本日、任天堂は2012年3月期(2011年度)の連結業績予想を下方修正したと発表した。
以前は200億円の黒字としていた純損益は一転して200億円の赤字に転落する…という見通しとなる。前期は776億円の黒字だったが、為替相場の円高傾向に加えて、これまでの販売動向と年末商戦の見通しをもとに販売数量予想を見直したために、200億円の赤字修正となった。
修正後の予想は、売上高は7900億円(従来予想9000億円/前期実績1兆143億円)、営業利益は10億円(350億円/1710億円)、経常損益は300億円の赤字(350億円の黒字/1281億円)としている。
この理由に関してはもう言うまでもないだろう。
明らかにニンテンドー3DSの不振によるもので、ハードウェア本体の値下げ、ヒットタイトルの不在によるソフト販売不振がその理由である。
恐らく、こういう会見の場で岩田社長が笑顔を見せなかったのは、初めての事ではないかと思う。ま、結果が結果だけに、笑っていられないだろうと思うが。
ニンテンドー3DSというハードウェアは、個人的には決して悪いハードウェアだとは思っていないが、任天堂を牽引できるだけの個体だとも思っていない。
使ってみればわかるが、基本的に立体視ができる以外は普通にDSと同じなのである。もちろん、グラフィックス性能は劇的に進化していたり、ジャイロ機能を搭載している事で遊び方に幅ができているわけだが、問題はこのジャイロ機能と立体視が思っているほど両立しないという事。
ジャイロ機能は本体を持っていろんな方向に向いたりする事で画面も同じ方向を向いたりして立体空間を感じる事のできる機能(説明として難しいな…)だが、そうやって本体をいろんな方向に向ける動作を素早く行ったりすると、立体視の効果があまり感じられなかったりする。相殺してしまう機能…とまでは言わないが、組み合わせや使いどころが難しい機能である。
対するライバルであるSCEのPS VITAも、私としては決して良いハードだとは思っていない。
12月17日に発売されるPS VITAは、確かに魅力的なインターフェースを多数持つガジェットではあるが、私からするとこのハードで5年戦えるのか? という疑問が残ってしまう。
元SCEの久夛良木氏は、数々の新機軸でSCEをSonyの中核事業企業へと押し上げた人だが、久夛良木氏も万事成功者だった訳ではない。だが、氏の作り上げてきたハードには一貫した信念のようなものがあり、常に世間にないものを目指してハードウェアを投じてきている。
しかし、PS VITAにはその“常に世間にないものを目指した”部分が見えない。見えにくい…ではなく、見えないのである(あくまでも個人的見解)。
だが、少なくともニンテンドー3SDと比較した時、PS VITAがニンテンドー3DSに負けるという気がしない。それも完膚無きまでにPS VITAが勝つと思える。
私のこの感性と同じようなものをほとんどの人が感じているのではないかと思う。
そして任天堂の中の人たちも、少なからずそう思っている可能性が、今回の200億円の最終赤字予想をはじき出したのではないかと思う。
岩田社長は「ハードの普及が先行して収益に悪い影響が出た」という話だが、そもそもあの値下げにも問題はあったと言える。
だが、もっと言えば最初の販売価格である25,000円に問題があったのかもしれない。
初期普及の伸びがあまりにも悪かったのは、明らかに初期価格の25,000円が響いていると思われる。もちろん、それに付随して発売されるソフトにも問題はあったワケだが、東北大震災時にソフトの販売を自粛した結果、本体発売後の全体的な盛り上げムードというかトーンが急激に下がったとも言える。
全てがマイナス方向に向かった結果が、今回の結果とも言える。
任天堂としては、さらなる呼び水を入れないと、低迷したDSプラットフォームやWiiプラットフォームからの脱却が出来なかったのかもしれないが、もっと腰を据えて展開を見るべきだったと言わざるを得ない。
元々スマートフォン台頭の時に、任天堂はあくまでもゲーム機で勝負する姿勢を見せたワケなのだから、そのゲーム機で足下をすくわれてしまっては意味がない。
WiiUも個人的には危うい製品と見ている。もう少し情報が出てこないと何とも言えないが、PS VITAがPS3のコントローラーになる、という機能を持つ事から、WiiUのポイントの一つを先行されてしまう所にも幾分か問題が残る。
エポックメイキングな製品を世に投じる事は、時に大失敗をする事もある。それは前述の久夛良木氏もそうだし、そもそも成功を収めたゲームボーイをこの世に産み落とし、反して大失敗したヴァーチャルボーイを生み出した横井軍平氏の前例もある。そして言うまでもなく、かのスティーブ・ジョブズも同じである。でもこれらの人達は全体的にみて失敗した人達かと言えば、決してそうではない。むしろ成功者である。
今の任天堂は、ヴァーチャルボーイ時代と同じ逆境を迎えたと言える。
あとはこの逆境をどうやって脱出するか? という事だ。
宮本茂氏の手腕が問われる…とは言いすぎかもしれないが、今の任天堂で氏のエポックメイキングな部分を遺憾なく発揮しないと、この逆境からの脱出は難しいのではないかと思える。
ま、私は今しばらく静観しようと思う。
ただ、新しいガジェットが好きなワケで、今の所発売される携帯ゲームハードウェアは何とか押さえてはいるが、それが成功しようが失敗しようが構わない。
その中でどのような希望を見せてくれるのか?
今はそれをただひたすら待ちたいと思っている。