Summit Ridgeに選別版が登場する?
Zenにかける期待
私自身、AMDコアでPCを組むのはもう何年もやっていない。選びたいが選べないというのがその理由で、パフォーマンスを考えるとどうしても最近はIntelを選ばざるを得ない状況にあった。
理由は単純で、Bulldozerコア以降のAMDはCPUパワーでIntelに相当差を付けられてしまっていたし、ワットパフォーマンスも決して良いものではなかったからである。
IntelもかつてはPentium4時代に同じ事があったが、AMDの落ち込み方はIntelの時とは雲泥の差で、浮上してくるまでに相当な時間を要していた。
そしてここに来てZenコアを発表、その内訳が現在のIntelコアと似たような方向性に変わり、パフォーマンスに期待が持てるようになったという事は、このBlogでもイロイロ言ってきた。
最近のテストでは、ZenコアはIntelのハイエンドモデルと同等以上のスコアを叩き出すレベルに達しているようで、しかもその価格はIntelよりもずっと安い価格に納まりそうな感じだというから、自作PCユーザーとしてはココに飛び込まないでどうする?的な感じである。
そんな話題から、また新たな話題が出てきた。
Zenコアの最初のデスクトップPCシリーズであるSummit Ridgeに、オーバークロックに特化した選別された製品が投入される、という話が浮上してきたのである。
要するに、シリコンウェハから採れるコアのウチ、高いオーバークロック耐性を有した選別品という事になるのだが、そうした製品をエンスージアスト向けに製品化する、という話らしい。
Intelでも、Haswell Refresh世代の中でDevil’s Canyonという、高TDPかつ高い動作クロック設定の製品が存在していたが、そういう売り方をAMDも行うという事のようである。
価格からすると、1~2段階ほど高い価格設定になるだろうが、少しでも上を目指したい人からすると、こういう選別品が別枠で製品化される事は喜ばしい話である。
選別品
そもそも、選別品とはどういう意味なのか?
よく、電化製品などでも「個体差」と呼ばれたりして、当たり外れがあるような話を聞いた事がある人も多いかと思うが、半導体においてはこの「個体差」はもっと顕著に表れる。
これを理解するには、まず半導体とはなんぞや? という話から始まり、なぜ「個体差」が生まれるのか? という理由を知る必要がある。
まず半導体だが、これはシリコンで出来ている。シリコンは低温では絶縁体の性質を持っていて、温度が上昇するにつれて自由電子の移動が活発化、電流が流れやすくなるという性質がある。だから元々のシリコンは電気をとても通しにくい性質があり、シリコンにホウ素など3価の元素を加えることで「p型半導体」となり結晶内部に電子が欠落したホール(正孔)が生成され、正電荷のように電子が移動する事が可能になって電流が流れる。
ただ、所謂CPUなどのシリコンは3価の元素ではなく、5価の元素を加えて「n型半導体」として使用する。この「n型半導体」はダイオードやトランジスタの原料として使われるのだが、結晶内部に自由電子が生まれるため、負電荷としての役割を持ち、電流が流れるという性質を持つ。
何だか小難しい話に聞こえるだろうが、要するに普通のシリコンではなく、5価の元素を加える(注入する)という行為が製造上行われる事そのものに、個体差が生まれる原因がある。
つまり、この5価の元素の注入状態によって、良好なn型半導体になる部分と、そうでない部分が生まれるという事である。
良好な部分は電導性が高く、そうでない部分は電導性が低いため、同じ電流を加えた時にクロック耐性の良い部分と良くない部分が現れる、というワケだ。
私の知り合いの中に「CPUなんざ、青果と同じだ。当たり外れは当たり前よ」と言っている人がいるが、原料のシリコンの製造を考えればまさしく果物や野菜などと同じなのである。
だから半導体メーカーは、元素が均一なシリコンウェハをつくる事が品質向上の命題みたいな所がある。
露光装置
もちろん、CPUはこのシリコンウェハだけで品質が決まるわけではない。
もう一つのポイントは露光装置にある。
CPUはシリコンウェハに露光装置を使って電気が流れる道を印刷(露光)して初めてCPUとして機能する。
最近は印刷(露光)といっても3Dゲートという立体を形成しているため、単純な印刷(露光)にはならないのだが、焼き付けて道を設け、同時にリーク電流を押さえる壁(これが3Dゲート)をシリコン上で実現してCPUとしている。
