いよいよ出てきた低電力版。
Core i9 9900T
Intelから一年程前に発表されたCore i9 9900Tだが、長い間製品は流通していなかった。
通常、Intelの低電圧版となるTシリーズは、そのTDP(熱設計電力、Thermal Design Power)は35Wになるが、最近の多コア系CPUでも同じラインで製品化されるかはわからず、どうなるのだろう? と思っていたのだが、肝心の製品が出てこないので、その実体はわからずじまいだった。
ところが、どうもひっそりとTシリーズの販売が始まっているようで、取扱いを開始した店舗があるようである。
取扱いが始まった製品スペックを見ると、やはりTDPは35Wのようで、8コア/16スレッドが35Wで動作するという、従来と変わらない低電力ぶりである。
但し、動作クロックが遅く、ベースでは2.1GHz、ブースト時で4.4GHzと、実にベースとブーストで動作クロックの差が激しいコアになっているようである。
このようなスペックだと、動作性能の良し悪しは使い方によって大きく変わるとも言えるワケで、個人で使う上では使いにくいCPUになったかな、という気がする。
10nmはモバイルのみ?
このCore i9 9900T以外にも、Core i5 9600T、Core i5 9400T、Core i3 9300Tと、他製品も出回っているようだが、Core i7 9700Tだけはまだ出回っていないようである。
8コア/16スレッドのCore i9 9900Tと、8コア/8スレッドのCore i7 9700Tは、その動作クロックの設定によって、おそらく使い方で性能が逆転する可能性があり、扱いが難しそうな気がする。
効率を良くしたCPUは、見せるパフォーマンスの傾向がちょっと異なるので、読みにくいところがある。
そういう意味では、10nmプロセスのIce Lakeも同じような傾向ではないかと考えられる。結局、Ice Lakeは高クロック動作させられないので、アーキテクチャ的に処理するトランジスタを増やし、絶対性能の低下を防いだ。
しかし、トランジスタの他部分の影響で結局動作クロックを引き上げられない事から、Ice Lakeはどうもデスクトップ版は完全にキャンセルとなり、デスクトップ版の新しい製造プロセスは次の7nmプロセスまで持ち越されるらしい。
つまりそれまでは14nmプロセスの進化型で繋ぐという事らしい。
これではAMDとの差は開く一方になってしまうのではなかろうか?
AMDは既にZen3の設計を完了しており、そのIPC性能はZen2の8%増となる事を公表している。
省電力性と高性能を実現しようとすれば、どうしても製造プロセスの微細化は必要になるので、場合によってはIntelはデスクトップでかなり不利な状況で数年を過ごさねばならない可能性がある。
しばらくはAMD一択?
予測で判断するしかないのだが、自作PC市場のエンスージアスト向けPCやハイエンドデスクトップ向けは、数年はAMD一択の時代がやってくるかも知れない。
エンスージアスト向けは、低価格Xeonが頑張ればRyzen Threadripperとまだ勝負できるかもしれないが、それでもダイサイズでどこまで勝負できるかはハイエンドデスクトップ向けと同じ問題を抱えることになる。Intelももちろん何か手は打ってくると思うが、現時点ではIntelがかつて持っていた製造におけるアドバンテージはもう存在しない。
どの業界でも同じだろうが、自作PC市場ではどちらかの一方の企業が強者になるのはあまり喜ばしい事ではない。
常に競争が起きていないと、技術的向上がないし、価格的な魅力が出てこないのである。
AMDは不調だった状況を上手く改善してきた結果が今現れているのであり、今度はIntelがその長き不運時代を経験する事になるのかもしれない。
ただ、そんな中にあってIntelが存在感を放つのが、ディスクリートGPUへの参入であり、CPUで後退する分をGPUによってカバーするという企業戦略もあるのかもしれない。
ま、IntelはCPUだけでなくGPUやメモリなどにも注力しているので、企業としてはまだまだ安泰なところがあるので、しばらくは我慢どころかもしれないがCPUの復権もそのウチにやってくるだろう。
…安直な予想だが、大きく外れてはいないと思う。