久しくAMD系でPCを自作していない。
今はAPUというとんでもなく便利なコアがある為、ちょっといろいろ考えてみる。
Kaveriを知る
KaveriはAMDが発売したAPUの中でも、初めてCPUとGPUでメモリ空間を共有する“hUMA”を実現したコアで、従来のAPUよりもずっと今後展開していくであろうコンピューティングに適したAPUとなっている。
搭載しているCPUコアはSteamroller系で、GPUはGCNでRadeon R系が搭載されている。アーキテクチャだけで見れば相当スゴイものと言えるが、もちろんCPU&単体GPUの組み合わせと比べれば性能はそこそこと言わざるを得ない。
だが、電力効率を考えればそんなに悪いものでもなく、特に映像という部分においては、Intel系よりもずっと処理能力は高いのが現状である。
こうした特徴を持つAPUのKaveriだが、そのグレードによって目指す方向がガラリと変わるのも面白い特徴である。
動作するコアが2コアになるA6シリーズはとにかく省電力&グラフィックパワーな性能、そこそこの価格でそこそこの性能を実現するA8シリーズ、ハイスペックな性能&グラフィックパワーを可能にするA10シリーズと分けられる。まぁ…単純に性能の違いでこのクラスに分かれるだけの事なのだが、コストと見事なバランスが取れていると言える。
KaveriでPCを組む場合、このAPUのグレードで求める性能が決まるため、価格の目安が付けやすい。
私自身が特にお薦めしたいのはA10-7800というコアで、コイツは通常使用するTDPは65wになるが、Configurable TDPというTDP調整機能によって45wで動作させられる機能を持つ。
当然、TDP45wで動作させればその分性能は落ちるのだが、30%分省電力化(65w→45w)させても落ちる性能は約9%(処理内容によっても異なる)程度と、実に高効率な運用が可能になる。
KaveriのA10-7800は現時点での最高クラスの性能をもつAPUであると同時に、最高クラスの高効率を持つAPUなのである。
Fluid Motionがおもしろい
私がKaveriを意識したのは、この“Fluid Motion”という機能があったからだ。
この“Fluid Motion”は、正確に言うと“Fluid Motion Video”といい、要するにビデオ関係の機能である。
具体的に言うと、「映像補完技術」の事で、特に24pの映像を60pに補完する際にこの機能が大きく働く事になる。
通常、映像は大部分が30p映像だったりするのだが、今はそれを再生側で補完して60pにしたりする。これが所謂倍速駆動というもので、今はさらに120pにして駆動させているものもある。
ところが、これがいつまで経っても24pのままの素材がある。それがアニメである。
アニメはほとんどが秒間24コマで作成されている(昔は秒間16コマだったが)のだが、この24pを60pにする際、単純に補完しても上手く補完されないのだ。というのも、24p映像を単純に1コマと1コマの間のフレームを補完して作成したとしても、全体では48pにしかならない。だから、さらにどこか別の部分に補完フレームを挟んで60pにするのだが、従来の補完フレーム技術ではあまり上手く補完できなかった。
ところがAMDの“Fluid Motion”では、この24pを上手い具合に60pに補完するため、違和感なく、しかもカクつきもなく補完するため、実に滑らかに動いているように見えるのである。
もっとも、この“Fluid Motion”を利用するためには、この機能に対応した再生プレーヤーが必要なのだが、それでもこの機能が使える道がある、という事は非常に魅力的である。
正直、いつもの自分の使い方を考えれば、Intelコアである必要も無いと考えてしまうぐらいの機能がこのKaveriには搭載されていると言っても過言ではない。
基本性能はCorei5 4690よりチョイ上
そんなA10-7800だが、基本的な性能はIntelのCorei5 4690よりチョイ上程度である。
Intelのコアはこの上にCorei7シリーズがあるし、Corei5にしても4690Kという倍率アンロックモデルがあるため、基本性能ではIntelには勝てない。
そもそもA10-7800は基本性能の高さだけでは選択肢の一つとしては考えられない。
