3シリーズが本格的に出荷されれば、もっと市場動向は変わる可能性があるが、現在IntelもAMDの動きに呼応し始めているため、Ryzen3の登場時期が遅くなればAMDは更なる市場拡大のチャンスを失うかもしれない。
最適化
Ryzenのパフォーマンスは、マルチコアの影響が強くでるアプリケーションでは圧倒的な強さを誇る。
逆に、シングルコアの能力を問われるようなアプリケーションでは性能が伸び悩む事が各種ベンチマークで分っている。
だが、これはその処理するアプリケーションの作り方で大きく変わってくる。
現在のアプリケーションは、そのほとんどがIntelコアに最適化されている事もあって、Ryzenでは性能を出し切る事が難しい。
逆に、その状況でRyzenがマルチコアが有効なアプリケーションでベンチマークされる性能を叩き出している事の方が凄いという言い方ができるが、シングルコアの能力を問うアプリケーションの作り方によっては、Ryzenでももっと性能を引き出せる可能性はある。
というのも、命令セットとしてはRyzenもIntelコア並に搭載しているのだが、問題はその命令セットの処理の仕方がアーキテクチャが異なるが故にIntelと同等性能を出せていないという問題がある。
特に私が気になったのがAVX2命令の処理で、RyzenでもAVX2に対応しているにも拘わらず、Intelコアとは決定的なまでに性能差が出てしまっている。これはもうアプリケーション側の最適化が問題としか言いようがない。
この最適化の為にAMDができる事がどこまであるのかは私には分らないが、できれば各ソフトメーカーがRyzenへの最適化を進めてくれれば、RyzenはIntelコアに差を付けることができると考えられる。
1990年代から現在まで、AMDは最終的にファブレスになり、その体制が大きく変わった。Intelの資金力との差もある中、Ryzenを開発した事は凄いと思うが、その差を縮める為にも、更なる普及活動が必要になるのではないかと思う。
やはり市場には競争は不可欠である。