この露光も必ずしも上手くいくとは限らない。中には一部分が潰れてしまって機能しないなんて個体も生まれる。
この上手くいったりいかなかったりが、所謂「歩留り」というヤツで、新しい微細化プロセスに突入した直後などはこの歩留りが悪くて、欠損するCPUが沢山出来てしまうワケである。
現在、この露光装置で実現できる微細化ノードは14nmと言われていて、電気が流れる回路線の太さが14nmという太さになる。14nmは製品化されているノードで、現在市販化前提で研究されているのが11nmになる。この太さになると隣り合った線が潰れてしまって欠損したりする事も少なくなく、おそらく立上げ当初は歩留りはあまりよくないだろう事が予測される。
ここまでの説明で大体わかるかと思うが、選別品というのは原料となるシリコンウェハの品質が高く、かつ露光結果がすこぶる良好な個体という事になる。
全てをこの状態のもので作れればそもそも選別品というものが存在しないのだが、どうしてもバラツキが出てしまうため、製品として良好なものを選別品として高く売る、という事なのである。
当然、その選別品は性能としては高いわけで、その価格差を付けるという行為そのものは妥当なものと言える。
安定すれば入手は容易
このような選別品であるが、もともとの製造品質が安定してくると、入手は比較的簡単になる。
逆に製造ノード14nmの歩留りが良くないと入手は難しくなる。
だが、Intelは製造ノード14nmは比較的安定していると言っているし、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)をはじめとしたアジアの半導体製造メーカーも14nmは安定していると言われている。
よって、現時点ではこうした選別品は潤沢に準備できるのではないかと思うのだが、問題はSummit Ridgeの回路設計であり、その露光がどこまで上手くいくかで決まる。
2016年の4月の段階ではA0 steppingのエンジニアリングサンプル品で3GHz品が出回ったようだが、その後の情報ではIntelの高付加価値製品と比較しても全く引けを取らない性能を持っているらしいので、あとは安定性次第でZenは高い性能を持った製品が潤沢に準備できる可能性がある。
また、そうした高クロック耐性を持たせるコアに対して、ヒートスプレッダとの間に入れる媒体をグリスではなくソルダリングにして差を付ける可能性もある。
最近のグリスは高性能になったとはいえ、未だオーバークロックによる発熱を効率良く冷却する為にはソルダリングが理想という事実に違いはない。
AMDからすると、安定したコアが供給できれば、後はどこに違いを付けるかだけの問題であり、多少コストが乗ってもその性能を示したいと考えれば、ソルダリングを採用した製品を選別品として製造する可能性も否定できない。
おそらく、この選別品をエンスージアスト向けとして考えれば、ソルダリングを歓迎する人は多いだろうし、その為に価格が高くなったと言っても、反発される事はないだろう。
兎にも角にも、安心はできないものの、今度のAMDはかなり期待できると私的には思っている。
Athlonの時代が戻ってくる…とまで言えるかどうかはまだ解らないが、少なくともIntel一強時代の終わりを告げる可能性はあるように思う。
市場競争を促進する意味でも、AMDにはもっとIntelを揺さぶって欲しいものである。
これでインテル一強の環境が終わってくれればいいのですが…
ある情報筋では、開発中のZenコアがBroadwell-Eと同等の性能があるとのことです。
これが本当なら、AMDも気兼ねなく検討できますね。
まあ、僕はミドルレンジ派なので、Core i5-6500以上の性能がある製品が2万円以下で買えればいいです。
返信
Intel一強時代、終わるといいですね。
というか、それを許してしまっている今が問題なんだと思います。
現在テスト中のZenに課せられた使命は、おそらくその動作周波数の向上だと思われます。
これはステッピングの改良と生産精度をどこまで上げられるか、という事に尽きますので、ステッピングの改良で今後どこまで性能向上できるかがポイントになるのではないかと思います。
私は…価格次第では8コア16スレッドに行きたいなぁ…とか考えてますが、価格次第ですかね。
AMDの最大の魅力は、その性能に対してのコストパフォーマンスですから。
Intelにはできない事をやってくれると信じて祈る事にしますw
返信