日本の製造業では、2000年以降からしきりに“IT化”という言葉が使われている。
これは時々大きく誤解される事が多く、おそらくそれは製造業だけではない事かもしれない。
その誤解とは“IT化=電子化”と勘違いするならまだしも“IT化=パソコンを使った仕事”という事である。
そもそも、ITとは“information technology”つまり情報技術という意味の略語であり、決してインターネットを使用した何かではない。
ITを“Internet technology”と誤解していたりするから、デフォルトゲートウェイを必要とするネットワークの活用、つまりInternet Web化による何かと誤解する。
だが、残念ながら可能性的に、私の勤務している会社もその例に漏れないのかもしれない。
昔、私が入社する前に「ネットで受発注」という記事で会社が日経新聞に取り上げられたらしい。
だが、実際にはそんな事は行われていないし、その準備だって進んでいない。要するに、私が入社する前にITを活用する一端として“ネットで受発注”するというプロセスが生まれ、それに向けて計画を進めていこうとした、という所だと思われる。
全くもって何をやっていたんだか…
何もわかっちゃいない。
そしてそんな勘違いをしているから、他の最先端を行く企業にお株を取られてしまうのである。その企業とは同じ事をしているにも関わらず、私の勤務先ではそれが運用される前段階にしかなっていないのである。
関西圏への出張二日目は、まず京丹後市にある協力会社への訪問から始まった。
この協力会社は、もともと鍛造を主とした会社で、金属切削加工業はその鍛造工程の金型を作るために発足したという。
鍛造というのは、読んで字の如し、金属に熱を加え叩いて鍛え、より強い金属部品を作る業種である。
一般の人がよく知っている鍛造品は、車のエンジンなどに使われる部品でははないかと思う。
1分間に何千回転と回るエンジンは、時間単位、日単位だと天文学的数字で回り続けるが、それを支える強度は鍛造で得られるワケである。
その鍛造というものがどんな工程で、どんな環境で行われているかを見てきたのだが、これはもう想像を絶する環境の作業で、それを支える人達が如何に偉大な人達かと言うことを実感した。
もうこれは言葉では言い表せない苦労がそこにはあり、1200度に熱した鉄を500tのプレス機で型を押し、そしてそれにショットブラスト(鉄粉のシャワーみたいなもの)をかけるという行程を行うのだが、その殆どが自動化されていない。すべて人の手によって行われているのである!
もちろん、ラインという概念の流れ作業ではあるが、人の手によってラインが稼働しているという事実は想像を絶するものである。
先に述べたIT化とはある意味逆を行く作業ではあるが、もっとも効率が良い手法が現状のものなのだという。
ちなみにこの会社では、車の開発品の依頼も来ているという事で○○○社の○○○の開発部品の鍛造部品を作っているそうである。
おそらく…時代の最先端の部品を作っている事になるのだろうが、それがこのようなローテクで支えられている事実は、さすがに目で見た今でも信じがたいものである。
京丹後市の鍛造会社から、今度は南下して宇治市の会社に行ったのだが、その時の話が前述のIT化の話。
この企業は、私の勤務先がやろうとしている事を具現化している企業で、その生産管理から生産工程まで、ほとんどが自動化されている。
人が必要ないのではなく、人は知的労働を主とし、金属の加工そのものは加工機に自動でやらせる…そういうプロセスである。
大量生産では海外に勝てない日本国内は、価値のある高精度製品で勝負するしかないワケだが、その高精度製品を自動化してより効率よく生産する…というのが目的なワケである。
実際、その宇治市の会社では、加工者=プログラマであり、昼間はPCの前に座りプログラミングしかしない。
夕方頃になると金属材料を加工機に取り付け、プログラムを加工機に送信してあとはスタートボタンを押して帰る…これが基本スタイルなのだそうである。
もちろん、このスタイルが高精度製品の切削加工の全てを体現できるとは私も思っていないが、理想のスタイルである事は間違いない。
そしてその理想のスタイルを具現化しているところに、この企業の凄さがある。
ITを真面目に活用しているところは、私の勤務先とはえらい違いである。
とにもかくにも、カルチャーショックを受け続けた一日だった。
これから先、何をすべきなのか?
少しだけ見えたように思う。
一つ残念なのは、この状態を私の勤務先の経営者に見せたかったという事。
有効に金を使うという事はこういう事だという事を実に見せたかった。