立体感を感じるオーディオの世界。
VRは視覚だけじゃない
昨年末ぐらいからだろうか。
途端にIT系の話題がVRという仮想現実空間の話に向かい始めた。
有名どころの話で行けば、「Oculus Rift」や「PlayStation VR」というヘッドマウントディスプレイが現実味を帯びてきた事に端を発すると思うのだが、仮想現実の世界でよりリアルにその仮想現実を体験するには、視覚情報だけではダメである。
人間は実際には視覚情報と同じくらいに音声情報も知覚していて、それらが伴って初めて仮想現実はより具体的なリアルへと近づいていく。
ところが、VR(Virtual Reality)の話となると、真っ先に話題に出るのが視覚情報を司るヘッドマウントディスプレイの事であり、意外と音声の事に触れる事はない。
音の世界ではかなり昔からよりリアルに聞こえる研究が行われていて、バイノーラル録音などは既にニコ生で採用している人もいるぐらいの身近な存在になっているにも関わらず、それでもVRとなるとどうしても視覚の話に進みがちになる。
そんな状況下にあって、3Dオーディオに特化したヘッドホンを謳う“OSSIC X”というところが、3Dオーディオを体験するにあたり、簡単にそれらを実現できるヘッドフォンを開発するとして、kickstarter.comに出資を求める活動を開始した。
先月2月22日の事である。
すると、僅か開始後2.5時間には、目標額である10万ドルに達成し、3日後の2月25日には目標額の4倍である40万ドルを突破、そして本日には10倍の100万ドルを超える資金を集めるに至った(OSSIC Xのkickstarterページはコチラ)。
OSSIC X
このOSSIC Xは、各個人の頭や耳の形状に合わせた没入感の高い3Dオーディオの実現を目指しているもので、ステレオサラウンドのさらに先にある「空間」に焦点を当て、深みのある完璧な3Dオーディオを実現するとしている。
具体的には、頭の幅を自動的にセンサーで探知し、また頭の動きに合わせて音が変化するヘッドトラッキングを行う事によって、あたかもその空間に自分が存在していて、その空間内に発生した音声の定位を変えずにヘッドフォン装着者に音を届ける仕組みとなっている。
具体的な仕組みなどは前述のOSSICXのkickstarterページの動画を観てもらうのが早いだろう。
OSSIC X: The first 3D audio headphones calibrated to you
片側4つのドライバーがヘッドフォンの中に仕組まれていて、ヘッドバンド内にあるセンサーで装着者の頭の大きさや耳の詳細な位置を把握、そしてジャイロのようなセンサーで向きなどを検知、その結果で音の空間定位を合わせて4つのドライバーを調整して音を装着者の耳に届けるという、仕組みのようである。
もう少し具体的な話をすると、例えばOSSIC Xを装着した右耳に右方向から音楽が聞こえている環境だとして、そこでこのOSSIC Xを装着したまま180度右周りで回ると、今度は左耳の左方向から音楽が聞こえてくるようになる、という事である。音の定位は変わらず、ただ自分の耳に聞こえてくる方向が自分の位置に合わせて変わった、という事である。
ある種、とても自然な事なのだが、それが仮想空間上の出来事でも同じような自然な音の変化を実現できる、というシロモノなのである。
PlayStation VRと連動して欲しい
この3D Audio Headphone“OSSIC X”は、おそらくPCに対しては完成後にすぐに対応する事はできるだろう。
というのは、2016年の8月頃にはβ版ソフトウェアが提供されるような事が出資999ドルの項目の中に書かれている。
英語はよくわからないのだが、簡単に読み取ると999ドルの出資をすれば、β版のOSSIC Xを試す事ができ、手作りのOSSIC Xを手に入れる事ができるらしい。
なのでWindowsなのかMac OSなのかは解らないが(おそらくWindowsだろうが)、PCのような自由なデバイスには簡単に対応できるだろうが、私としては共通プラットフォームであるPS4で普及するとされているPlayStation VRに対応して欲しいと思っている。
PlayStation VRは、少なくとも現時点ではOculus Riftよりも低価格で普及すると言われていて(但し解像度はOculus Riftの方が上とも言われている)、しかもプラットフォームとなるPS4は既に数千万台が世界中に普及している。
VRというジャンルを最もスタンダードに広める事ができるプラットフォームとして、PS4は最有力候補なワケだが、残念ながらソフトウェアに関しては自由に配布して使用する事ができる、とは言いにくい。
SCEも独自に音声系のVRシステムを用意しているかもしれないが、おそらくOSSIC Xほどのものは想定していないだろうから、ここはOSSIC Xを公式に認定して利用できるようにしてもらいたいものである。
そうすれば、望む人にはPS4による、よりリアルなVR体験が可能になるだろうし、選択の自由がより広がるというものである。
どちらにしても、このOSSIC Xが現実味を帯びてくるのは今年の夏である。
最終的な製品が世に出てくるのは2017年の1月とされているため、今はまだその結果待ちとなる。
こうした新たなデバイスが世に出てきて、数年前に夢とされていた仮想現実の世界がより身近になるというのは、実に夢のある話である。
あとはその夢を可能にするコストが、より身近になるだけの事なのだが、実はコレが一番ハードルが高いのかも知れない…。