SonyがPC事業から撤退し、他会社へとその事業を売却するという話は、既に過去の話である。
SonyのPC、つまりVAIOは終わった、という人もいるかもしれないが、そうではない。今始まるのである。
VAIO株式会社
SonyのPCと言えば、紫系のカラーリングで一時は日本のPC市場を引っかき回したVAIOという言葉がすぐにでも出てくるぐらい、有名な話である。
PCを一気に一般層が意識する製品の位置付けに浸透させたのは、VAIOの影響があったのではないか、と私は思っているぐらい、SonyのVAIOはPCに詳しい人よりも一般層向けのPCだと言える。
そんなVAIOもここ数年はずっとキビシイ状況に置かれ、結局、SonyはVAIOの事業の売却を決めた。
規模の大きな企業であれば、不振な部門を切り離す事ぐらいは日常茶飯事だが、SonyにとってのVAIOという存在は一つの革新的なブランドの切り離しでもあり、まさに身を切る想いだったのではないかと思えてならない。
思えば、日本のPCでVAIOほど特異なPCを生み出してきたブランドはないのではないだろうか?
VAIO Uシリーズ、VAIO Pシリーズ、VAIO TypePシリーズは、小型を目指す過程で生まれたPCだが、どれも普通のPCとはかけ離れたコンセプトで生まれている。
それだけに、VAIOを好む人も多いし、逆に馴染めない人もいる。
万人向けではない製品を世に送り出しているVAIOだけに、好き嫌いも明確に出ていたように思う。
だが、その特異なPCを生み出してきた土壌は、革新的な製品を生み出すという志から生まれてきたものであり、モノ作りにおいてこれほど大切で重要な要素も他にない。
だが、前述したようにSonyはそのVAIOの売却を行った。
その結果…VAIOを作り続けてきた人たちがSonyという殻から抜け出る事になった。
そこで生まれたのがVAIO株式会社。
新しいVAIOの幕開けである。
安曇野事業所が本社に
VAIOの里として知られる、旧Sony EMCS Corporation、つまり安曇野工場は、そのままVAIO株式会社の本社として機能する事となった。
このVAIOの里は、画期的かつ斬新なPCが次々と生み出されてきた場所。つまりココが残っていれば、VAIOの基本的な意思は受け継がれる事になる。
また、今後新しく生み出されるVAIOの販売形態だが、ソニーストアのみでの取扱となり、店舗での扱いは無くなるようだ。
なぜ販売の規模を小さくするのか? といえば、高付加価値な製品は常にソニーストアで販売され、また消費者もソニーストアで高付加価値モデルを購入するケースが多いからだ。展開規模に比して利益が少ない販売形態を一切なくすことで、利益純増を狙った展開と言える。
この販売形態は、エプソンのエプソンダイレクトやDellに近い。だが、VAIOはDellとは違い、あくまでも国内販売のみ対象としている事から、その規模はあまりにも小さいと言わざるを得ない。
それでも国内のみに絞り込んだのにも理由がある。
高品質高付加価値の製品を送り出す体勢を考えると、こなせる数は国内需要分程度と見込んだのだろうと思われる。
というのも、安曇野工場には設計、製造、サポートなどマーケティング以外の機能が全て集約されるからだ。また外部による製造を委託した場合であっても、一度全てのVAIOが安曇野に集約され、そこで品質検査が行われ、OSのインストールなどの調整も安曇野で一つ一つ行われる事になる。
これにより、安曇野工場での生産は一時止まってしまうようだが、また再開される可能性もあるようだ。
日本のモノ作りの強さをもう一度
最近、家電は韓国メーカーが世界的メーカーになりつつある…いや、もう既になっていると言える。
日本の家電は品質は良くても値段が高すぎる。
世界的にはそう言われていて、また真新しいものもないため、どんどんと淘汰されてきている。
ではその韓国の家電メーカーの製品内に使われている部品は? というと、これが驚くぐらいに日本で製造された部品が使われている事が多い。
もし、日本の製造メーカーが韓国に部品供給をしなくなったら、韓国は製品を作れなくなる…と言うぐらい、日本部品の依存度が高い。
では、どうして同じ日本の部品を使用している日本の家電は価格が高いのか?
人件費というパターンもあるし、品質管理にかかる間接費の高さというパターンもある。
いろいろな問題が積み重なってコストに跳ね返ってきていると言えるが、同じ部品を使っているのに差が生まれるというのも、何か釈然としない話である。
一方、Appleはどうかというと、実は極端に安い製品を作っているわけではない。もちろん、価格的に原価は随分と安い製品ではあるだろうが、それ以上の付加価値がApple製品にはあると言われている。
ブランド力。
一言で言えばそれに尽きるのだが、プロダクトとしてより良いモノを作るという事において、Appleは非常に長けている。
私は思うのだが、ソニーのメーカーとしての強さは、このAppleのような精神にあったのではないだろうか?
斬新なデザイン、革新的な機能…そんな付加価値があるからこそ、ソニー好きな人がいて、メーカーとして大きくなっていったように思えてならない。
だが、昨今のソニーはその精神を失い始め、とうとう斬新なデビューを飾ったVAIOという事業を売却した。
であるならば、VAIOは原点に還るべきだ。
ありふれたPCにVAIOのロゴは相応しくない。
私が買ったソニー最後のVAIOは、まさしく安曇野エンジニアが生み出した革新的なVAIO Duo 13であり、こんなPCはVAIOでなければ他からは出ないモデルだと思っている。
そんなVAIOの原点に還る時が来た。
VAIO株式会社の設立は、そんな新たな幕開けだと私は信じて疑わない。
VAIO株式会社
http://vaio.com/