日本の航空機産業に一つの大きな危機が迫っている。
つい先日の9月27日、航空自衛隊向け支援戦闘機“F-2”の最終号機の引き渡し式典が三菱重工小牧南工場で行われた。
2000年の“F-2”量産開始以来、累計94機が航空自衛隊に納入されたが、この94機目の納入が終わったと同時に国内の航空機産業は製造金額ベースの4割を占める防衛需要を失う事になる。
つまり、日本国内における戦闘機比率は、ジャンボジェット機を製造していない国内航空機産業の主格とも言える産業なのである。
その4割を失う事の意味は、この時期である事を考えると非常に大きい。
というのも、航空機本体では三菱重工と川崎重工、そして富士重工、エンジンではIHI、電子機器では三菱電機等々、戦闘機生産は日本を代表する重工業企業が関わってきているが、4割もの製造ベースを失うとなれば、各社の先端技術の継承が困難となり、また何より人員の雇用や設備を維持することも難しい…いや、できなくなってしまう。
これを由々しき事態と言わずして何と言おうか?
なぜこんな事が起きたのかというと、それは次期主力戦闘機(FX)の選別に時間を掛けすぎてしまったからに他ならない。
防衛省は、中国のステルス戦闘機開発などを見据えた上で、米ロッキード・マーチンのF-22 Raptorを購入したいと、ずっと米国と交渉していた。F-22は、実に優れたステルス性を持った戦闘機で、史上最強とも言われている。しかし、米国はF-22の機密が漏れる事などを考慮し、日本に売る事を渋ったが、それに止めを刺したのが、ブッシュ政権からオバマ政権に変わった事である。この機を境に、米国でもその莫大な費用からF-222は生産中止となり、結局防衛省が購入する事ができない事となった。
この時間的ロスが3~4年の選定期間の遅れと、戦闘機の国内生産途絶につながった。
ただでさえ不景気と言われている所にして手痛いダメージである。
この画像は、現在F-22を購入する事が出来なくなった変わりに、候補として考えられているF/A-18 E/Fの発展型である。
この他にもF-35 Lightning IIやユーロファイター Typhoonの計3機が考えられているが、これらを早く決めないと、日本の航空機産業の進み方が決まらない。
航空自衛隊内部で最も人気の高いのがF-35 Lightning IIだと言われているが、F-35は一機あたり6500万ドル(約50億円)という話だが、この価格には裏があると見られている。というのも、最新機が50億円で買えるはずがないのである。現行のF-2支援戦闘機ですら、一機あたり116億円かかり、主戦闘機であるF-15Jも120億円かかるのである。仮に50億円で買えたとしても、日本国内でライセンス生産しようとした場合は、その価格が倍近くに膨れあがる。
また、F-35の場合、国内でライセンス生産した場合に、日本の航空機産業が介入できる幅はほとんどない、と見られている。F-35は米英など9ヵ国の共同開発なのだが、日本は武器輸出三原則の縛りの関係からこれに参加できていない。そのため、重要な技術や仕様は開示される事がなく、日本の航空産業企業は最終組み立てと完成検査などに限定されるのではないか、というのである。つまり、ライセンス生産をしたとしても、現在問題視されている国内戦闘機生産ラインの問題は何一つ解決できず、現時点の開発生産規模を維持できなくなる可能性がかなり高い。
それともう一つF-35のデメリットがあるとすれば、調達納期が不明というのもある。F-16並のベストセラー機になるだろうと言われているF-35は、実のところ現在も開発段階にあり、米軍への正式配備ですら早くても2017年中といわれている。航空自衛隊側としては現用のF-4の老朽化が顕著だけに、何とか2016年には新型FXを配備したいと考えるが、とてもそれには間に合わない。
他2機種ではこうしたF-35が抱える問題はほぼない。
ユーロファイター Typhoonは、内部のソフトウェアのソースコードを含めて“ブラックボックスフリー”で全ての技術を開示する方針で、ライセンス生産を国内で行ったとしても特に大きな障害が起きる事がない。
