家電メーカーのシャープがついに5,000人という人員削減を決めた。
言うまでもなく、液晶テレビ事業の不振によるもので、台湾の鴻海精密工業との提携だけでは収益改善が進まなかった為だ。
シャープという会社は今年創業100年になるが、人員削減を行うのは今回で2度目。1度目は1950年、ラジオ事業が低迷した時で、その時は600人の従業員の内200人以上が「会社を倒すべきではない」と社員が自らを手を挙げ退職を志願したという。この事があってから、シャープでは社員削減だけには手を付けず、苦境を乗り越えてきた。
しかし、今回はさすがにどうにもならなかったのだろう。ついにシャープにとって聖域と言えるリストラを5,000人という規模で敢行する。
これは三重県亀山市にあるシャープ亀山工場。
「世界の亀山」というブランドまでできる程の優れた液晶を生産した亀山工場建設が発表されたのは今から10年前の2002年。第1工場の本格稼働が始まったのは2004年の事だから、それでもまだ8年しか経過していない。この第1工場では第6世代パネルが採用され、2006年には第8世代パネル採用の第2工場が稼働を開始した。これにしても6年前の話である。
だが、第2工場稼働から約2年半後の2008年末に初めての減産という事態となり、その半年後には休止中の第1工場の設備売却という事態に深刻化している。
もちろん、この減産を行った背景には、2009年に稼働を開始した堺工場の影響もあるのだろう。
堺工場は敷地面積が約120haと実に広大で、液晶パネルと太陽電池パネルの生産を主眼とした工場で、最新鋭の稼働システムと環境配慮を導入した21世紀型の工場である。
これら最新鋭の設備を持っていたとしても、今の不況を乗り切る事が難しく、今回のリストラを敢行せざるを得ない状況となってしまった。
正直言えば、私はシャープという会社が好きだった。
初めて触ったパソコンはシャープのX1Cだった。ファミコンの中身がシャープ製という事を知って歓喜し、X68000が発売されたときには国内メーカーでここまで面白いハードを作る会社はシャープかSonyくらいしかないと思っていた。
それに液晶パネルにしてもシャープのASV液晶パネルは革命を起こしたと思っている。SCEのPSPが成功した背景には、このASV液晶があったからだと思っている。
今でこそシャープは液晶メーカーだとたくさんの人が知っているが、シャープは他の家電メーカーから比べても10年先行して液晶に注力してきていると言える(少なくとも私はそう思っている)。
また、携帯端末に関しても他社よりは先行していたように思う。Zaurusは電子手帳の走りのような端末だったが、それなりの市場規模を形成していた。
シャープが発売した製品は独自進化したハードが多い印象もあるが、それだけに珍しく、個性的な製品が多かった様に思う。
だが、最近のシャープには昔のような新しい試みはあまり感じられない。
ガラパゴスを発売した時に直感的に感じたのだが、アレはZaurusの頃にあったような精神を全く感じないものだった。
X68000が登場した時の感動が欠片も感じられなかったのである。
どうみてもiPadの後追い、という感じしか受けられなかったのである。今頃単体で市場を作って行かねばならない製品を投入してどうしようというのか? という疑問しか感じなかった。
iPadはiPhoneとOSを同じくし、しかもiPhoneのアプリの大部分を使う事ができたから、ガラパゴスとの差は大きいと思えた。
実際、ガラパゴスのその後の動きは推して知るべし、である。
こういう流れを見てみると、どうもシャープは2008年前後から変な方向を向き始めているような気がしてならない。
おそらく、液晶パネルの生産含めて、未来に対する設備投資の方向性を誤った事が大きな原因かもしれない。
だが、これに関して言えばシャープだけが該当する問題ではない。Sonyもパナソニックも同じだし、既に姿を消してしまったサンヨーなども同じだったに違いない。
逆に、ものすごい規模で大きくなったのは、日本以外のアジア勢である。
結局は、日本企業はリスク回避の方向を間違え、日本政府はそれを救済できる体制を作りきれなかったという事ではないかと考える。
私は常々思う事がある。
日本という国は、決してミニアメリカになってはいけない国だったと思う。
しかし、日本はアメリカを常に手本として国策が運用されてきた。そして企業体質もアメリカナイズになった。
これが大きな足かせになって今に至っているような気がしてならない。
日本は技術立国なのだから、同じく技術で名を馳せる国を手本とすべきだった。だからアメリカよりもヨーロッパ、特にドイツを手本とすべきだったように思えてならない。
まぁ…ドイツが正解なのかどうかは別にしても、アメリカを手本としてはいけなかったと思えてならない。
同じ製造業に身を置く者として、今の家電メーカーの失墜ぶりは見ていて恐怖を感じる。
シャープが今回のリストラを敢行し、浮上できるかどうかは分からない。
人によってはエルピーダメモリと同じ道を辿る、という人もいる。
だが、これがシャープだけに留まるなら良いが、その後をさらに追う企業が出てきたとき、日本という国がいよいよ終焉を迎えるような気がして恐怖を感じる。
家電だけが日本産業ではないが、自動車も結局海外進出は止まらない。
従来と同じ事をしていては、先行き不安な状態からは脱する事など出来はしない。
では何が残されているのか?
私は“メイドインジャパン”の強さだけは、失われてはいないと思っている。では“メイドインジャパン”の名を背負う分野は何なのか?
この答え、気づいている人もいるだろう。
今、私はその次世代を担う分野に挑戦していると自負している。