ヘッドフォンやイヤフォンの最大の問題点はコードである。
最近ではワイヤレスヘッドフォンなんてものもあるが、それでも左右のユニットは一つに繋がっているのが普通である。
耳栓サイズの左右独立完全ワイヤレスイヤホン
Earinは、イヤフォンの最大の問題であるコードというものを全く必要としない、完全独立型ワイヤレスイヤフォンだ。
言葉で言えば「へぇ~」という感じにしか思えないかも知れないが、実際に製品を見るとその言葉は一瞬にして凍り付く。
「えっ?!」
「ホントに?!」
多分、そんな感じである。
実際、耳栓をするかのように装着するソレは、夢のアイテムでも何でも無く、既にプロトタイプが完成し、あとは量産を待つのみという状態のものだという。
https://www.youtube.com/watch?v=5lF3U3dyn2k
Earinの開発は、元ノキアやソニーエリクソンの技術者が設立したスウェーデンの同名スタートアップだという。スタートアップというのは、特定の技術に裏付けられた集団が起業する形態の事を言い、日本ではベンチャー企業という言葉が当てはまる、と言えばわかりやすい。但し、本当の意味で言えばベンチャー企業という言葉が完全にイコールというわけではない。
そうしたスタートアップ企業であるため、開発を終えプロトタイプが存在していても、量産するまでの資金が手元にないため、現在クラウドファンディングサービスの「Kickstarter」で量産に必要な資金を調達しているところだというのだ。
プロトタイプが存在するだけに、これは夢のプロダクトなのではなく、もう現実にできるものである。
コードに悩まされる時代が過去となるのも、そう遠い話ではないかもしれない。
その仕組みは?
Earinの通信の仕組みをちょっと説明すると、左右のどちらか(プロトタイプでは左側らしい)のドライバーユニットがBluetoothで音源からの信号を受信し、そのままもう片方(プロトタイプでは右側)のドライバーユニットへ信号を送信するという仕組みを採っている。
左右のドライバーユニットに採用されているのはバランスドアーマチュア(BA)ユニットで、もちろんこれは電力効率を最優先した結果である。ダイナミック型だと振動させるドライバーが大きい為、より大きな電力を要求する。さすがに小さな筐体では、ドライバーに与える電力を小さくしないとバッテリーで本体が肥大化してしまうため、BAユニットは避けて通れない選択だったと言える。
その本体の大きさだが、直径約14mmで長さ約20mm、重量約5gになる(1ユニットのサイズ)。気になるバッテリー駆動時間だが、連続再生で2.5~3時間とやはり短い。
しかし、それはこのサイズに収納するバッテリーサイズであるからであり、仕方のないところ。ただ、その短い駆動時間を補うため、Earinには円筒状の持ち運びケースである「カプセル」が付属し、この中にバッテリーを内蔵、そのまま充電器として機能し、Earinを収納すれば充電開始、満充電してさらに2.5~3時間の再生を可能とする仕組みを採用している。
つまり、使わない時には収納して常に充電する事で利用時間を延長するという手法を採っているわけである。
こうした方法に賛否両論あるかと思うが、大きさとバッテリーのトレードオフと考えるしかない。
ゼンハイザーも過去には発表している
今から6年前の2008年、実はドイツのゼンハイザーも左右独立型のワイヤレスイヤフォンを発表している。
Kleerのオーディオ転送技術を採用したワイヤレスヘッドホンで、その名称を「MX W1」という。
この「MX W1」はマッチ箱サイズのトランスミッタとヘッドホンがペアになった製品で、特徴はCD音質でのロスレス転送が可能なことだった。もちろん、左右完全独立&ワイヤレスなことも特徴だったが、トランスミッターが結構なサイズという事もあって、左右完全独立型ワイヤレスイヤフォンとしてはあまりメジャーになった感じがしない。
Earinは、そうしたトランスミッター自体が左側ユニット(プロトタイプの場合)に集中していて、その驚くべき小ささから、相当なインパクトがある製品と言える。
ただ、ゼンハイザーは名門中の名門であるため、その製品品質の高さは言う迄も無い。Earinにもそのアタリを期待したいところだが、果たしてどうなるのやら…。
アイディアはいい。しかし製品は…というような事がない事を祈りたい限りである。
オーディオはどんどんデジタル化が進み、とうとう左右完全独立の耳栓型イヤフォンが登場するに至った。
しかし、ケータイやスマホのようにバッテリー問題が一番の課題となった時点で、製品開発の速度はびっくりするぐらい鈍化する事になるとは思う。
やはり壁となって立ちふさがる技術はバッテリーであった。
世の中のモバイル、ワイヤレスは、そのほとんどがバッテリーという壁にぶつかっている。
このバッテリー問題を解決する事ができたなら、多分その発明はノーベル賞を超える発見になるに違いない。
さて、この未来の扉を一体誰が開けるのやら…。