本格化するIntel製GPU、その登場を待ちわびる。
開発者向けのDG1
Intelが米国ラスベガスで開催されているCES 2020で開発者向けGPUボード「DG1」を発表した。
正確に言えば、CES 2020の開催日前日である1月6日に記者会見を行い、その場で発表されたのだが、そこで発表されたのはIntelが現在開発している次世代GPUアーキテクチャとなる「Xe」に基づいた単体GPUを搭載したノートPCのデモだった。
その後の9日には、単体GPUボードとして「DG1:Software Development Vehicle」を第1四半期中にソフトメーカーに出荷する計画である事を後悔、PCI Expressのアドインカード形状であるビデオカードを公開した。
Intelが単体GPU市場に登場スルのは10数年ぶりになる。
過去、Intel 740というビデオカードを出荷した事はあるが、その当時はまだ「GPU」という言葉すら定義されていない時代だった。ちなみにGPUという言葉が登場したのは1999年のNVIDIAから発売された「GeForce 256」が登場してからの事である。当時はNVIDIA、ATI(今のAMDの事。ATIはAMDに買収されている)だけでなく、Intel、3Dfx(後にNVIDIAが買収)、Chips and Technologies、MatroxなどといったメーカーがGPU市場に参入していたが、ご存じの通り、現在残っているのはNVIDIAとAMDの2社だけである。この2社体制になったのは、2006年にATIをAMDが買収した時から続いているので、もう14年近くが2社競争の市場になっている、という事である。
この2社しか残らなかった市場にIntelが帰ってくる。正直、その事実だけでも私としては良いことだと思っている。
競争が激化しないと、技術は向上しない。もちろん2社競争でも技術は向上していくが、競争相手が多い方が技術に多様性が生まれる事は言うまでもない。
ただ、Intelそのものは、GPUの設計や製造をしていなかったわけではない。古くはチップセット内GPU、現在ではCPU内蔵GPUを自社内で設計開発、製造していたので、全くド素人状態で戻ってくるという事ではないのだが、従来よりIntelのGPUはその性能としてNVIDIAやAMDのGPUからみて、性能的に劣っていると言わざるを得ないレベルでしかなかった。それはGPUとしての規模が大きくないからという理由もあるが、NVIDIAやAMDほど重点的にGPU開発にリソースを割いていなかった、という事情もあるのではないかと思っている。
Xeアーキテクチャ
そんなIntelが、ここ最近GPU開発にリソースを割いている、という話が出ていた。AMDから技術者を引き抜いたとかいう話もいろいろ出ていたし、現在のIntel Graphicsのアーキテクチャから脱却して新しいアーキテクチャでGPUを刷新するという事なのだろう、と当時は言われていた。
実際、Intelの10nmプロセスで提供される第10世代CPUであるIce Lakeでは、アーキテクチャを大幅に変更してはいないものの、Intel GraphicsのGen.11世代として搭載したGPUユニットはアーキテクチャだけでなく演算ユニットの追加等で内蔵GPUとしてはRyzen7 3700Uを上回り、第2世代Ryzen Mobileの性能を上回ってきた。今まででは考えにくい結果である。
そんなIntelがXeというアーキテクチャを立ち上げた。
これは従来のような内蔵GPUだけでなく、単体GPUもターゲットに見据えたアーキテクチャだという。
スケーラブルな設計になっていて、深層学習向けのHPCから、モバイル向けの薄型製品までをカバーするようで、あくまでもXeはそれらの共通アーキテクチャだという。このスケーラブルな作り方はNVIDIAも同じで、唯一AMDだけがハイエンド市場にVegaアーキテクチャ、民生にRDNAアーキテクチャと使い分けている。
だが、GPUはハードウェアだけで成立するものではない。
NVIDIAやAMDはゲームメーカーなどに長年パートナーシップを構築していて、新作メジャータイトル毎に新しいドライバをリリースして最適化している。この最適化の如何によって、ハードウェアをどこまで使い尽くすかが決まる。
Intelもその辺りは分かっているようで、従来より早くドライバが更新される仕組みを構築していくという。
それに合せ、Intelはソフトウェアメーカーに「DG1:Software Development Vehicle」を提供出荷していく。
まだまだこれから
もちろん、この話は今浮上したばかりで、今すぐどうにかなる、というものではない。
今回の「DG1:Software Development Vehicle」提供は、あくまでも独立系ソフトウェアベンダーが、機能やソフトウェア互換性を☑する為の環境構築用として提供するレベルの話である。
しかも、配付される「DG1:Software Development Vehicle」は、ノートPC向けと考えられる。その理由は、提供されるビデオカードには外部電源のコネクタが見当たらず、PCI Expressが供給できる65Wの電力で動作するものとかんがえられるからだ。
NVIDIAやAMDのハイエンドビデオカードでは既に消費電力が280W等のものが存在するので、消費電力で見ればDG1はまだまだハイエンドと言えるGPUではない。
ただ、それでも評価用ビデオカードが提供されたという事は、このXeアーキテクチャそのものは、そう遠くない内に市場に登場するものと考えられる。
実際、CES 2020で公開されたTiger Lakeには、XeアーキテクチャGPUが内蔵され、それがデモンストレーションされていた。Intel側からは「Tiger LakeのXeベースの内蔵GPUは前世代に比べて倍の性能を発揮する」と言っているようで、Ice Lakeで倍になった性能は、Tiger Lakeでさらに倍化する事になる。AMD、大丈夫か?w
ここで考えなければならないのは、Tiger Lakeは最適化されたとはいえ、基本10nmプロセス(正確には10nm+)で製造されていて性能が倍になるという事である。アーキテクチャとして過去のIntel Graphicsよりも相当に拡張されているとみて良い。
ある意味、恐ろしい時代になったと言えよう。
こうなると、NVIDIAとAMDの動きが気になってくる。
少なくともAMDは黙ってはいられないはずだ。既に第2世代Ryzen Mobileの性能を超えてきたIce Lakeへの対抗もあるし、その後ろに控えているTiger Lakeを考えれば、RDNAアーキテクチャをさらに改良していかないと、その性能に対抗していけない。
三つ巴となったGPU業界は、今年は面白くなりそうである。