数年前、私はx86コアのCPUにおいてAMDがIntelを超えたと思った時期があった。
もちろん、それはシェアという意味ではない。
テクノロジーという意味であり、AthlonというCPUが出た当時はこれに勝る民生用x86コアはないと思った。
事実、当時のIntelはPentium 3で消費電力が150wに届く製品で性能が伸び悩んでいた。
それに対し、Athlonは動作クロックがPentium 3よりもずっと低いにも関わらず、高いスループットで動作、高い性能を保持していた。
結局、Intelはその後モバイル用として作られたPentium Mへと主力を移し、そのPentium Mをベースに進化したCore2へと進んだ。そのPentium Mの内部構成は、不思議とAthlonに似て非なるものであり、結果IntelはAMDと同じ路線を進む事になった。
つまり、Core2のベースはPentium Mではなく、Athlonにあったと言えるだろう。
それが数年前の出来事であり、現在は? というと、IntelがCore2で市場を席巻、そのシェアはとんでもなく高いものとなっている。
しかし、2011年は再びAthlonのような現象が起きるかもしれない…と私はそんな予感がしている。
写真はPhenom 9850であり、このPhenomの存在が2011年のAMDを支えるのである。
2011年、AMDはBulldozerアーキテクチャによって8コアを載せてくる。
このBulldozerコアだが、基本はPhenomにある。
ただ、製造プロセスが32nmへと進むため、パフォーマンスCPUにおいてそれに対してのコア数を搭載し、8コアとなっている。
だが、対抗のIntelはパフォーマンスCPUであっても6コアしか搭載してこない。
理由は単純で、コスト的になんとか成り立つ面積である200平方mm台において、8コアを載せることができないからだ。
だが、不思議とAMDは8コアを載せることが出来るという。
一体なぜ?
これにはAMDの基本思想が大きな意味を持ってくる。
Intelは言わば全部載せで6コアを実現するが、AMDはスループットから考えたコア構成を取ることで8コア搭載を可能にしているという。
つまりこういう事である。
通常、微細プロセスが1つランクアップすると面積は2倍になるため、普通であれば倍のコアを搭載する事ができる。
しかし、実際にはコア以外の実装部分が存在するため、プロセスが1つ進化しても倍のコアを載せるのが難しい。
しかし、AMDは効率良く動作するために必要な機能を選別し、必要な機能部分を倍化させ、共有しても性能的に問題のない部分を共用させるという手法でコアを倍化させたというのである。
つまり、Intelよりも処理効率重視でコアを整えた結果、実装コア数を単純計算で2倍にしたという事である。
であるからして、おそらくIntelからするとAMDが主張する8コアという数字を否定するかもしれない。何しろ部分的に数が足りていないのだから。
しかし、AMDはこのスループットという部分であらゆる角度から検証した結果で、間引いたらしい。
実はCPUとは通常動作している部分は整数演算ユニットがほとんどであり、浮動小数点演算ユニットはごく稀にしか動作していない。
もちろん、浮動小数点演算が必要になったときには、整数演算ユニットよりも圧倒的な速さで命令を処理するのだが、そもそも必要とされるケースが少ない。
Intelはこの浮動小数点演算ユニットも含めた上で1コアと数えているが、AMDはこの浮動小数点演算ユニット部分を共用化し、整数演算ユニットのみを倍化させたのである。
もし仮に浮動小数点演算ユニットを多用するようになった場合は、浮動小数点演算ユニットの内部を2分化、並列処理させる事もできるし、また全てのリソースを片方のCPUに割いて高速化させる事もできる。
実に柔軟性の高い手法だが、Intelからすればこれを2個分のCPUとは認めないだろう。
Intelは全部載せCPUにHyper-Threading機能を搭載し、余ったリソースでスレッド数を増やすという手法を採っている。ハードウェアとしては間違いなく謳っているだけの数を搭載しているが、これではスレッドレベルで最高パフォーマンスを得る事が難しい。
一方、AMDの方法なら、基本は2個分のハードウェアで頻繁につかうハードウェアである整数演算ユニットで次々とマルチスレッド化させる事ができ、浮動小数点演算ユニット部のリクエストがあれば、スケジューリングして2コアで1つを共有する…実に効率的である。
ちなみにx86コアでは珍しいかもしれない今回の手法だが、Linuxの世界では特に珍しい事ではないらしい。
今回のAMDの割り切り方は、ある種正しく、効率的である。
この効率の良さがAthlonの時と非常に似ていて、2011年にもう一度Athlon の時のようなブレイクがやってくるのではないか?
そういう意味で、2011年がかなり楽しみである。
AMD vs Intelという図式はまだまだ続くだろう。