その昔、とてもエンターテイメントに向けて作られたPCがあった。
その名はX68000
世間ではまだ黒い画面に白文字でコマンドを打つというDOSというものが基本OSだったころ、シャープからとんでもないPCが発売された。
グラディウスという、コナミのアーケードゲームがホンモノさながらに動作し、その音までも完璧に再現されたその動きを見て、ゲーマー達の憧れになったPCが、まさにこのX68000だった。
そのPCの外装も今までの無骨な四角い形をしたPC-9801・PC-8801シリーズやDOS/Vマシンとは異なり、美しいツインタワーのシルエットでPCが家電の仲間入りをしたようなスタイリッシュさに驚いたものである。このツインタワーのシルエットスタイルを「マンハッタンシェイプ」と呼ぶが、これはアメリカのマンハッタンの高層ビルを模した形のようなスタイルだからである。
X68000が搭載するOSは、当初はHuman 68KというDOSのようなスタイルだったが、その後SX-Windowsというマルチタスクが可能なウィンドウシステムが用意されたが、SX-Windowsを動作させるにはX68000のパワーでは非力で、その後に発売されたX68000 XVIやX68030でないと苦しい状況だった。しかし、残念な事にX68000 XVIやX68030が発売された頃には、本体の販売数も伸びず、結局シャープはX68000関係の事業から撤退する事となってしまう。
しかしX68000はIT業界では偉大な業績を残している、と私は思っている。
今のプログラマーの先輩にあたる人達の大部分は、このX68000でプログラミングを覚えた、という人が多く、また動作の速度を決める一つの要素である「クロック周波数」という言葉を世に知らしめたのもX68000だったからだ。
もしX68000というPCが発売されていなかったら、日本のプログラミング業界は今のようにはならなかっただろうし、世界のPCの実行速度は今ほど上がっていなかったかもしれない。
X68000なき後
シャープがX68000を生産中止にしてからも、X68000愛好家の熱意は変わらなかったと言える。小さなベンチャー企業や個人がX68000に実装する拡張ボードや、性能そのものを劇的進化させるボードなどを地道に発売しつづけていたからだ。X68000が搭載するMPU(CPUの事)はMC68000だが、モトローラからはこのMC68000から後、68010、68020、68030、68040、68060などが作られ、X68000シリーズではそれらをアクセラレータとして搭載するようなボードが発売された。
しかし、絶対的性能はintel系CPUが圧倒的に進化した。大企業 vs ベンチャー&個人ではそもそも勝負にならない。結果、趣味の領域を出る事なく、X68000は表舞台から完全に消え去ったと言える。
しかし、未だにこのX68000のスタイリッシュな外装を好む人は多い。もちろん私もその一人である。
そんなX68000のスタイルを復刻したい、という事でシャープがマウスコンピュータにTwitterで呼びかけたのが2013年9月10日の事である。
マウスコンピュータは自社では難しい事を説明し、グループ会社のアユートにその話を渡し、アユートのProject Mにてこの企画が静かに進行する事となった。この画像はその後進展した中で作られた試作機のものである。
オールアルミ製で総重量は20kg超
画像を見ればわかるが、筐体は全て金属で作られている。オリジナルのX68000は樹脂製の筐体だったが、試作機はそれをアルミの削り出しで制作しているようだ。
アルミの比重は2.7と、鉄やステンレスの約7.8から比べれば軽いものの、それでもこれだけの筐体をアルミの削り出しで作れば総重量はそれなりになるわけで、今現在で20kgを超えるという。
…どこに置くんだよ(爆)
それにアルミの削り出しでは価格が高騰してしまう。流石にこの大きさでは高級スマートフォンと同じという訳にはいかない。
金属製で作るにしても、筐体は板金加工に変えないと価格的にも重量的にも製品にはならないだろうし、フロントパネル部分も削り出しだと重すぎる事になる。
今後、どのような形として実現するのかが気になるところだが、発売されれば是非とも欲しい一品である。
そういえばこんなのも…
実は今回筐体を作成するプロジェクトに参加しているProject Mの中の人は、以前にこんなPCを作成している。
X68000筺体のデュアルXeon PC
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20090523/etc_intelev1.html(現在リンク切れ)
X68000のジャンク筐体を利用したPCだが、実に良く出来ている。
作成された当時では、ハイパワーなPCにしようとすれば排熱を熟考する必要があったかもしれないが、今のCPU性能ならここまでの排熱を考えずとも製品は作れそうである。
ただ、問題はハイグレードなビデオカードを搭載しようとした場合で、最近のビデオカードはほとんどが2スロットを必要とするものになる。となると、この筐体内でどれだけの性能のビデオカードを内蔵できるのか? まさにココに注目が集まりそうである。
私の夢は…このX68000筐体のハイパワーPCと、DELLの34型ウルトラワイド曲面液晶モニターU3415wを組み合わせて、快適にFF14をプレイする事である。
…実現できるかなぁw