18コアのCore i9シリーズ登場。
Ryzenが火を付けた?
Intelが遂にCore i9シリーズとして従来のCore i7シリーズの上位となるハイエンド向けCPUを発表した。前々からそんな雰囲気の噂はちらほらと出ていたのだが、現在行われているCOMPUTEX TAIPEIの基調講演の中で明確化された。このプランは前々から存在していたプランでない事は、この手の事情通ならよくわかる話だが、何故今このハイエンド向け製品が発表されたのかというと、その背景にAMDのRyzenの姿がある事は言うまでもない。
Ryzenはハイエンド向け、その中でも特にゲーミング向けと呼ばれる市場でIntelのマーケットを確実に削り取っていて、Intelとしてもそれに何かしらのカタチで対抗せざるを得ない状況に迫られたと考えられる。
さらにAMDは5月には16コアのRyzen Threadripperという更なる上位コアを発表し、今夏にはその製品を投入する事を明らかにしている。
Intelとすれば、今このタイミングで奪われた市場を奪還する施策をしないと、取り返しが付かない状況が生まれると判断しても、不思議ではない。
実は市場は成長中
日本のPC市場、特に自作PC市場は、徐々に縮小傾向で、とても大きなマーケットとは言えない状況にある。
しかし、これが世界に視野を向けると、実は年20%で成長しているという状況のようで、特にハイエンド市場は活気がある市場になっているという。
アナリストからすると、デスクトップPCはまさに復権した、と言っても過言ではない状況で、AMDはそこに向けてRyzen 7やその上位のRyzen Threadripperを投入するとしてきている。
なので、Intelも今回の発表でそうした流れにのってハイエンドコアを投入するわけで、それに合わせてDELLやHP、LenovoといったPCベンダーもゲーミングPC事業に力を入れていく…というか、今までも力を入れている。
今までは、そうしたゲーミングPC市場にIntelのXシリーズもしくはSシリーズとハイエンドビデオカードという組合せのPCが市場を独占していたのだが、今年の春から、そこにRyzenという風が嵐の如く吹き荒れ始めた。
何と言っても、Ryzenは8コア16スレッドで5万円台という低価格で製品を投入してきた。今まで、Intelとコア性能で争っても決して勝ち得なかったAMDがZenアーキテクチャで巻き返しを図り、同じ価格ならCore数が多い製品を投入した事で、ユーザーの値頃感を刺激したものだから、市場は多いに活気づいた。
Intelにしても、AMDにしても、この市場を逃す事はビジネス上あり得ない、そう考えていると考えて間違いない。
8コア16スレッドは599ドル
ココからはちょっと自分に合わせた現実的な話。
IntelがCore i9シリーズを投入しても、最上位の18コア36スレッドのCPUの価格は1,000個ロット時の単価が1,999ドルと私が買うには現実的な値段ではない。
結局、自分が購入できる価格レンジを見てみると、価格的にRyzenと今回のCore i9シリーズはバッティングする事はない。
ではどのあたりが分岐点になるかというと、8コア16スレッドのCore i7-7820Xが599ドルと、おそらくこのあたりが限界となる。この価格はRyzen7 1800Xと同価格になる。
この上となると、Core i9-7900Xで価格は999ドルと一気に跳ね上がる。10コア20スレッドではあるが、価格が既にハイエンド過ぎて私の手の届く範囲ではない。
しかも、599ドルのCore i7-7820Xは、PCI Expressのレーン数は28と、その上位の7900Xの44レーンとは大きな差が付くレベルである。
IntelはこのあたりもRyzenと同じレンジに収めてきていて、唯一、メモリチャネル数だけが4chと、この部分だけはハイエンドと同チャネル数にしているのみで、基本的にはRyzenより価格は下げないという姿勢を明確に見せている。
Intelらしい商売の仕方とは思うが、もしこれがRyzenより安い価格で攻めてきていたなら、IntelはAMDにさらに大きなダメージを与えられたのではないかと思う。
どちらにしても、IntelのCore i7-7820Xは、XシリーズというAMDで言う所のRyzen Threadripperと並ぶ製品という位置付けなので、それなりのプレミア感を価格と共に残している、という事なのかもしれない。迷惑な話である(爆)
組み合わせるのはX299
このIntelのCore i9シリーズ含めたXシリーズは、チップセットとして組み合わせるのはX299シリーズという、LGA2066という新しいソケットを含めたものになる。
従来品とはソケットが異なる関係から互換性はなく、I/Oレーンは30レーンが用意されている。PCI Express、SATA3.0、USB3.0コントローラの中から最大30レーン分をベンダーが選択できる仕組みになっていて、もしそれ以上のレーン数を搭載するとなると、チップセット外にコントローラーを用意する事になる。
Core i9シリーズの上位は、CPU側にPCI Expressが44レーン分確保されている事を考えると、最大74レーン分のI/Oを持つ事になるわけだが、これもRyzen Threadripperに対抗した結果と言える。
CPUにしてもチップセットにしても、もう少し詳しい話が知りたいところだが、現時点ではまだこの程度しか解っている事がない。
おそらく、今回の発表そのものが緊急に行われた事だからかもしれないが、まだ明確になっていない状態であっても、情報として発表しておく必要がある、という判断をIntelが下したわけである。
Intelをここまで慌てさせたという意味では、Ryzenは随分と良い仕事をしたと思うが、本来、市場はこうした競争があって活気が出るわけであり、今のようなスタイルが正しい在り方だと思う。
そういう意味では、今年のAMDはナイスなスタンスだとホントに思う。
第8世代Coreの話も
COMPUTEX TAIPEI 2017にて基調講演では、Kaby Lakeの次にあたる第8世代Coreの話も出てきている。
Intelのグレゴリー・ブライアント氏は、2017年末には市場投入されるとされていて、第7世代つまりKaby Lakeと比較して30%の性能向上と明言した。
何を根拠に30%という数値を明言したのかはわからないが、おそらくこの第8世代Coreというのは、Coffee Lakeの事を指しているのではないかと思われる。
噂ではCoffee Lakeは前倒しされ、2017年の夏に登場するかもしれない…なんて話もあったが、おそらくこの夏に登場する、というのがCore i9シリーズ含めたXシリーズの事で、Coffee Lakeは2017年末に予定通り登場する、という事なのかもしれない。いや、そもそもCoffee Lakeは当初2018年1月と言われていたから、若干の前倒しはしているのかもしれないが。
ただ、ちょっと解せないところもある。
当初、Coffee LakeはKaby Lakeと比較して15%の性能向上と言っていたはずで、それが今回30%向上という話にすり替わっている。
何をもって15%も底上げになるのかが気になるが、おそらくは搭載するCore数が当初より増えるという事を示唆しているのではないかと私は勝手に予測する。
当初、Coffee Lakeは6コア12スレッドの製品がCore i7シリーズとして登場する、と言われていたが、ひょっとしたらこれが8コア16スレッドになるという事なのかもしれない。
既にアーキテクチャ的に劇的進化は難しいだろうから、単純なコア増での性能向上なのではないかと思うのだが…さて、どういう意図が隠されているのだろうか。
どちらにしても、Ryzenが市場をかき回した事は間違いが無い。
IntelがAMDのRyzenによって踊り出し、Intelによって今度はAMDが踊り出してくれれば、喜ぶのは消費者側である。
市場活性化の為にも、両者にはこれからもぜひ頑張ってもらいたい。