SpursEngineと呼ばれる動画チップがある。
これはPS3に搭載されているCell B.E.のSPEを4基と、H.264などの動画エンコーダを1チップに収めた半導体チップなのだが、このSpursEngineが作られた背景に、動画デコード&エンコードを高速化するという目的があった。
実際、SpursEngineを搭載した東芝のノートPCは、実に滑らかな動画再生を行うことができ、こと動画に関して言えばSpursEngineを搭載した事で1クラスも2クラスも上のハードウェアと渡り合える性能を持っている。
そんなSpursEngineの最大の弱点が消費電力で、残念ながらその部分においては同クラスのノートPCに比較してモバイル性能で劣る結果となった。
つまり、SpursEngineはノートPCなどに搭載する事を目的とした半導体ではない、と私は思う。
要するに、使い方が間違っていたのである。
当然、そんな事を感じたのは私だけではないワケで、Leadtekから2008年10月にこんな製品も発売された。
Cell B.E.の性能については今更語るほどではないと思うが、REGZAの最上級モデルであるCell REGZAにも搭載されており、動画をいかようにも扱えるほどの性能を有している。そのCellの子分のようなコアがSpursEngineであり、それを拡張カードにしたこの製品は、まさに動画を扱うための最良な選択肢であると言える。
だが、時代はさらに加速したようで、今度はこんなバケモノ的拡張カードが登場した。
同じくLeadtekから発売される「WinFast HPVC1111」である。
このWinFast HPVC1111は、表面積が240×155mmという巨大な基板にSpursEngineを4基搭載した拡張カードで、メーカー曰く「リアルタイム以上に高速」というエンコード&トランスコード処理を実現しているという。また、当然の事ながらそれだけでなく、SD映像から鮮明・クリアなフルHD映像への変換も可能だ。
価格は99,800円(予価)で、5月中旬に白箱に入って発売される。
問題はその大きさで、通常のPCケースにはまず収まらない。
メーカーは「4Uラックマウントケース向け」としており、要するにサーバ向け拡張カードといえ事のようだ。
まぁ、当たり前と言えば当たり前の事ではあるが。
リアルタイム以上に高速なエンコード&トランスコードとなると、通常持て余す性能という事になるが、私が考えるにこのカードが登場した背景には3D映像というものが視野に入っているのではないか思っている。
というのは、3D映像は基本的に右目用映像と左目用映像が交互に表示されて成立するワケであり、当然そうした映像を制作するとなると、その両方の映像の編集が不可欠になる。
視差を与えるだけだから問題ないだろうと思うかもしれないが、2つの映像を同時に処理しようと思えば、当然の事ながら2倍の処理性能が必要なわけで、従来の処理能力では単純に半減すると思われる。
今回のWinFast HPVC1111であれば、少なくともリアルタイムでの映像処理は持て余すわけで、3D映像を処理させるにはかなりの性能を達成できるのではないかと思われる。
発売されるWinFast HPVC1111は、基本的に画像のハードウェアとWindows Vista/XP、Direct X 9.0用のドライバのみが付属するとの事であり、開発環境は制作する必要がある。
まぁ、開発用途の拡張カードである事は間違いない製品だが、これによって3D映像制作はより高速になるだろう。
民生品として売り出しても、何となく売れそうな気がするのは私だけだろうか?
ドライバと対応ソフトさえあれば活用方法はいろいろあると思うのだが…。