またF/A-18 E/F スーパーホーネットも、ボーイング社は日本企業が設計・開発に参加可能と名言していて、前述の画像のように発展型を用意するだけでなく、日本独自の電子機器や武装の搭載を可能にできる。これはすなわち、維持費も安く出来る事を意味する。
いろんな見方があるにしても、今の国内事情を考えるとF-35を選択するメリットがあまりにも少ない、と私は思う。
何より国内企業の衰退を加速させる可能性が高いF-35を選択するよりも、国内生産ラインを維持・発展させる事ができる他2機種を選ぶ方が、メリットが多い。
航空自衛隊側はその個体の性能から考えてF-35を推す声が多いのもわかるが、コスト、調達納期、国内生産ラインの事情…などを考慮すると、F-35にしかデメリットが見当たらない。
ただ、次の10年を見据えた場合にのみ、F-35を選択するメリットが生まれる。
10年ほど経過すると、今度は一部のF-15Jが退役時期に突入する。つまり、次のFXがもうすぐそこに来るワケである。その時に候補として挙げられる戦闘機の顔ぶれも、恐らく今と同じ機種が浮上するだろうと言われている。そうなれば、200機近いF-15Jの後釜として大きなビジネスチャンスがあり、F-35の開発元ロッキード・マーチン社が日本企業に有利な条件を出してくる可能性もある。
また、基本設計という部分でもF-35はメリットがある。
ユーロファイター TyphoonもF/A-18 E/F スーパーホーネットも基本設計の古さを隠しきれない。F/A-18 E/F スーパーホーネットはその大元であるF/A-18 ホーネットの発展型であり、20年前の基本設計、ユーロファイター Typhoonにしても10年ほど前の基本設計の機体になる。これはF-35と比較すると大きなデメリットと言わざるを得ない。
このような複雑な事情が絡み合っているのが、今の国内防衛航空機事情である。
正直、こんな問題抱えるくらいなら、日本企業が政府と掛け合って日本オリジナルのFSXを設計開発した方がよいのではないか? と思えてくる。
もっとも、国際情勢がそれを許さないのかもしれないが、陸上自衛隊の10式戦車はそのメイン火器である120mm滑空砲の砲弾ですら国産の新型徹甲弾を使用する。当然車体も国産である。であるならば、航空機も国産で進めた方が良いのではないだろうか?
少なくとも日本企業が今本気で設計・開発に臨めば、かなり高性能な機体が作れると思われる。しかも日本の運用事情に合わせて設計できるため、あらゆる面で有利に働くだろう。日本は憲法などの問題から武装開発は難しいと言えるが、自国防衛の為の戦力である以上、10式戦車という前例がある以上、決して不可能な話ではないハズだ。
一番の問題は米国との関係にあるのだろうが、日本はどこかのタイミングで脱米国化を進めなければならない。今回のFX問題は一つのタイミングではないかと思う。
当面は急ぎという事もあるため、米国との関係問題からF/A-18 E/F スーパーホーネットを選択し、次のFXに向けて国産機を推し進める方向が良いように思えるのだが…。
ま、大人の事情もあるだろうから、何がどう正しいのかなどわからない。
ただ、国内航空機産業が危機に瀕しているこの状況を、政府は深刻な問題と捉えるべきである。国内の防衛予算を海外発注で外に出すよりも、国内企業に還元する方がよほど国民の為になると思うのだが…。
10年ほど経過すると、心神の開発が完了しているはずですので、場合によってはF-35よりも国産戦闘機が選ばれる可能性もあるんじゃないでしょうか。
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国産戦闘機…現実のものとなって欲しいですが、日本政府はなんだかんだと米国政府を気にしている所があるので、その辺りの政治的な問題がクリアされないと、そもそもの国産戦闘機の話すら浮上しないように思えます。
でも日本の製造業の事を考えると、自国防衛の為の純国産戦闘機は必須のように思えます。
日本国民の血税を国内に還元する意味でも、その方がずっと良いと思います。
ま、国産となるとアジアの大国が黙ってないかもしれませんが…。
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