富士通の親指シフトの販売がひっそりと終了していた。
40年の歴史の終焉
当Blogでも2020年5月に一度、親指シフトが消えるという記事を掲載した。
1980年5月に、富士通が発売した日本語ワードプロセッサ「OASYS100」で採用された親指シフトキーボードは、OASYSの生みの親である神田泰典氏が開発したキーボードで、おそらく日本語を入力する上では最強のデバイスである。
「親指キー」と呼ばれる独自のキーを搭載し、この「親指キー」と「他の文字キー」を同時打鍵する事で、直接日本語入力を可能にしており、キートップには上下2つのカナが表記されていた。上のカナを打つ場合はそのままキーを打鍵し、下のカナを打つ場合は「親指キー」と同時押しする事で1つのキーで2つのカナを打てるようにしていたのである。
また、濁音や半濁音の文字は、文字キーと反対側の手で親指キーを押せば入力されるため、文字キー上下3段のみで日本語のカナすべてを打つ事ができるのが最大の特徴で、このことでテンキーがなくとも最上段にある数字キーを入力できるというメリットが生まれる。
こうして内容をあらためて知ると、実に画期的な日本語入力システムだが、JIS配列キーボードがスタンダードとなった今、消えゆく運命だったのは親指シフトの方だった、というワケである。
その親指シフトのキーボードだが、前述したように2020年5月の段階で既に販売終了に向けたアナウンスが出ていた。当初は2021年3月に親指シフトキーボード搭載のLIFEBOOKの販売を終了し、外付けオプションの親指シフトキーボードを5月に販売終了する話だったのだが、前倒しして今年1月に販売を終了していた。
前倒しされた理由としては、もともと2020年5月のアナウンスにも「在庫消化の状況で販売終了時期が早まる可能性がある」としていたので、おそらく部材調達の関係で早まったのだろうと思われる。
ただ、外付けオプションの「親指シフトキーボード」に関しては、まだ販売パートナーを通じて在庫を購入する事ができる場合もあるようだ。
どうしても欲しい、という人はそういったルートへ確認する必要があるだろう。
入力インターフェース
ガジェットに対しての入力という行為を実現するデバイスは、過去からいろいろなものが考案されてきた。
スマートフォンが登場する前、ちょうど電子手帳などが流行った時期は、PDAと言ったが、その時にいかに入力キーを少なくし、かつ入力できるようにするか、という試行錯誤が幾度となく行われてきた。
Permというデバイスが登場したとき、ジェスチャー入力でそれらの入力を代替した事もあったし、似たようなアプローチでAppleもNewtonというデバイスを発売していた。
日本ではシャープがZaurusと呼ばれるPDAを作っていたが、その時はペン入力で文字を入力していたが、今のタブレットよりも文字認識レベルはずっと低かった。
その時代に小さなキーボードなどもいくつか考案されたが、結局生き残ったのはQWERTY配列のキーボードが主で、他はわずかに残ったか、消えていった。
入力という行為のしやすさとデバイスの大きさは常に反比例の関係にあり、入力しやすいとなるとある程度の大きさが必要で、小型化が求められるモバイル端末は、その入力のしやすさと常に戦い続けてきた。
モバイルの場合は、その端末の大きさからの制約だが、前述の親指シフトは日本語の文字数との制約で、英字キーボードとの差別化が課題だった。
26文字で成立する英字キーボードに対し、最低でも50音分のキーが必要な日本語では、そもそも同一デバイスで実現できると考える方がオカシイ話である。
親指シフトは、QWERTY配列キーボードで限りなく日本語入力が容易に可能な方法だっただろうと思う。これがスタンダードにならなかったのが残念ではあるが、やはり同時押しという所に何かしらの抵抗があったのと、1キーで2つのカナの位置を記憶するという慣れが難しいのが原因だったのかもしれない。
今後の入力
最近、私はiPhoneでメモを記録する時、音声認識でメモを取る事が多くなった。
今はしゃべった言葉を文字化できる時代なので、あえてキーボード入力の必要性があるのか? という時代に突入したのかもしれない。
そうなってくると、今度はQWERTY配列のキーボードがなくなる時代がやってくるのかという事になるが、おそらくそうなるにはまだまだ時間がかかるかも知れない。
そもそも音声入力だけで全て賄える事はあり得ないので、何かしらの手入力が残る事になる。
その時、物理的なキーボードが残っている必要は無いわけで、タブレット上でのソフトウェアキーボードが覇権を握っている可能性はある。
音声入力とソフトウェアキーボードで全てが事足りる…近い未来の姿として、もっとも想像出来る姿ではないかと思う。
ただ…左手インターフェースの記事を書いた時にも似たような事を書いたが、専用デバイスの使いやすさは別格である。
生産性を問うプロの現場では、そうしたインターフェースの淘汰はあまり起きないのかもしれない。
親指シフトは日本語インターフェースとしてはもっとも洗練され、最も優秀なデバイスだっだろうと思うが、生き残る事はできなかった。
残念だが、これが時代の移り変わりというものであり、デジタル化へ進んで行く時代の一幕が閉じた瞬間である。