16年ぶりの移植作品だが、これは今売れるのか?
Keyのデビュー作
1999年、PC用ソフトとして発売された「Kanon」は、もともとは年齢制限アリのソフトだった。
当時は年齢制限アリのソフトで販売本数を稼ぐというゲーム開発ブランドが多かったように思うが、その先駆けになったようなブランドが「Key」である。
PCゲームの時はキャラクターボイスなども付けられていない作品だったが、PCゲームが爆発的ヒットし、その後作品は全年齢版として作られ、家庭用ゲーム機にも移植された。
24年前、PS2版にフルボイス版として移植された後、その8年後にPSP版が発売される事になるが、この時には容量的にフルボイスという事はなかった。
兎にも角にも、あらゆる機種に移植されたのが「Kanon」(全年齢版)である。
そして今、ついにNintendo Switchにも移植される事となった。発売は2023年4月30日である。
今度は今までの移植作の中では最高のHD解像度での移植となり、カラープロファイルもSwitchに合わせた再調整版となる。
また、当然だがフルボイス版となる事が謳われているが…これについては多少疑問があるので、後述する。
珠玉の名曲
私が「Kanon」という作品と出会った時、ある意味一つの衝撃を受けた事がある。
「泣きゲー」の名を欲しいままにしたこの作品は、感動的なストーリーが売りではあるのだが、その感動をより大きなものにしていたのが、そのBGMなどの曲である。
とにかく当時としては、これほどまでに美しい旋律をもった曲を実装したゲームは少なかったのではないかと思う。
ちょうど、I’veという名が有名になったのもこの頃である。「Kanon」のOP曲とED曲の編曲をI’veの高瀬一矢氏が担当した事がキッカケだったと記憶している。
I’veがその後躍進する事になるのはこの「Kanon」がキッカケだとは思うが、私が衝撃を受けたのはそこではない。
KanonのBGMは、折戸伸治氏が数多く手がけているが、この折戸氏作曲のBGMが特に秀逸で、感情をガンガンと揺さぶってくるのである。
私が、作品の良し悪しを決める大きな要素は音にこそある、と考えるキッカケとなった作品がこのKanonである。逆を言えば、音さえよければ駄作も数ランク持ち上がるとさえ当時は思ったものである。
まぁ、それは言い過ぎかもしれないし、答えとしては間違っているかも知れないが、音が良いと感情を直接揺さぶってくる事に違いは無く、画や映像は拙くとも、紡がれるテキストと音楽が感情を揺さぶってさえくれれば、人は脳内の想像力で珠玉のワンシーンを作り上げる事さえできる…そう思わせたのが印象的であった。
キャスト
前述したが、本作はフルボイスで制作されているが、24年前にPS2版を作成したころはまだ新人や駆け出しの声優も、2023年の今ではもうほぼ全ての人がベテラン、大御所と呼ばれる存在になっている。
中には残念な事に既に亡くなられている方もいる。若くして亡くなった故川上とも子氏である。
今回、Switch版には、それらオリジナルのキャストの声とされているのだが、どうも再録したとは考えにくいところがある。本来、このようなリメイク作品というのは、大凡にして再録するのが業界の常であった。
これは、声優の仕事を絶やさないという意味もあったりして、私が少なくとも業界にいた頃には当たり前の措置だったのだが、どうも今回は既に収録されている過去の音源を利用していると考えられる。というか、そうでなければ成立しないハズで、確定ではないがおそらく再利用ではないかと考えられる。
こうした、オリジナルの音源を再利用するような形となったのは、声優という職業が今のような人気職になった為、新たな仕事を用意する必要が無くなったからなのか、それとも別に意図があるのかは分からない。ただ、恐らくは今後、このような形が取られる事が増えてくるだろうと思われる。
思うに、これは良し悪しがあって、24年も経過した作品であるから、そもそもオリジナルのキャストで編成するかどうかからして考え直しても良かったのではないかと思える部分でもある。
残念だが、これは致し方ない問題であり、時が経てばオリジナルを諦めなければならない時が必ずやってくる問題である。そしてそうすることで新しい世代を育成していく事にもなる。
Switch版は、オリジナルのキャストの声に拘ったのか、過去の音源を利用するようだが、新たな方向性を見出すチャンスに成り得たかも知れない。
Kanonが復刻する。
とりあえず、あのシナリオにあの楽曲。それを体験した事のない人は、一度ぜひ体験してもらいたい。
これ以上の説明は不要だと思う。
見て、聞いて、感じて。それが全てである。