ウェアラブルPCという言葉を初めて聞いたのは、多分もう10年以上前ではないかと思う。
まだPCの小型化が課題な時代で、その課題を持ったままPCを身につけるという事そのものが世間的に見てバカげた事のように思えた時代に、あえて身につけてウェアラブルPCを世間に広めていた人がいた。
塚本昌彦教授である。
はじめて見たときは「なんぢゃこりゃ」
塚本教授を初めて見た時、私は不覚にも「なんぢゃこりゃ」と言ってしまった記憶がある。
服のように身につけたPCと頭に取付けられたHMD(ヘッドマウントディスプレイ)、そして怪しげなデバイスを持ち歩き、それらを連動させて今で言うところの仮想現実ARのような事をプロモーションしていた人だ。
やっている事が実に未来で、それそのものも驚きだったが、身につけたデバイスの奇抜さにまず驚いた…というのが第一印象だった。
だが、前述したように実現してみせた仮想現実技術は確かに希望が持てるモノという認識もあった。
未来を先取りした存在。
私にとって、塚本教授はそういう人だった。ある意味、ドクター中松の仲間のように見えていた部分もある。
…決して変人という事を言っているのではない事を強調しておく(爆)
そして現在。
Googleを初めとしたインターネットを活用する企業が、インターネット接続型眼鏡、GoogleならGoogle Glassなるものを発表してきた。
塚本教授がかつてやっていた事を、もっとスタイリッシュに実現してきたのである。
さらに腕時計型のデバイスまで出てくるだろうと言われたり、身につけるPCという言葉が、今では違和感もなく、また当たり前に聴くことができる時代がやってきた。
あの時見た未来が、今目の前に実現しそうな世界がようやくやってきたのである。
この先、ウェアラブルPCは更なる加速をしていくだろうが、残念なのは、それらを実現するデバイスにおいて、独自にゼロからデバイス開発できる企業が限られているという事。
もっと広範囲に、もっといろんな部分でウェアラブルPCを発展させていくためには、もっと簡単に開発できる仕組みがないと波及しない。
もちろん、そんな事は私じゃなくても解っている事であり、Intelなどのデバイスメーカーはちゃんとその先を見ている。
Intel Edison 登場
ラスベガスで開催されていた2014 International CES、つまり世界的なITや家電関連の総合展示会、通称“CES”において、IntelがEdisonと命名するSDカード型PCを発表した。
正確に言えばもっと前に知られていたEdisonだが、SDカードの中にSoC(System on a Chip)、メモリ、ストレージ、Wi-Fi/Bluetoothモジュールを組み込んだもので、SDカードの端子から電源を供給したり通信したりさせる事もできるという、組み込み向けのPC/デバイスである。
形を見て分かる通り、本当にSDカードのフォームファクタで作られているEdisonは、電気的にも端子部分でSDIOと互換性がある。しかもスレーブとして動作するだけでなく、マスター(ホスト側)としても動作する事ができ、他の機器をコントロールする事ができる。
通常のSDカードが動作する電圧3.3Vで動作し、ピーク時で1W、省電力モードで250mWで動作可能という、実にマイクロなPCである。
このSDカードフォームファクタの表面に実装されているのがPentiumクラスのデュアルコアIAプロセッサ“Quark”と、メモリ、フラッシュメモリ、Wi-Fi/Bluetoothコントローラーである。
Pentiumクラスと言ってはいるが、命令セットアーキテクチャがPentiumクラスという意味であって、性能そのものはそれより上のようだ。MMX、SSEといった拡張命令セットが非対応という事である。
仮にそうだとしても、このサイズにそれだけの性能を詰め込んだという事は実に凄い事ではないかと思う。
搭載しているメモリは512KBのLPDDR2メモリで、ストレージとなるフラッシュメモリは2GBを搭載している。このストレージへのアクセスは、SDカードのように端子からできる。
アプリケーションを作成する場合でも、その容易さは普通のSDカード並と言える。
裏面に拡張端子を多数持つ
このEdisonの裏面に、Edisonそのものの本当の凄さが詰まっていると言える。
SDIO規格では規定されていないEdison独自の信号線が出ていて、I2C、I2S、UART、GPIO、PWMなどの業界標準のプロトコルを利用して外部とのI/Oに利用できるのである。
組み込み系の開発を行っている人であれば、容易に独自のデバイスと連携させる事ができるだろう。
私は…プログラマーではないため、そうした事はできないが、開発キットがあればEdisonと自由に組み合わせたデバイスを作り上げる事ができる人が多数いると思われる。
その開発キットだが、今回発表したEdisonの前身にあたるものと同じ開発キットが流用可能…もしくはそれに準じたキットが提供されるという事だから、このEdisonが大きく発展するのはコレからとなる。
で、ウェアラブルPCである
このEdison、SDカード並の大きさという事もあり、また単体で通信が可能という事を考えると、ウェアラブルPCの起点となるには十分な性能を持っているのではないかと思うワケである。
しかも共通規格のSDカードで扱えるという意味でも、身につけるPCとしての可能性はかなり広い。
電力の供給にしても、省電力設計だから大きなバッテリーは必要ない。また、場合によっては薄型の太陽電池によって充電するバッテリーと組み合わせてもいい話である。
塚本教授がかつて身につけていたデバイスは、もっと大きいものだったし、バッテリーからの電力供給量ももっと大きかった。それから考えれば、随分と未来に来た感じがするというものである。
今回のCESでは、赤ちゃんの体温を計測するデバイスがこのEdisonとの組み合わせで実現できるという事が発表されていて、それが実際に販売されるような動きを見せていたが、最近スマートフォンと連携する活動量計が活発な動きを見せているように、こうした身につけるPCデバイスがもっと多様化すれば、汎用的に使えるSDカードサイズのEdisonはもっと活躍の場が出てきそうな気がしてならない。
かつて遠い未来のように思えた仮想現実の世界が今手元にあるように、着実にウェアラブルPCは当たり前のようになってきている。
塚本教授が唱え続けてきた世界が現実味を帯びる今、塚本教授の次なるVisionは何を示すのか?
それは下記サイトで確認してもらうとして、私はまだ見ぬ未来を期待したいと思う。
チームつかもと 公式サイト
http://www.teamtsukamoto.sakura.ne.jp/
しかし…x86デバイスがこんなに小さくなるなんて…近い将来、Core i7クラスがSDカードレベルになる日も来るのだろうか?
そうなった時、私が扱っているだろうPCは、どんなスタイルになっているのだろうか?
…想像ができんw