Appleがどう動くのか?
Ice Lake
台北で行われているComputex 2019で、AMDからはZen2アーキテクチャの第3世代Ryzenが、Intelからは10nmプロセスのIce Lakeがそれぞれ発表され、新世代のCPUの情報が公開されたわけだが、ノートPCというモバイル視点で見たときに注目されるのは、間違いなくIntelの10nmプロセスCPUであるIce Lakeとなる、と私は見ている。
Zen2は、新世代技術としてPCI Express4.0の対応が含まれているが、一つ問題がある。それはデータ転送レートが従来のPCI Express3.0に比して倍になったと同時に、それがために発生する熱量が大きく、現在チップセットでも冷却ファンが必要になるのではないか、と、対応チップセットであるX570を搭載した各ベンダーのマザーボードもチップセットに冷却ファンを搭載したモデルが多数存在する。
このような状況で、Zen2を搭載したノートPCというのは、今の段階ではちょっと考えにくく、間違いなくZen2搭載PCはデスクトップを想定する事になる。
一方、IntelのIce Lakeは、Intel自身がモバイル用と謳っているように、完全にモバイルに適したモデルになっているとみられる。
先日も当Blogで書いたようにIntelの10nmプロセスはまだ回路性能が低いものになっている。理由も先日書いたが、配線ディレイの関係から動作クロックが思った程引き上げられない。その代わり、アーキテクチャ拡張によってIPCを維持させたのがIce Lakeであるため、ワットパフォーマンスがとても重要になるノートPCにとっては、Ice Lakeは最適解と言える。しかも、Ice Lake世代ではIntelのCPU内蔵グラフィックも11Genになり、かなり性能が向上している。これはもうモバイル用途として使う上で現行世代ではこれ以上のものはない、と言えるぐらいのものではなかろうか?
Thunderbolt3
2017年の5月に、実はIntelは次期CPUにThunderbolt3コントローラーを内包すると発表した(http://j.mp/2Ic13J9)。この当時から、この話はAppleが裏で糸を引いていたような話が出ていて、その理由がThunderboltという規格自体が、IntelとAppleの共同開発したものだから、という事だった。
この話があってから2年が経過したのは、Intelの10nmプロセスの立上げに時間がかかったからとは思うが、ここに来てようやくThunderbolt3コントローラーがIce Lakeで内蔵された。その間、Thunderbolt3規格は、ノートPCのドックに多用されるようになっていて、俄に普及速度が加速している状態にある。
何故ノートPCのドックに使われているかというと、このThunderbolt3規格は、物理的な仕様とソフトウェアプロトコルが分離しているため、DisplayPortだったり、USB3.xだったり、PCI Expressだったりと、いろんな規格の接続に利用できるためである。
このように、昔よりずっとThunderbolt3は一般的になっている中で、Ice Lakeのモバイルに特化したかのような仕様を考えると、AppleがこのIce Lakeの特性を見逃す事はないな、と私は見ている。よって、2018年にMacBook Air、2019年にMacBook Proがそれぞれアップデートされたが、私は2019年もしくは2020年早々に再度これらのアップデートが来るのではないかと予想している。
最大4ポート
今回、Ice Lakeに実装されたThunderbolt3コントローラーによって、最大4ポートまでThunderbolt3を実装できるようになる。
つまり、今のMacBook Proに搭載されているポート数は4つなので、完全に対応できるわけである。MacBook Airに関しては2ポートなので、より安価なSKUで対応できるかもしれない。
ただ、このIce Lake内蔵のThunderbolt3コントローラーだけではダメで、別途「Retimer」と呼ばれる複数の信号を1つに束ねるコントローラーが外付けになっているので、これはAppleがIntelから供給を受けねばならない。また、USB PD(Power Delivery)のコントローラーも別途必要なので、これらを基板上に実装する必要はある。
しかし、もともとAppleはMacBook ProにもMacBook AirにもThunderbolt3を実装しているので、これらの外付けコントローラーを今も実装している。別に追加するわけではないので、何ら困る事はないだろう。逆にThunderbolt3コントローラーはCPU内に存在しているので、部品点数からすれば削減され、コスト的には有利になる。
メモリもローパワーで
さらにIce Lakeを実装する上での利点が、DDR4の低電力メモリを利用出来るようになるというのもある。
今までMacBook ProもMacBook Airも、搭載されているメモリはLPDDR3で最大16GBという設定しか選べなかった。
これはメモリ周りの仕様の関係から避けて通れなかったワケだが、Ice Lakeを採用する事でLPDDR4を使用する事が出来る様になり、最大32GBという選択肢が生まれる事になる。
メモリ速度向上は、純粋に全体のパフォーマンスアップにつながるので、Appleとしてはこの部分の魅力もIce Lakeを採用する基準になりそうだ。
ただ、LPDDR4で唯一問題になるのは、メモリの後付ができないという事だろう。LPDDR4は、基板上に実装する必要があり、ソケットが用意されていないので容量別バリエーションはメーカーで最初に準備する必要がある。
ただ、これらの問題を背負ったとしても、Ice Lakeを採用する事のメリットはさらに大きい事を考えれば、採用しない理由はないと考えられる。
他にもWi-Fi6の対応だったり、いろんな面でアップデートが行われているIce Lakeだけに、現行のMacBook ProやMacBook Airに入れ替えるだけでも相当にメリットがあると考えられる。
正直、ここまで大改革が行われたのは、Haswell世代になった時以来なので、入れ替えない理由はないのだが、単純にCPU入れ替えで済む話でもないので、設計する時間を考えれば来年の登場となる可能性は高い。
そもそも、噂レベルではあるが16インチのMacBook Proが2019年に出るのではないかとという話もある。
できれば、それに合せてMacBook Airの刷新も同時に行ってもらいたいものである。