ALPSのマイクロドライプリンタ「MD-5500」が2010年5月末で販売終了となる。
消耗品や修理等は当面続けられるようだが、これでPC用熱転写プリンタの名機が販売網から消えてなくなる事になる。
熱転写式プリンタは乾式のインクリボンのインクを熱ヘッドで溶かして被印刷物に転写していく方式のプリンタだが、昔はこれかドットインパクトプリンタが主流だった。
ドットインパクトプリンタって何? という人もいるかもしれないので、イメージだけ言うと、おそらく今でも官公庁や銀行などでは使われている可能性がある。印刷するときに「キーキー」うるさい音を立てるプリンタである(イマドキの銀行は文書が電子化されているかもしれないが…)。
ドットインパクトプリンタは、同じくインクリボンを使用するが、熱転写式のインクリボンと違い、リボンについているインクが湿式のもので、ヘッドについたドットをリボンの裏側から押し叩いて被印刷物に印刷する方式である。実際にドットがリボンを打つため、キーキー音がうるさいのである。
今主流となっているインクジェット方式が生まれる前は、業務用はドットインパクト、民生用が熱転写というのが主流だった。ところが液状インクのコントロールが出来るような仕組みと細かい穴を空けたヘッドが作られるようになり、次第にインクジェット方式が主流となり、今熱転写式が主流なのは一部のシールプリンタぐらいではないかと思う。
このALPS MD-5500は、熱転写式プリンタの中でもかなり後発の製品だが、非常に優れたインクリボンと優れた多色刷制御を持った名機中の名機である。
用紙表面を平滑にするMF(メディアフレキシブル)インクを採用しており、印刷用紙をほぼ選ばず、また耐候性に優れているのが特徴なのだが、私的には本当に凄いのはそういう事ではなく、金色や銀色といった特色インクが使用できるという、インクジェット方式ではほぼ不可能な色を出力できるのが最大の魅力であった。
インクジェット方式で多色刷する…どうやって可能になるんだろう? と思う人は勘のいい人だ。
インクジェット方式ではインクタンクの色を使い分けて各色の色を噴出すればいいが、インクリボン方式では一度では多色刷はできない。
熱転写式プリンタでは、使用する色の回数だけ紙を通すというのが普通のやり方で、4色なら紙が4回プリンタを通る。具体的には、1回赤だけを出力し、その後そのまま紙をバックさせて次ぎに青…といった感じである。
この方式だと、ローラーが精密でないと印刷がどんどんとズレていく。だから紙送り技術に関して言うと、多色刷熱転写プリンタは今のインクジェット方式より遥かに精密で正確である。
このMD-5500の前機種であるMD-5000が発売されたときは私もMD-5000が欲しくてしかたがなかった。
だが、もともと紙出力をあまりしないという事もあり、結局買う事はなかったのだが、その後最終バージョンのMD-5500が発売され、それでも欲しいなという気持ちは変わらなかった。
何と言っても特殊色を出せる家庭用プリンタというのが他にはないというところがミソで、熱転写式はTシャツプリントなども簡単にできるのも魅力。
結局インクジェット方式プリンタの価格が恐ろしいまでに下落してしまい、ALPSだけでは熱転写プリンタの価格を抑えることができず、今回の結末に至ったのだと思われる。
時代に載ることができなかった名機ではあるが、その特殊性は一分野においてバツグンの特徴と性能を持っていた事に違いはない。
後継機はまず出てこないだろうと思うが、せめて修理とサプライ品はそのまま続けて出して欲しいものである。