ジャストシステムが「一太郎2010」や「ATOK 2010」を始めとするオフィス向けソフトを2010年2月5日より発売すると発表した。
一太郎 2010やJUST Suite 2010などは私個人からすると比較的どうでもよい感じ(開発者の方、申し訳ない orz)だが、気になるのは先日公開されたGoogle日本語入力とマトモにバッティングするATOK 2010である。
Google日本語入力に関しては先日も書いたが、一般使用時においてGoogle日本語入力は十分すぎる性能を持っていると思う。
しかし、文章を入力する事が仕事的に多い人や今のネットで使われる言葉に抵抗がある人などには不向きと言わざるを得ない。もちろん後者はサジェスト機能をOFFにすれば使えるわけで、変換精度はMS-IMEよりはずっと上。となれば、Google日本語入力をNGという人は本当に一部の人になってしまう。
そういう人達を前に、今後のATOKがどんな展開を見せるのか?
これはかなり気になる所である。
まず、今回のATOK 2010の目玉機能は重ね言葉を指摘する“校正支援機能”だと思う。
「あらかじめ予約する」「再び再会する」など、一見普通の言葉に見えるが、これらは同じ意味を重ねている。つまり日本語として正しくないワケだ。
また「突然のハプニング」のように日本語とカタカナ語でも重ね言葉が存在するが、そうした例も正しくない。
今度のATOK 2010はこうした重ね言葉が使われたときに指摘するような機能を搭載した。
この校正支援機能は結構前のATOKから搭載されはじめた機能だが、長文を打つ際には結構役立つ。日頃使っている日本語だけに、細かな間違いに気がつかない事が多いが、ATOKではそうした間違いが激減するのである。
また、今回のATOK 2010では確定した文章に続けて文字を打ったとしても、前の文脈を判断して精度の高い同音語の変換が出来るのも魅力的な部分である。
公式サイトの例だが「通信教育で勉強する事にしました」と確定した文章に続き「こうざのてつづきが」と続けて打つと「講座の手続きが」と正しく「こうざ」を判断する。
この「こうざ」という言葉を別の文脈で試すと「インターネットバンキングを始めました」と確定した文章に続き「こうざのてつづきが」と続けて打つと「口座の手続きが」と正しく判断される。
これらは、前の確定文章を判断した結果から導き出された「こうざ」である。日本語は同音語が多い為、このような賢い変換は日本人であっても助かるというものである。
また文節区切り精度も従来のATOKからさらに向上している。
「しゃないにはけんさきざいがそろっている」と入力した際、ATOK 2009以前では「社内に派遣先材が揃っている」と変換される。これがATOK 2010では「社内には検査機材が揃っている」と正しく変換する。
また「いちばんのりかいしゃになる」はATOK 2009以前では「一番乗り会社になる」となるが、ATOK 2010では「一番の理解者になる」と正しく変換される。
文節による区切りの変換は、IMEの鬼門ではあるが、ATOKは確実に進化していると言えるだろう。
それと、これはプレミアムバージョンのATOK 2010の機能なのだが、、「8カ国語Web翻訳変換for ATOK」が付属する。
これは日本語を入力して、「Shift」+「Enter」を押すだけで、英語、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語へのリアルタイム翻訳ができるようになるもので「おはよう」と入力すると「good morning」「早上好」など、8カ国の言葉に変換する事ができる。
これによりちょっとした外国語を手軽に文章に組み込む事もできるため、私のような“なんちゃって物書き”には非常に便利な機能と言える。
こうした機能を集約して登場したATOK 2010だが、機能や変換精度で言えば間違いなくGoogle日本語入力を上回る。
だが、問題は利用者がここまでの機能を必要とするかどうか? であり、Google日本語入力は無料だという事である。
先日のBlogにも書いたが、Google日本語入力はネットで頻繁に使われる言葉をサジェスト機能で予測し呼び出す事ができる。つまり、日本語の正しさよりも頻度や利便性を重視するイマドキのネットタイピスト達からすると、ATOKの機能は過剰機能であり、Google日本語入力のサジェスト機能こそ支援機能になる。
どちらが人口として多いのか? となると、これは言うまでもないように思える。
今回の一太郎 2010発表に伴い、質疑応答でGoogle日本語入力を脅威と感じるかという質問がやはり出たそうだが、それに対しジャストシステム側は「Googleのような新しい取り組みをしている企業が日本語IME市場に参入することで、この市場に対する注目が集まる」とコメントしたそうである。
たしかに今までIME市場は決して大きくはなかったし、注目される程ではなかった。
Windowsでの日本語入力の不便さに、一部のタイピスト達がどのIMEがいいのか? という事を論争していた程度であり、その論争は実の所Windowsが登場する前から行われていた。つまり、プラットフォームを大々的にWindowsに移した1995年ぐらいから、その論争の規模は思ったほど大きくなっていない。そしてそれらの論争の結論は、常にATOKの独り勝ちである。
であるからこそ、たしかにGoogleが乗り出してきた事にこそ意味はあるのかもしれない。
ATOKを擁するジャストシステムは、これから先Googleを意識せずにはいられないだろうし、培ってきた技術と情報でGoogle日本語入力が搭載しない機能をより磨いていく必要があるだろう。
そしてそれは消費者側からすればほとんどが有益になるものであり、選択肢の幅が広がる事でもある。
キーエンス傘下となったジャストシステムだが、これからのジャストシステムに期待したい所である。