Intelに並んだAMD?
Computex 2019
台湾の台北で5月28日~6月1日まで開催されるComputex 2019だが、そのキーノートの中でAMDのCEOであるLisa Su氏が第3世代Ryzenのデスクトッププロセッサを発表した。
所謂Ryzen 3000シリーズと言われるCPUで、Zen2アーキテクチャを採用したTSMCで7nmプロセスで製造されるコアである。
対応するソケットはAM4と従来製品と同じで、既存の300、400シリーズのチップセット搭載のAM4マザーボードとも互換性があるとされているが、もちろん真の実力を発揮するには、最新の500シリーズのチップセットを搭載したマザーボードが必要になる。
Ryzen 3000シリーズは、マルチチップモジュールという構成となっていて、最大2基までの8コアZen2 CPU chipletと14nmプロセスのI/Oコントローラーの構成となる。つまり、CPUの外観だけを見ると3のコアが乗っているように見える。
AMDの発表によると、Zen2は初代のZenから15%のIPC向上が見られ、さらに7nmプロセスという製造プロセスによって周波数の向上も行われている。結果的に従来製品より大幅に性能を向上させる事ができたとしている。
モデルナンバー | コア数 スレッド数 |
定格周波数 Boost時周波数 |
キャッシュ | TDP |
Ryzen 9 3900X |
12-core 24-thread |
3.80GHz Boost 4.60GHz |
L2=512kB x12 L3=64MB |
105W |
Ryzen 7 3800X |
8-core 16-thread |
3.90GHz Boost 4.50GHz |
L2=512kB x8 L3=32MB |
105W |
Ryzen 7 3700X |
8-core 16-thread |
3.60GHz Boost 4.40GHz |
L2=512kB x8 L3=32MB |
65W |
Ryzen 5 3600X |
6-core 12-thread |
3.80GHz Boost 4.40GHz |
L2=512kB x6 L3=32MB |
95W |
Ryzen 5 3600 |
6-core 12-thread |
3.60GHz Boost 4.20GHz |
L2=512kB x6 L3=32MB |
65W |
ラインナップはこんな感じ。
全てのモデルでDDR4 デュアルチャネルメモリに対応しているが、現時点ではメモリクロックがどこまで対応しているのかは不明である。
また、全てのモデルで新チップセットであるX570チップセットと組み合わせると、PCI Express4.0の40レーンに対応する。この40レーンの内、CPU内部で持っているレーン数は24と言われており、16レーンはX570チップセット内にコントローラーが内蔵されていると言われている。
気になるのは、最上位のRyzen9 3900Xのキャッシュだけが他モデルと比較して2倍の64MBになっているというところ。
これがマルチチップモジュールによってCPU chipletが2個搭載されているという証でもある。
この構成を見ていると、何となくRyzen9 3900XE(仮)とかって16コア/32スレッドのCPUが登場しそうな気がしないでもない。
シングルスレッド性能
今回の第3世代Ryzenでもっとも注目すべきポイントは、そのシングルスレッド性能の向上である。
既にCinebench R20のスコアが掲載されているのだが、それによるとシングルスレッド性能でRyzen 3000 seriesがCore i 9000 seriesを数%上回る数字を出しているという。もちろん、Boost時周波数の稼働時間などその挙動を考慮すべきポイントがあるのは事実だが、現時点ではCoffee Lakeぐらいの性能に迫っている事は間違いなさそうである。
シングルスレッド性能がコレなので、当然マルチスレッド性能はその搭載するコア数に応じて向上する。
ポイントは、Ryzen9 3900XはCore i9 9920Xを超え、Ryzen7 3800XはCore i9 9900Kを超えるという事である。Intel製CPUと同じコア数であったとしても、その性能を超えた結果が出ているのが見えているという。ここに来てようやくAMD CPUIはIntel CPUを超えたと言えるかも知れない。
しかも、ただ性能を超えただけでなく、Core i9 9920Xは1,000ドルを超える価格設定だが、Ryzen9 3900Xは499ドルという設定になっている。半額でその性能を超える…またしてもIntelは新たな壁にぶち当たったと言えるかも知れない。
Radeon RX 5000シリーズ
もう一つAMDから発表されたものが、期待高まるNaviアーキテクチャ搭載の新GPUである。
7nmプロセスで製造されるという事は前々から言われていたが、その中身については従来の噂とは異なる結果で発表された。
搭載されるアーキテクチャとしてNaviは長らく2011年から続くGraphics Core Nextの改良版だと言われてきた。しかし、今回の発表で明らかになったのは、NaviはそんなGraphics Core Nextの改良版ではなく、SIMD設計を大きく変更したRadeon DNA(RDNA)と呼ばれる新しいアーキテクチャを採用している事が発表された。
このRDNAは、Vegaと比較して1.25倍のIPCを実現したとされるもので、オンチップのキャッシュ階層なども見直され、より多くのGraphics Pipelineを搭載しているという。この結果、今までのRadeonが一番の問題としていたワットパフォーマンスは50%向上したという事である。
さらに、PCI Express4.0への対応とGDDR6をサポートする事が明らかになり、ミドルレンジ以下のビデオカードでもHBM2.0のような高価なメモリでなくても速度の出る製品構成が取れるようになった。
また名称については、Radeon RX 5000シリーズと今まで噂だったRX 3000シリーズではない名称となった。
最初に投入されるのがRadeon RX 5700で、性能的にはNVIDIAのGeForce RTX 2070と同等か超える程度とされている。
但し、現時点ではレイトレーシング機能をハードウェアレベルで実装しているとは言っていないので、新機能については不明である。
…ココは噂通りレイトレーシング機能は含まれていない、と見るべきではないかと私は思う。
ライバルの動き
今回のAMDの発表を踏まえて、ライバルとなるIntelやNVIDIAの動きも気になる所ではあるが、現時点ではNVIDIAは大きな動きはないのではないかと私は思っている。
というのは、絶対的性能では依然としてNVIDIAの方が優位にあるからだ。価格的に高いという問題もあるが、レイトレーシング機能を既にハードウェアレベルで実装しているし、しかもハイエンドだけでなくミドルレンジ以下の製品ラインナップも充実している。ある種、グラフィックス界の絶対王者の地位は揺らいでいない。
対するIntelは問題が多い。
なんとか意地でラインナップを広げ、AMDを超える性能を持つ製品を出してきてはいたが、ここに来てシングルスレッド性能でAMDが大幅にIntelに近づいた。しかもコストパフォーマンスでは圧倒的にAMDが優位である。
となると、Intelも何かしら起爆剤になるような製品を投入する必要があるが、その準備が果たしてあるのか…?
とりあえずIntelは10nmプロセス製造で作られるコアを普及価格帯で投入できるようになる話は発表されたが、ハイエンド方向の話は聞かない。今回のComputex 2019で、何かしら新しい情報が公開されるか気になる所である。
しかし…第3世代Ryzen、スゴイねぇ。
あの価格でこの性能なら、選ばない手はないとすら思えるのだが、問題はやはりAMD製CPUの最大の弱点であるAVX2の性能の伸び悩みがどうなったか、という事か?
コレばっかりは最適化などの問題もあるので、如何ともし難い問題なのだが…。