しかし、前述の省電力性、グラフィック性能、高効率という3つのもっとも高いクロスポイントに、このA10-7800が位置付けられる。
常用クロック数は3.5GHz、Turbo Core時(ブースト時)3.9GHzと、決して低いクロックで動作しているわけではないし、Configurable TDPを利用してTDPを45wにしても変わらない。
そう考えると、実にA10-7800が魅力的に見えてくる。
「ハイスペックは廃スペック」と昔、私の知人が言ったことがあるが、現在のPCにおいてハイスペックの頂上決戦をしてみても、マニアでないとその恩恵をなかなか受けにくい。ほどほどのスペックで通常使用は何ら困ることはないし、ゲームをするにしてもそこそこの性能でほぼ満足の行く結果は得られる時代にあるのだ。
それに、AMDのAPUには「Dual Graphics」という機能があり、たとえばA10シリーズだと、外付けGPUのRadeon R7 250をPCI Express3.0×16に追加することで、APU内のGPUとCrossFire接続が可能となり、無駄なく性能を使い切る事ができる。通常、ビデオカードを外付けすると、内蔵GPU機能はほぼ無駄になるのだが、APUの場合は効率よくそれらも利用して性能強化が図れるわけである。
但し、ビデオ性能で更なる上を求める場合は、Dual Graphicsを私用せず、外付けGPUにRadeon R8やR9シリーズを搭載した方がハイスペックになる。
Dual Graphicsは、あくまでも僅かながらの性能向上策を低コストで実現するもの、と考えると良いだろう。
Kaveriの次は?
Kaveriの次のAPUの計画ももちろんある。
但し、生産上の問題で数はあまり出回らないかも知れない、と言われている。
次のコアは“Carrizo”と呼ばれ、おそらく28nmプロセスで製造される。
これは、従来と同じファウンドリでないと生産できない事が理由である。現在使用しているGlobalFoundriesは20nmプロセスはモバイル系のコアしか生産しないとしているし、ライバルのTSMCもそれは同じだ。しかもKaveriのような3GHz以上のクロック周波数を可能にするには28nm SHPというプロセスで生産する必要があるが、TSMCは28nm SHPの生産は行わず、28nm HPMしか生産しない。28nm HPMでは最大でも2.5GHzでしか動作させられない。
となれば、もうGlobalFoundries以外に選択肢がなく、また生産量を増やし続けているモバイル系に製造ラインを取られるとなると、Kaveriもその後継のCarrizoも生産量が限られてしまう、というワケである。
そんな生産量が限られてしまうであろう後継のCarrizoの性能だが、現時点では全く見えていない。
可能性として考えられるのは、CPUアーキテクチャはExcavatorへと進化し、GPUは引き続きGCNが搭載されるが、少なくともKaveriよりも多くのStream Processorが搭載されるだろうから、性能的には現行のKaveriの1.5倍くらいのものになるのではないか? と予測できる(但しCPU能力だけであれば1.2倍程度かもしれない)。
どちらにしても、性能的にはKaveriを上回ってくるだろうが、問題は登場時期だ。おそらく2014年末に間に合うかどうか、というタイミングではないかと予測。
2015年に入ると、半導体ファウンドリが14nm FinFETを立ち上げてくるだろうから、Carrizoの登場時期が遅れれば遅れるほど製品メリットがなくなってしまう。
そんなワケで、タイミング的には今Kaveriを導入するのも半年待ってCarrizoを導入するのも実はあまり変わらない可能性が高い。
また、今Kaveriを導入したとしても、しばらく使ってその後Carrizoへとアップグレードする事もできるだろうから、このタイミングでKaveriを導入してしまうという手は悪い手ではないと私は考えている。
絶対的性能だけがPCの魅力ではなくなりつつある今、いろいろな支援機能で自分の使い方とマッチングするスペックで自作するのも良い。
コスト、性能等全てにほどほど&コストパフォーマンスに優れたものを求めるなら、A10-7800を中心としたPCを是非ともお薦めしたい。