先日から同じ話題ばかりだが、それだけ大ニュースだと思って欲しい。
ビデオカードの2強が、それぞれの思惑の中で新製品を投入してきているわけだが、AMDから発売されるRadeonHD 4850のベンチマークが公開されたので、NVIDIAのGeForce GTX 200シリーズと比較できるようになった。
impress PC Watch
MSIの「Radeon HD 4850」搭載カードベンチマーク速報
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0620/radeon.htm
この記事を見る限り、RadeonHD 4850の性能はGeForce 9800 GTXに匹敵、あるいは部分的に凌駕したと言える。
これで先日行われたAMDの発表が嘘ではない事が証明されたワケで、コンシューマ製品でNVIDIAは一歩遅れた事になる。
何しろ、今回の比較においてAMD製品はミドルレンジより下の製品でGeForce 9800 GTXと勝負している。
価格的にも両製品が同じ価格帯に入るものだが、それでも価格はRadeonHD 4850の方が安く、また統合しているビデオ再生支援機能も上という、製品としては上位に値する。
これが脅威でなくてなんと言おうか。
ただ、NVIDIAはおそらくそんなに差を付けられたと考えていない。
その理由は、NVIDIAがGeForce GTX 280の倍精度浮動小数点演算に焦点を当てているからだと私は考える。
現状のリアルタイムグラフィックスでは、単精度浮動小数点演算(32-bit)しか必要とされない。
それ故に従来のビデオカードは単精度浮動小数点演算ユニットしか実装していないし、それしか必要がなかった。
しかしハイパフォーマンスコンピューティングと呼ばれる、並列化を前提としたより上位の演算では、倍精度浮動小数点演算が必要であり、NVIDIAはまさにそちらの方面を視野に入れている。
もちろんAMDも倍精度浮動小数点演算を視野に入れていないわけではないが、AMDは単精度浮動小数点演算ユニットを2個で並列化させ、それで倍精度浮動小数点演算を行う方式を採っている。RadeonHD系がGeForce系に比べて半端なく多い数のSP(ストリーミングプロセッサ)を搭載している理由はここにある。
しかし、NVIDIA側は倍精度浮動小数点演算を行うのにこのような手法は適していないと判断したようだ。というのも、NVIDIAの処理プロセスでは、AMDと同じ手法を採ると逆に効率が悪くなるからである。
だから今回のGeForce GTX 200シリーズも、倍精度浮動小数点演算ユニットを全く別に搭載しているという。
ここら辺は、回路設計の違いによるものであるため、倍精度浮動小数点演算においてどちらが優れているとかそういう問題ではない。
そしてNVIDIAのその方向性は、その単精度浮動小数点演算と倍精度浮動小数点演算で使い分けていくという事を示した。
演算そのものをアプリケーション側で単精度と倍精度に使い分けていく方法は、単精度で最高性能を持つGeForceシリーズにとって効率がよく、またGPUコンピューティングを考えていく上で、ハイパフォーマンスコンピューティングを可能にしていく段階でより現実に即した方法とも言える。
つまり、実際に倍精度浮動小数点演算が必要とされるシーンは少ないという事である。
何はともあれ、GPUをビデオ表示以外に使っていこうと考えたときのアプローチとして、NVIDIAは倍精度浮動小数点演算ユニット搭載を視野に入れ、そしてできあがったのがGeForce GTX 200シリーズである。
このような経緯があるため、RadeonHD 4850が登場した後でも、NVIDIAは脅威というまでには感じていないかもしれない。
とりあえず、NVIDIAはRadeonHD 4870が登場するのを待っているような気がする。そしてさらにその上のハイエンドが登場するのを待っているのだろう。
明確なまでの勝負は多分両社から全ての製品が出た後に行われる。
単純な性能比較だけで判断できない難しさが、これからのトレンドになるかもしれない。