先日、ちょっとした事から試してみた。
思い出のX68k
私が…いつだったか手にしたX68000 EXPERTは、周囲の人間の羨望の的だった。
当時、PCと言えばほとんどがNEC製で、変わり種な人達が富士通製、低価格で攻めている人…というよりそうせざるをえなかった人はMSXシリーズと、PCと一言に言ってもプラットフォームがバラバラな時期だった。
私も元々はNEC製PC8801mk2SRを使用していたのだが、その次の機種として手元に確保できたのがX68000 EXPERTだった。
X68000シリーズは、CPUの処理能力だけで言えば実の所NEC製のPC-9801シリーズの方が後々には上回る事になったのだが、X68kシリーズには他にはない大容量VRAMとメインメモリ、グラフィックコントローラー群による、65,536色の多色グラフィックスとスプライト機能、そしてFM音源8chとADPCMという飛び道具が搭載されていた事により、マルチメディアマシンとしての性能はPC-9801シリーズよりずっと上を進んでいた。
そんなマシンが手元に来たのである。周囲の友人からはうらやましがられるのも当然であり、私も誇らしかった事を思い出す。
私がX68kシリーズが欲しかった最大の理由は…ゲームで遊びたかったというのもあるが(爆)、それ以上に実はプログラマを目指したかったというのがあった。
私は最終的には専門家になれなかった人なので、話の所々に間違いがあるかもしれないが、当時モトローラのMC68000というMPU(CPUと同義語)は、プログラマがプログラミングしやすい作りになっていて、x68系(当時は8086系とか8080系とか言われた)よりも使用できるメモリに自由度があるPCが多かったと言われていた。X68kはこのモトローラのMC68000を搭載した製品だったため、前述のような大容量のメモリ等を搭載していたワケだが、X68kはさらにX-BasicというBasicプログラムが標準で搭載されていたのである。私はこのX-Basicを使ってみたかったのである。
X-Basic
Basicという開発言語を今の人は知っているのだろうか?
…いや、知っているとは思うが、昔のような真っ黒な画面にアルファベットをポチポチ打っていきプログラムを記述するようなBasicは多分知らないんじゃないかと思う。
今、WindowsではVisual Basicというものが基本になっているハズ(たぶん)で、プロでない人はVisual Studioを使って開発をしている人が多いのではないかと思う(もちろん他にも開発言語はあるので、既にBasicを使っていないという人が大多数だろうが)。
現在はC言語が主流…というか、この流れの開発言語が多いと思うが、まだC言語が今ほど定着していなかった頃、このC言語にもっとも近いBasicがX-Basicだった。
X-Basicは、いくつかのコマンドを廃止し、代替コマンドを使って処理する事で、C言語にコンパイルできるツールが用意されていた。
Basic? コンパイル? 多分、詳しくない人は疑問符の連続だと思う。
もともとBasicは、インタプリタ型言語で、記述されたプログラムを行単位でマシン語に変換、実行させる言語である。だから、プログラム実行は常に変換作業を伴う為、その実行速度が遅いのが難点であったが、代わりに言語がほとんど英語記述であったため、人間側から見ると、プログラムの中身はわかりやすいという特徴がある。この「人間が理解しやすい」言語の事を高級言語と言い、Basicは最上の高級言語とされていた(日本語環境を除く)。
それに比べ、C言語は記述時にはある程度人間でもわかりやすい記述でプログラムを書いていき、その後コンパイルという作業を通して、実行前にマシン語に近い形に変換する。それによって、プログラム実行時には変換作業を必要としない事から、Basicよりはずっと高速にプログラムを実行できるというメリットがあった。
だが、C言語は当時、C言語の記述方法をちゃんと学ぶ必要があり、Basicをやった事がある人がすんなりとC言語のプログラムを記述できるとは限らなかったのである。
ところが…このX-Basicは、Cコンパイラというツールを使うと、なんとコンパイルできてしまうのである。つまり、C言語プログラムとして動作させられたのである。
私からすると、夢のような環境だったわけである。
それでも挫折した
その開発環境を手に入れたかった…というのが、私がX68kを欲しいと思っていた最大の理由である。
そして遂にX68kが手元に来たのだが…結果として私はプログラマにはなれなかった。
X-Basicの時点で挫折したのである。
いや、今ならひょっとしたら覚えられるのかも知れないが、当時の私は自分の中にある可能性のあらゆる部分にアンテナを張っていたため、自分が最終的に目指したい方向を決めた時、プログラマが最優先ではなかったのである。
自分が目指したい最終的な方向は、コンテンツメディアの制作という、もっと曖昧でもっと大きなものを対象としたものだった。得てしてこの目標は最終的には一度達成する事はできたのだが、学生時代からその目標が存在していたのである。
