自作PCマニアとして無視できない存在。
内蔵GPUを持ちながら高い性能
AMDが7月21日に発表した新APUである、コードネーム“Renoir”は、APUにして初の8コア16スレッドを可能にしたAPUである。
また組み合わされるGPUは、Vegaシリーズといっても、現在最新のVega20アーキテクチャのコアを採用しているので、従来のAPUよりもGPU能力でも高いという。それでいて、TDPが65wという低さ。
普通に考えれば、どうしてこの性能になるのか? と言いたくなる性能なのだが、その中身を一つ一つ追っていくと、ああ、なるほど、と思えてくるから不思議である。
最上位版であるRyzen7 4700Gを筆頭に、6コア12スレッドのRyzen5 4600G、4コア8スレッドのRyzen3 4300GとTDP 65wモデルが3モデル、クロックの調整で若干性能を落としてTDP 35w化した、Ryzen7 4700GE、Ryzen5 4600GE、Ryzen3 4300GEと3モデルが加わり、Ryzen APUだけで6モデルが投入される。
特に最上位のRyzen7 4700Gは、デスクトップ版のRyzen7 3700Xと同等のCPUスペックを持ちながら(搭載されるL3キャッシュ量は少ない)、Vega8のGPUを搭載するので、ビデオカードを外付けで用意するのはちょっと…と思っていた人からすれば、ようやくIntel製品と互角以上に使えるAPUが登場した、と言える。
ちなみに、Ryzen7 4700GとRyzen7 3700XのCPU能力を比較すると、シングルスレッドではほぼ同等、マルチスレッドで3700Xの方が11.5%ほど有利という結果らしい。
この性能の違いは、3700XがL3キャッシュを32MB搭載しているのに対し、4700Gは8MBとなっているためである。
このように、実は第3世代Ryzenである“Matisse”と、第4世代APUである“Renoir”は、その仕様にかなり違いがある、と言える。
同じようで違う
RenoirはGPUを搭載している事で、Matisseとは結構な違いが存在する。
まず基本的な違いという意味で、製造上での違いがある。それは、Matisseはマルチダイなのに対し、Renoirはモノリシック、つまり1つのダイに全てのユニットが載っているという事である。この事で考えられるのは、Renoirの方がメモリレイテンシが小さいだろう、という事である。マルチダイだと、ダイ間の通信でレイテンシが少なからず大きくなってしまう。GPUを載せているRenoirは、GPUで使用するメモリアクセスの速度を稼ぐ必要から、モノリシック構成を執ったものと考えられる。
また、前述したようにL3キャッシュ量がMatisseは基本32MBとなっているが、Renoirは8MBと25%になっている。これはダイサイズを縮小する必要があったと考えられる。
もう一つ大きな違いは、MatisseがPCIeのバージョンが4.0に対し、Renoirは3.0止まりだという事。接続するデバイス間の速度に差が出てくる事が予想されるが…ま、現時点では大きな差にはならないと考えられる。
そしてこれが一番大きな違いだが、MatisseにはGPUが存在しないがRenoirはVega20アーキテクチャのGPUユニットが搭載されている、という事である。この事によってAPU単体でビデオ出力ができる、というだけでなく、動画コーデックの復号化と符号化が可能になっている。
性能でいうところの違いは大凡こんな感じで、これ以外は3700Xも4700Gもほぼ同一である(細かい仕様で違いがある部分もある)。
そしてコレが重要なのだが、コストは今の所4700Gの方が安い、という事である。
この性能の違いが許容できる人ならば、3700Xよりも4700Gを選ぶ方がメリットが大きいのではないかとすら思える。
Fluid Motionは?
そして…これは日本ではとても気になる話だと思うが、搭載されたGPUがVega系という事で、Fluid Motionが使えるのかどうか? という問題である。
今の所、製品がそもそも市販される前なので未確認ではあるが、おそらく普通に自作しただけではFluid Motionは使用する事ができないと考えられる。
これは現時点でのAPUでも同じ事が言えるが、ノーマルの状態ではRadeon SoftwareでFluid Motionの項目は出てこない。
ではどうやって対応させるか? だが、今年3月くらいまでのやり方だと以下のような手順を踏む。
1.Bluesky Frame Rate Converterを入手して起動
2.設定の「AMD Fluid Motion Videoを有効にする」を選択
3.MPC-HC等の外部フィルターにBluesky Frame Rate Converterを追加する
つまり、Radeon Softwareの設定はせずに、プレーヤー側で設定して使用する、という方法である。
だが、ここ最近になってこの方法で設定、動画再生すると、動画が縞模様に再生されるという事態が起きているらしい。
ウチのRadeon VIIでも、最近は動画再生負荷が急激に上昇するケースが見られる事が多くなったので、Radeon Softwareの内容が変えられたか等の仕様変更があったのかもしれないが、Radeon VIIの場合はRadeon Software内にまだ「Fluid Motion」の項目があり、それをON/OFFできるので、具体的に何か仕様変更があったとは考えにくいのだが…。
とりあえず、少なくとも日本ではこのFluid Motionを評価している人がかなりいるので、AMDには引き続きFluid Motionは残してもらいたいし、できればRDNAにも対応させる動きを見せてもらいたいと思っている。
何はともあれ、AMD製のGPU統合型CPU、要するにAPUとしての本命がここに来て発表になったと言える。
PCIeのレーン数など、Intel製CPUよりも扱いづらいところはあるものの、外付けGPUを使わないのなら選択肢として条文検討できる性能だし、何より価格帯も低めに設定されているところがオススメポイントである。
これで小型PCを一台組んでみる、というのも実用性を兼ねる意味で面白いかもしれない。