まぁ、2強の戦いに違いはない。
Radeon RX590発売
AMDが12nmプロセスで製造したPolarisアーキテクチャのGPU「Radeon RX590」を発表した。
従来のRX580との違いは製造プロセスが14nm FinFETから12nm FinFETに変わっただけで、アーキテクチャも変わらなければ搭載するユニットも変わらず、またダイサイズにも違いは見られないものなのだが、より性能と効率の改善が行われた結果、今までのものより高クロックで動作可能になっているという違いがある。具体的には、ベースクロックが1,257MHzから1,469MHz、ブーストクロックが1,340MHzから1,545MHzへと上昇した事でパフォーマンスアップが図られている。
このクロックアップにより、RX580よりも10%ほど性能向上しているというのがAMDの公式見解のようだが、AMD製品にはBIOSを2つ搭載していて、切り替える事によって動作モードが変えられるようになっているものが多く、本製品でもメーカーの一部ではそうした動作切り替えモードによって、ハイパフォーマンスモードとバランスモードを切り替えて性能と発熱のバランスを切り替えられるようにしている製品がある。
そうなると、この10%アップといっている性能がハイパフォーマンスモードなのか、バランスモードなのかが気になるところだが、得てしてこういう時は最上級の動作の時の話である事が常なので、大凡数%の性能向上と考えておくのが良いように思う。
省エネじゃない
しかし、残念な事にこのRX590は高クロック動作が可能になった代わりに、RX580よりも40Wほど消費電力が上がっているという事実がある。
結局、今のPolarisアーキテクチャやVegaアーキテクチャは、NVIDIAのPascalアーキテクチャよりずっと消費電力が高いという欠点がついて回る。
いくら製造プロセスが変わったからと言っても、決定的な省電力性は得られなかった、という事になるだろう。
実際、RX590のベンチマークテストを実施しているサイトを見ても、性能的にはNVIDIAのGeForce GTX 1060を部分的に超える事が出来たとしても、その対価としての消費電力で大きな差を付けられている。
RX590が300W近い電力を消費している状況でも、同じ環境で1060は200W以下という省電力性である。これではお話にならない、という人がいても不思議ではない。
結局、このRX590も「Radeonでなければダメだ」という人向けの製品でしかなく、今までの購入条件は変化がないものと思われる。
GDDR5X搭載の1060
そして今度はNVIDIAから、GDDR5Xメモリを搭載したGeForce GTX 1060が登場した。
従来は8GHz駆動のGDDR5メモリを搭載したカードが製品だったのだが、今回発売されたものは8.8GHz駆動のGDDR5Xメモリを搭載したものになる。
このメモリクロックの上昇により、メモリ帯域幅は従来の192GB/sから211.2GB/sへと向上し、よりパフォーマンスアップが期待できる。
但し、NVIDIAの1060はメモリ周りのスペックはAMDのRX580/590よりも多少劣っている事に注意したい。
1060は搭載メモリ量が6GBなのに対し、RX580/590は8GBを搭載し、またメモリ帯域幅に関しても1060は192bitに対し、RX580/590は256bitと、スペックとしてはAMDの方が上回る。
このスペック違いにより、1060がGDDR5Xメモリを搭載して帯域幅が211.2GB/sになったとしても、RX580/590は256GB/sの帯域幅を持つため、まだ追いついていない。
よって、動作するプログラムがGPUに対するメモリとして6GB以上を要求するような状況になったとき、ひょっとしたらRX580/590の方がパフォーマンスが上回る可能性がある。
おそらく、4Kなどより多くのメモリとパフォーマンスを必要とする状況になればなるほど、1060とRX580/590の性能差は縮まるはずである。
SLIやCrossFireX
それと、1060とRX580/590の違いでもう一つ大きな違いがあるとすると、それは1060ではSLIによる動作ができないが、RX580/590ではCrossFireXによる動作が可能という事である。
最近のハイエンドGPUでも、あまり推奨されなくなってきた複数枚によるGPU稼働だが、1090はSLI動作可能にする端子そのものが削られている。
AMDのCrossFireXは物理的に複数枚のGPUをブリッジさせる必要が無いが、NVIDIAのSLIはNVLinkという形で物理的にブリッジさせる必要がある。だが1060にはその端子が存在しない。
よって、後からパフォーマンスアップに臨むという事が1060はできないが、RX580/590はそれが可能である。
まぁ…消費電力的にあまり魅力的な話ではないので、最近では連結によるパフォーマンスアップは推奨されないのだが、今後値崩れするだろう中古品を追加する事で1.5倍くらいのGPU性能にする事が後々できるので、そういった使い方を視野にいれて長期に使って行く事を考える人は、そういう点でもRX590は有利かもしれない。
総合的に見て
GeForce GTX 1060とRadeon RX590に関して、どちらを買えばよいのか? という話になれば、普通にPCゲームをするだけという話であるなら間違いなくGeForce GTX 1060を購入した方がいい。
価格的にも安いし、消費電力的にも省エネだし、欠点と呼べる欠点がない。
これであえてRX590を選ぶ理由など本来なら存在しない。
だが、唯一RX590を選ぶ理由があるとするならば、Fluid Motionに尽きると思う。
不思議な事に、NVIDIAはGPUによる動画支援機能であるフレーム補完をユーザーに提供していない。
Fluid Motionは、AMDが提供する動画のフレーム補完技術で、ドライバ上で許可を出せば秒間24フレームの動画を秒間60フレームにしたり、30フレームを60フレームにしたりといった、より滑らかに動画再生できる機能をユーザーに開放している。
もっとも、動画再生するアプリケーション側がその機能を受入れていないと使用する事はできないのだが、有志によってフリーの動画アプリケーションでもFluid Motionが使える環境が作れてしまうので、もしRX590を選ぶ理由があるとすれば、このFluid Motionを使いたいという理由しかないと思う。
実際、私がRX Vega64を導入した最大の理由は、このFluid Motionにあった。もしこのFluid Motionが不要なら、GeForce GTX 1080Tiを導入していた事は間違いない。
実際のゲーミングパフォーマンスのみを追求するなら間違いなくNVIDIA製品だが、動画を視野にいれるならAMD製品の方が機能としは多いので、このあたりでRX590を選ぶのかが決まるだろうと思う。
まぁ、最近の動画は秒間24フレームであってもかなり綺麗に動くので、秒間60フレームにするありがたみはあまりないかもしれないが、それでも実動作として秒間60フレームに補完する機能がある事で、動画を選ばずに滑らかな再生が得られるので、そこにメリットを感じるならRX590もアリかもしれない。