ドイツ・ベルリンで行われている世界最大のコンシューマーエレクトロニクスショー「IFA 2014」で、いくつか興味深い液晶モニターが展示されている。
フルHDの次
私個人としては既にフルHDというデスクトップの広さは、もう次のステップに進んでも良い時期だと思っている。スマートフォンやタブレットが緻密な網膜ディスプレイへと進んでいる今、PCのモニターがその進化から遅れてきていると感じるのである。
しかし、世間ではフルHDでも問題ない、というような風潮があるように思えてならない。
というか、それ以上の解像度があったとしても、結局表示倍率を100%以上にして使用するから、より緻密で綺麗な画面にはなっても、デスクトップの広さそのものは変わらなくても問題がない、という感じだろうか。
実際、確かにデスクトップがあまりにも細かくなってしまうと、文字の読み取りなどに問題が出てしまい、使いにくくなる。だから表示倍率を上げたりする事でそれを回避すると、結局広くしたハズのデスクトップは広くならず、単にそれぞれが緻密なグラフィックで再現されるだけの使い方になってしまう。
スマートフォンやタブレットでもそれは同じ事なのだが、ここに意識の違いが明確に出る。
スマートフォンやタブレットが高解像度化するのは、より緻密で綺麗に見せる意味合いがとても強い。
一方今までPCモニターが高解像度化していくというのは、単純に作業台を広くしたいという要望に応えてきた背景がある。
だから同じ物差しで高解像度化を語ってはいけないのだが、やっている事は同じなワケで、そこがPCモニターが単純に網膜ディスプレイ化していけない一つの理由になっているうように思える。もちろん、技術的に20インチ以上のサイズで4K並の解像度のパネルを製造するのが難しいという側面もあるのだが。
そう考えると、20インチ以上のPCモニターの世界でフルHD以上の解像度を必要とする人々を焚きつける製品をメーカーが提供する勢いというのは、残念ながらフルHDが普及した時と比べてどうしても緩やかになってしまうように思えてくる。
ニア4K?
そうなると、メーカーとしてはフルHDの時と違うアプローチでユーザー体験を仕掛けるしかない。
単純に高解像度になりましたよ的な見せ方ではなく、より臨場感が増しますよ的な方向性が一つの見せ方になってくる。
その答えが湾曲型ワイド液晶ではないかと思う。
前述のIFA 2014で韓国Samsung Electronicsと韓国LG Electronicsから湾曲型ワイド液晶がそれぞれ展示されている。
共に34型で解像度は3,440×1,440ドット、21:9の湾曲型ワイド液晶で、LG製品のみIPS液晶だとパネルの仕様を公開しているが、おそらくこの2製品に投入されている液晶パネルは同じものではないかと考えられる。
こちらがSamsung製のもの。フルHD液晶を2枚横に並べたよりは横幅は狭いものの、縦幅は360ドット広いのが特徴。
こちらがLG製のもの。スタンド以外に違いが分からない。こちらのみIPS液晶である事が発表されている。IPS液晶らしく、視野角も非常に広い仕様のようだ。
これらの解像度を考えると、今のPC環境での要求でいうなら、この程度の解像度でも十分なような気がしないでもない。
たしかにスマートフォンやタブレットの精細さと比べると粗いかも知れないが、そもそもPC上で体験する視覚的要素に、スマートフォンやタブレットと同じものを訴求しても意味がない。
むしろデスクトップを広くして情報量を増やしつつ、ゲームなどでの視野角を広げたい…という用途がPC用としては向いているのではないだろうか?
ゲーム用途には他にも訴求するものがある
PC用となると、他にも訴求しなければならないものもある。
それがリフレッシュレートである。
日本ではそうでもないが、海外ではFPSという一人称視点のシューティングゲーム(日本で言うところのシューティングとはちょっと意味が異なる)が流行っているが、このFPSにおいていち早く状況に追従する為に画面のリフレッシュレートを求める声が尽きない。
正直、私などは60Hz(秒間60回書き換え)もあれば十分と考えているが、韓国LG Electronicsは24型の144Hz駆動フルHD液晶パネルを搭載した製品を展示している。
仮にこれが立体視に対応したとしても、72Hzでの表示が可能というから如何に高速書き換えを可能とした液晶かがよくわかる。
今までは120Hz(立体視で60Hz)駆動という液晶パネルを搭載した製品というのが存在していたが、144Hz駆動という製品は珍しい。
これも液晶モニターに訴求される一つの方向性ではあるわけで、コチラの性能は今後表示面積が拡大すればするほど、その実現が難しくなってくる技術である。
なので、この方向性のモノは今の段階ではフルHDという解像度から大きくなる事はしばらくないのではないかと思われる。
それでも4Kの要望もある
要求が薄い…といいつつも、4Kの要望がなくなっているわけではない。
結局は1枚の液晶パネルにより多くの情報を表示可能なパネルというのは常に要求されているワケで、問題は表示しつつもそれをどれぐらいの精度で書き換えるのか? またどれぐらいの色彩度を実現するか? など、液晶モニターとして使用する為の必要な技術との組み合わせで、それらが求める性能を持っているのかどうかで、人々の評価が変わる。
今の所4K解像度は1つの制御チップでコントロールできない、或いは出来ても性能が追いついていない、というのが現状。この制御チップの進化が待ち望まれているワケだが、それも年内に出てくる…と言われているのだが、それが今現在どうなのか? という所が問題なのである。
そう考えると、一般的に普及する為には最低でもあと1年くらいは現状のような状態が続きそうである。
しかし、そう言いつつもDellは27型液晶「UltraSharp 27 Ultra HD 5K」という、5,120×2,880ドット表示に対応した液晶モニターを年末あたりに発売する事を発表している。
高色域を売りとするプロ向けの位置付けにある製品のようだが、詳細はまだ不明である。
つまり、一般的にはまだまだ普及していかないだろうといいつつも、一部必要と思われるような分野へは、より高解像度な製品が投入されていくという流れは止まらないという事である。
今必要なものは?
私が思うに、一般製品はあと3年は4K以上の解像度へは進まないと思っている。というか、進んで欲しいのだが、多分コストが追いつかないだろう。
それよりも、今回発表されたような3,440×1,440ドット程度の、フルHD以上4K未満というモニターが一定の層に浸透するのではないかと思っている。
もちろん、フルHDで何も困らないという人も多いだろうから、フルHDへの切替時のような、一斉に切り替わっていくような流れはないだろう。
また、こうした問題は何も液晶モニターだけの問題ではない。表示させるためのGPUにも問題はある。
一応、ビデオ映像の表示だけなら、CPU内蔵のビデオ機能でも表示は可能だが、これがリアルタイム演算を必要とするような処理を伴うものとなると、今の所ハイエンドクラスのGPUでないとキビシイという側面もある。
こちら側も進化しない事には、素直に4Kという道筋は辿っては行かないだろう。
そう考えると、この方面の進化は私の希望と異なりかなり今後は鈍化していくのではないだろうか?