個人的にはもっと頑張ってほしかったメモリ事業だった。
低レイテンシメモリ
IntelがOptaneメモリ事業の縮小を発表した。
Optaneメモリは、Micron Technologyと共同開発したメモリである「3D XPoint」のIntelに於けるブランド名で、2015年に発表された不揮発性メモリである。NANDと比べて低レイテンシである事が特徴で、キャッシュメモリの代わりに使用する事でもその威力を発揮していた。
実際、Intelは「Intel Rapid Storage Technology」(通称IRST)として、OptaneメモリとHDDをRAID構成にしてOptaneメモリをHDDの高速キャッシュとして利用できる仕組みを発表、その後、AMDも似たようなSSDをキャッシュメモリとして利用できるHDD高速化手段を展開した事で、システムとしてストレージを高速化する事が一時期トレンドになった事もある。
ただ、その後SSDの大容量化が進み、今では2TBくらいのSSDも比較的手の届く価格帯に来た事から、HDDと置き換える流れが生まれ、それに合わせてOptaneメモリも次の展開がなかなか進まず、他に大容量ストレージとし商用利用なども進めていたようだが、結果的にはIntelはこの事業から撤退する方針を固めていた。
このOptaneメモリは、不揮発性メモリでありながらDRAMの代わりに利用できる製品として「Optane DC persistent memory」を発売、これによりデータセンターではデータの永続性を実現できたりと、非常に高速なデータベースの実現が期待されていた。
場合によっては、このメモリをDRAMの代わりに使う事で、PCのメインメモリが不揮発性となり、民生用PCの再起動を簡易化できる可能性すら考えられた。
それだけに期待される性能、機能は多数あったと考えられるが、ビジネス向けとして定着する事なく、今回ビジネスを終了する事となった。
IRSTの苦い思い出
当Blogではその詳細をいろいろと書いたが、私もかつてOptaneメモリを利用したHDD高速化手段を使っていた時期があった。
この時は起動ドライブに使用したのではなく、あくまでもデータドライブに使用しただけだったのだが、私の各種設定を保存したデータを保存していたドライブだった事から、復帰ではないと大問題になる事から、かなり焦りつつ対応した記憶がある。
最終的な復帰に関しては2018年10月19日の記事に記載しているが、約2週間に渡って私のメインPCが起動不能になり、データの損失すら覚悟した。
IRSTの一番の問題はRAIDとして構成されているため、ドライブが破壊された後にRAID構成でなくなると壊れていない側のHDDの読取りもできなくなる、という事である。
IRSTはRAID構成といってもOptaneメモリとペアを組むHDDとはデータサイズに差異があり、そのほとんどのデータはHDDにそのまま保存されている。Optaneは、HDDに保存されるべきデータの一部を一時的に預かり、キャッシュメモリとして動作するため、トラブルが発生した際にHDD側がそのまま読み込めれば、たとえOptaneメモリに何か不慮の事故が起きたとしても問題はないのである。
ところが、IRSTはストライピングのRAIDと同じで、片側のドライブが壊れると、全てのデータへのアクセスができなくなる。Optaneメモリがキャッシュメモリのような使われ方をしていたとしても、HDD側のデータにはアクセスできなくなるのである。
個人が使用するOptaneメモリのもっとも有効活用が出来る方法としてIRSTが生まれたにも拘わらず、このリスクの大きさたるやとても初心者向けとは思えない。
そういう意味で、IRSTのドライブとしてOptaneメモリを使うのは、高難易度的な使い方であり、通常使用とはちょっと言えないと私は思っている。
この事件があってからというもの、私はOptaneメモリをネットからのデータのダウンロード先のストレージとして運用している。一時的にダウンロードデータを保存する上では、保存速度も速いので重宝している。
もっと安価に大容量化
Optaneメモリは、通常のSSDのような仕組みと異なる事もあって、その利点はとても多いと私は思っていた。
なのでできればSSDの新しい形として定着して欲しかった。そうすれば、今使っているSSDよりも耐久力も高く、また高速アクセスができるストレージになるからだ。
だが「3D XPoint」という技術を使用出来るのがIntelとMicronだけだという事から、残念ながら他に広まる事はなく、結果、Intel側は終息する事になった。
ではMicron側はどうなのだろうか?
実はMicronは2021年3月の段階で「3D XPoint」からは撤退していたのである。
これにより「3D XPoint」技術を利用した製品はこれで完全に終了する事となる。
もっと安価かつ大容量なストレージとして発売してくれていれば、ひょっとしたらSSDの一つとして定着できたかも知れないが、IntelにしてもMicronにしても狙いは業務用であったため、民生用に展開するつもりはなかったのだろう。
残念だが、Optaneメモリは今後使われることのなくなった技術、という事で幕を閉じる。
他に同等技術があるとは聞かないので、少なくとも我々が扱えるものとしては、代替技術はない、と言えるだろう。
ちょっと残念な終息の仕方だったと思うOptaneメモリだが、このような結末を迎える技術はまだまだ他にもある。
優秀な技術でも普及に問題があれば生き残る事はできない。それがよく分かる事例ではないかと思う。