今週末も多分出勤…。
監査に向けて
来週はいよいよISO13485の審査になる。
今回は更新審査という事で、規格が新しく変わった後の審査を受けるという事で、品質マニュアルから手順書、そしてそれに合わせて取った活動の記録などが審査対象となり、本来なら日頃の記録をそのまま見せれば良いだけの審査でありながら、今回は全く準備が整っていない事から、結局その新しいリビジョンに合わせたQMS文書の整備から記録の作成、そしてそれらの紙媒体の準備までしなければならない。
いや、普通に毎日の活動でそんなのは出来ているはずだろう? とQMSを知っている人なら言うかもしれない。
そう、それが当たり前の話なのだが、何故か私の勤める会社ではそうした日々の活動の中で必要になるQMS文書を整える人材が私しかおらず、しかも本来やるはずの部門が記録を曖昧にしてしまっているから、その時の業務メモを頼りに記録を作っていかねばならないという、実にバカげた作業が後に残る。
しかもそれらの記録を作るのは、何故かメインとして私のようなQMSの担当者に割り当てられ、しかもそこに応援が入らないというこの事実。
絶対に間違っているハズの事が、当たり前のようにまかり通っているのが、今の私の勤め先である。
これで医療機器メーカーでOEM案件も受託するとか言っているのだから、実にふざけた営業スタイルとしか言いようがない。
医療機器は常に法律に縛られ、そこには薬事とQMS、そして技術的規格整備がついて回り、どちらかというと管理系の仕事の方が多いのが通常である。
まして他社の案件をOEMで受託する、となれば、他社の案件の管理は絶対的であり、それを管理する事そのものが業務の要になるというのに、それを一人や二人で処理しろというのがそもそも無理な話である。
その無理を、自社の対応だけでも少人数で対応していてこの体たらくなのだから、恐ろしくてOEMなど出来ようはずもない。
参入難度の高さは変わらず
医療機器産業というのは、国の重要産業の一つに加えられている。これは日本という国の中でこれから押さえていかなければならない産業という意味であり、以前はこの産業に半導体産業が入っていた。しかし、半導体産業はその主力がアジアの他地域へと移ってしまった事から、今では重要産業から外され、その代わりという感じで医療機器が入ってきた。
しかし、実際医療機器産業に参入するハードルが下がったかというと、医療機器製造業については下がったと言えるが、医療機器製造販売業としては、そのハードルは下がるどころか上がりっぱなし。
理由は世界的にいろんな規制が強化され、より安全性の高い機器を管理する必要から、参入ハードルは上がってしまっているのである。
だから重要産業と位置付けていても、従来から医療機器産業に参入していて、既に業務がちゃんと遂行されるようなメーカーはいろんな恩恵を受けられるかも知れないが、そうではない企業では高いハードルに依然として困惑し、対応の難しさにぶつかり続ける事を余儀なくされる状態が続く。
医療機器産業への道は、携わっていない人が思うほど、甘いものではないのである。
経営者の教育から
そんなワケで、医療機器産業が国の重要産業に指定されていたとしても、そこに参入するとなると、それはそれはとても大変な壁を上る必要がある。
今まで普通の製造業に携わっている企業が、今までの感覚と同じような感じでこの産業に入っていくと、恐ろしいまでに資金が必要になる事を知る事になる。
経営者からすると、予想もしなかったような所に、会社の資金を大量に投入しなければ、医療機器産業で事業を続けていくことはできない。
何故なら、ISOの審査にかかる費用も一般産業とは比較にならないぐらいにかかるし、製品の試験にかかる費用も通常以上は必要になる。さらに医療機器は仮に上市したとしても、販売後の管理にも人間を割り当てて対応しなければならず、従来の製造業のような管理側と製造側の人員比率とは全く異なる構成を執らざるを得なくなる。もし同じ構成を執っていたとしたら、それは余程大きな企業で製造ラインが多数ある企業か、全ての管理を完全自動化し、その自動化しているシステムのバリデーションもちゃんと取れている企業だけである。
なので、とある医療機器関係の指導員は言う。
「医療機器産業に参入するには、まず経営者の教育が必要である」
私もまさしくそう思う。
まず管理にかかる人件費は確実に高くなる。
また電子化及び自動化すれば…と考えたとしても、医療機器の場合、その電子文書のバリデーションの為に、国家が運営するタイムスタンプサーバからの情報を組み込んだ上で、間違いなくその該当者がその承認をした、という記録を残せる仕組みがないと、電子化できないのである。
それをシステムとして導入する場合、少なくともシステムにかかる費用として2,000万~3,000万くらいは必要になる。しかもそれは導入費の話で、これに幾ばくかの月額費用(もしくは年間契約料)が必要になる。
小さな企業では、とても抱えられる費用ではない。
だから、多くの企業では人海戦術を採らざるを得ず、残す記録はすべて紙ベースという事になる。
その為に必要になるのはもちろん人件費であり、関節費用という事になる。
だから、通常の製造業では想像出来ないぐらいの管理間接費が必要になる。その事をまず経営者が理解しないと、そもそも医療機器事業は成り立っていかないのである。
正直者はバカを見る
だが、そうは言っても全ての医療機器メーカーが今回私が言ったような事をやっているかというと、これもまた微妙な話である。
機器によっては、ここまでの管理は不要というものもあったりするので、中にはとても管理が酷いメーカーもあるだろうと思う。
そういうところで、バカ正直に求められている事をそのままやっていれば、当然経費ばかりがかかってしまい、会社の運営は成り立っていかない。
だから正直者はバカを見る、という部分もないわけではない。
だが、本来その正直者の対応が必要な業界であるという事を忘れてはならない。
人の命を預かる業界である以上、どんな些細なものであっても、そこに落ち度があってはならない。
その事をちゃんと理解した上で、必要なものにはちゃんと予算を使える企業でないと、医療機器産業には参入してはならない。
そういう意味では、私の勤め先はかなり微妙である、と言わざるを得ない。
とりあえず、扱っている医療機器が人命に直接影響を与えるものではないので、大事故に繋がる事はまずあり得ないが、それでも医療機器を扱っているという事を忘れてはならない。
というわけで、もうただの愚痴でしかない話をした。
世の医療機器メーカーのほとんどはちゃんとしているとは思うが、医療機器メーカーが行っている業務は、その業界特有の管理工数の多さ、そして複雑さを伴っているため、杜撰な管理となってしまっているところがあるかもしれない。
ま、これは医療機器メーカーに限らない話かもしれないが、まず経営者がその業界に必要なリソースが何であり、ちゃんと行き届いた環境を作れているか? という事を判断できなければ、この業界にいる事そのものが危うい…まずこれを理解して欲しい。
心よりそう思う次第である。