Intelの10nmプロセスがようやく正式発表。
速度が出ない
台北で行われているComputex 2019の基調講演で、Intelが10nmプロセスで製造される「Ice Lake」を正式発表した。
今回公開されたのは、4コア版のもので、11Gen(11世代)のIntelグラフィックスコアを内蔵したものとなる。
CPUコアの最高周波数は4.1GHzとなり、Simultaneous Multithreadingで8スレッド実行となる。この「Simultaneous Multithreading」が従来の「Hyper-Threading」と何が違うのかは…私はわからない。
また最高周波数の4.1GHzは、15w TDPクラスのCPUとはいえ、ライバルのAMDの7nmコアから比べても低いように思われるが、もともとIntelは10nmプロセスでは回路性能が落ちるという事を予告していた。現時点で、10nmプロセスの第1世代と第2世代では回路性能は低くなるとみて、間違いはないと思われる。
では何故そうした回路性能が低くなるのかというと、恐らく10nmプロセスでは半導体回路の配線が細くなり過ぎて、配線抵抗が増加しているためと考えられる。トランジスタそのもののスイッチングが微細化によって速くなったとしても、配線ディレイが増加すると速度は相殺されてしまう。
ではAMDなどが委託しているTSMCなどの7nmプロセスでは、何故このような問題が発生しないかというと、数字を並べてはいるが実際Intelの10nmの方がTSMCの7nmよりも配線間隔(これをメタルピッチという)が狭く、余裕がないからである。
TSMCの7nmのメタルピッチは40nmと言われているが、Intelの10nmのメタルピッチはおそらく36nmになる。このメタルピッチが狭くなると、配線破損の可能性が高くなるため、Intelは配線材料を銅からコバルトに変更している。ところがこのコバルトは銅よりも抵抗が大きいため、配線ディレイが増加する。Intelが長らく10nmプロセスの立上げに苦労していたのは、この部分が大きな原因と考えられる。
このため、性能を確保するために、IntelはSunny Coveではアーキテクチャの拡張を行って周波数あたりの性能を引き上げている。要するに動作周波数が低くなっても性能を落とさない方向に振ったわけである。逆を言えば、ワットパフォーマンスの非常に高いコアになったとも言えるが、性能の頭打ちがあるという点で考えると、ハイパフォーマンスCPUとして使用するのには問題がある、という事でもある。
ただ、このアーキテクチャの拡張に伴い、AVX-512ユニットが標準で搭載される事になったので、深層学習性能の向上という面では魅力的なコアとは言える。
内包されるGPU
前述した通り、Ice Lakeでは統合するGPUは11Genで新設計になる。
EU(execution unit)は64基で、1.1GHz駆動時に演算性能は1TFLOPSを超える。が、これは明らかにメモリ帯域とのバランスが取れていない。GPUコアが得意とする動作では、キャッシュの効果が薄いのでこのバランスが取れていない部分は問題である。
となると、考えられるのは高速なメモリとの組合せであり、可能性としてHBM2を使ったオンパッケージの広帯域メモリのソリューションが予測できるが…果たしてどうなるのだろうか?
このあたり、私も詳しくないので何とも言えないが、Iris Graphicsの時のようなeDRAMで解決できる問題とは違う可能性もある。
また、この11世代のGPUユニットになった事で、実装された機能もいくつかある。
HEVCエンコードエンジンがデュアル構成となり、最大で4K/60fpsないし8K/30fpsの動画をエンコードする事が可能になった。
また搭載するディスプレイ出力は3パイプ用意され、DisplayPort1.4、HDMI2.0bと最新の規格に対応している。またHDRの仕様としてはHDR10、及びDolbyVisionに対応し、さらにAdaptive Syncに対応した事で画面への表現力は格段に向上した。
ディスクリートGPUを必要としない人からすれば、これで十分な機能となったのではないかと思う。
Thunderbolt3、統合
I/Oまわりでは、Thunderbolt3が統合された。
PCI ExpressとUSB系、DisplayPortでPHYを共有する構造となっていて、そこでThunderbolt3もサポートする。
ポートあたりで最大片側方向で40Gbpsの転送レートとなっている。
Ice Lakeのダイ写真で気になるのは、Thunderbolt3のユニットのサイズで、非常に大きな面積を占有しているのだが、これは4ユニットのPHYと、それの各インターフェースユニットが存在する為と考えられる。
また、今回のIce Lakeでは、メモリコントローラーも新設計になり、DDR4だけでなくLPDDR4とLPDDR4Xもサポートされた。
DDR4とLPDDR4ではインターフェースが大きく異なるため、互換のメモリコントローラの設計は難しいと思われるが、それを実現したという事は、相当低電力モバイルを意識したメモリコントローラーと言える。
また、Ice Lakeでは組み合わされるサウスブリッジは14nmプロセスになり、最大の特徴はWi-Fi6 GIG+が統合されているという事。また、オーディオDSPもクアッドコアの新設計になっているため、CPUとチップセットで大凡の最新機能は補完できてしまう事になる。
サードパーティの締め出し…とまでは言わないが、低コストなマザーボードを作ろうと思ったら、ほぼIntel製のCPUとチップセットのみで主要部分を設計できてしまう事になる。
消費者側からしてみれば有り難い話ではあるが、サードパーティからすると頭の痛い話ではないかと思う。
と、今回のComputex 2019のIntelの発表は、モバイルCPUに絞られた感じとして受け取れた。勿論、他にもvPro対応の第9世代コアの発表もあったが、AMDのZen2ほどのインパクトはない。
AMDは逆にモバイルに関する発表がなかったワケだが、新世代の高性能コアという側面では、今はAMDに風が吹いていると言える。