当Blogでも、2009年12月17日に記事にした事があるのだが、かつて米空軍がPS3を2,500台調達した事がある。
米空軍が何の為にそれだけのPS3を…というと、安価にスーパーコンピュータを作る為である。
現在のスーパーコンピュータは、ベクトル型からスカラ型へとそのトレンドが移り変わっているワケだが、簡単に言えばベクトル型とは単体のプロセッサで強力な演算性能を持つプロセッサを利用したもので、スカラ型は汎用プロセッサを大量に並列搭載したものである(厳密に言えばもっと違う言い方になるだろう)。
PS3に搭載されているCell Broadband Engine(以下Cellと略)は、元々が異種混合並列プロセッサで、米空軍はこのCellを大量に並列化させ、スーパーコンピュータにしようと計画したのである。
で、その時に最も安価にCellを手に入れる方法がPS3だった為、米空軍が2,500台ものPS3を調達した、というワケである。
で、そのPS3連結スーパーコンピュータがとうとう完成し、正式稼働したというのである。
その名もコンドルクラスタ。
スパコン並と言われたPS3が本当にスパコンになったのである。
(画像はThe Escapistから転載)
ベクトル型とスカラ型、どっちが優れているか? という事に関しては、ここで論議していても始まらない。ただ、価格性能比で言えばベクトル型に利点はない、と言われている。
単純に考えても、ベクトル型はその開発に数百億の予算が必要になるが、スカラ型はその1/10、さらにはそれ以下の予算で作る事ができる。
さらに現在の汎用プロセッサは以前から比べると並列接続が容易であるため、あとはプログラミング次第でその性能を発揮できるという利点もある。
実際、今回米空軍が完成させたPS3使用のスーパーコンピュータ“コンドルクラスタ”は、1,760台のPS3と168台のゼネラルプロセッサーで構成されており、その構成で秒間50テラFLOPSの演算能力があるという。これでも北米最速のスーパーコンピュータ“Jaguar”の1/3以下の性能しかないが、コストパフォーマンスは比べものにならないほど安価である。
日本の事業仕分けで話題になった次世代スーパーコンピュータの開発予算は約209億円だったが、このコンドルクラスタは200万ドル、日本円にして約1億6,500万円である。価格にして1/126しか掛かっていない事になる。
厳密なコストパフォーマンスは比較できないかもしれないが、大枠で考えてもこれだけの差額が生まれるワケで、コンドルクラスタの安価さは相当なものと言える。
ただ、このコンドルクラスタには一つ大きな問題がある。
それが現時点でSCEがPS3のファームウェアでLinuxのインストールオプションを削除してしまっているという事である。
このLinuxがインストールできる事に、PS3のゲーム分野以外の活用方法があったワケだが、今のPS3はその道を完全に閉ざしている。
これはPS3が全く売れなかった時期に廉価版(今の標準機)を出す際に外した機能で、ゲーム方面に集中させる戦略からLinuxという選択肢を除外した結果である。
PS3はゲーム機ではない、とした久多良木氏の思想はこの時潰えたのだが、米空軍はSCEとは逆で久多良木氏が目指した方向でPS3を活用した事になる。
私は、この米空軍の利用方法を支持すると共に、SCEにはもう一度Linuxインストールの選択肢を与えて欲しいと願っている。
PS3のその性能は、ゲームだけに留めておくのはあまりにももったいない。
最近、ニンテンドーDSがカオスパッド搭載の楽器になるというソフトが出たりしているが、DSレベルでそうなのだから、PS3なら活用の仕方でもっとスゴイ事が出来て当たり前である。
要はアイディア次第なのだが、より汎用性を高めようと思えばPS3のゲームプラットフォームだけの利用というのは自ら道を狭くしているようなもの。
ぜひ、SCEにはもう一度その方面を見直してもらいたい所である。
それにしても…米空軍と同じ発想をなぜお膝元の日本ができなかった、あるいはしなかったのだろうか?
日本固有の発想というか、思想がそういう概念を拒絶しているのか、それとも合理的になりきれない日本人の特性なのか…。
どちらにしても、良いものを作っていてもそれを活用できない所があるのが日本のような機がして鳴らない。
もったいない話である。