なのでプログラマを目指したいと思っていた気持ちはココロの奥底に残しつつも、もっと違う側面を求めて活動方向が変わってしまった。
今にして思えば、壮大なムダ使いだったかもしれない。ただ、X68kに触れた事で得られたフィーリングとショックは大きなものだったため、私の思考において今でも影響を与えたとは思っている。
再燃…ではない
こんな思い出のX68kだが、その後、私のPC遍歴は結構多彩な道を辿ったのではないかと思う。
PC-9801シリーズ(Epson機含む)、FM-Towns、(Amiga)、Macintosh…と進みながら、結果的にWindows機へと進み、今はWindowsの自作PCを使用している。
最近ではハードウェアが何であるとか、そういう問題ではなく、OS種別によって種類が異なるような環境になったワケだが、趣味も実務もWindowsでこなせる環境があるため、Windowsを使っていれば特に困る事がない。
そんな中、ふと、昔のX68kの事を思い出し、使ってみたいなぁ…という気持ちになった。
プログラムを作ってみたい…そういう気持ちが再燃したわけではない。もしそうなら、Windows上でプログラムを組める環境を整えれば良いだけの事である。
今回思ったのは、あのX68000の雰囲気を感じたいなぁ、という事である。
あの独特とも言えるOS「Human68k」の雰囲気とか、マルチタスクOS「SX-Window」の雰囲気を、見たいなぁと思ったわけである。
で、これは前々から知っていた知識だが、X68000はその仕様の多くが一般公開されているため、その雰囲気をもう一度という時は、エミュレータがあればWindows上でも再現させる事ができる。
なので、それを使って、あの感動を再現してみる事にしたのである。
使ったのはXM6系
いくつかあるX68kエミュレータの中で、私がチョイスしたのはXM6という安定性の高いエミュレータである。
X68kエミュレータは昔からいろいろ沢山あるのだが、ここ最近は開発が止まってしまっているものが多いのだが、XM6系は現在も継続して開発されているバージョンも存在していて、XM6iというのがそのバージョンにあたる。
ただし、今回私が選んだのはXM6 TypeGと呼ばれるもので、これも継続して開発が進んでいるものである。今以て続けている人がいるというのもスゴイ話ではあるが、今回はコイツを選んでみた。
実際導入しようとすると、結構いろいろ問題があったりする。
起動に必要なIPLやらフォントデータなど、用意すべきものがいろいろあって、ネットをいろいろ彷徨ったり、或いは作成したりして、とりあえず起動できるだけの下準備を整えて、実行してみた。いやぁ、ちゃんと動くものだなぁ(爆)
以前からやってみようとは思っていたが、なかなか実行する事ができなかったX68kエミュレータだが、その再現性の高さに実に驚きである。
特に笑ったのが、エミュレータ右下のFDインジケータの部分でディスクイメージにアクセスしている時はちゃんとアクセスランプのように色が変わり、しかもその部分をクリックすると、ちゃんとディスクイメージをイジェクトする(ファイルの開き直し)が起きるという事。芸が細かいw
ゲームも動く…らしい
このエミュレータは当然ハードウェアをエミュレーションしているので、ディスクイメージさえあればほぼ全てのプログラムが稼働する。
なので市販されていたゲームもディスクイメージさえ確保できれば、それをローディングする事で起動できるらしい。
らしい…というのは、そのディスクイメージを私が持っていない為。
もしディスクイメージを吸い出す事ができる環境があるならば、私も押し入れに押し込まれている昔のFDソフトからプログラムを吸い出して起動できるのかもしれないが、現時点ではそこまで出来ていないのでまだ確認はできていない。
ネットで遺法アップロードされているプログラムを入手すれば確認はできるのかもしれないが…まぁそこまでを目的としていないので、とりあえずは今はSX-Window等が動けばそれでいい。
もしゲームを動かす事ができれば、ゲームコントローラーとかが稼働できるかをテストして、遊んでみる、なんて事もできるかもしれない。
それだけでも、結構遊べるかな、と今は思っている。
今にして思うと、X68000は実に楽しいガジェットだった。
FM音源の音の美しさに改めて気付かされたのもX68000だった。PC-8801mk2SRもFM音源を搭載していたが、YM2151というFM音源チップの凄さを教えてくれたのは紛れもないX68000である。
スプライトというファミコンにも搭載されていたグラフィック機能が、普通のパソコンに搭載されていないにも関わらず、X68000には搭載されていて、それがあるとビジュアル性が一気に向上するという事もX68000で初めて知った。なんというか…実に革命的異端児だったように思う。
そんなX68000から生まれたクリエイターが多いというのも実にうなずける。
そしてそれに触れる事ができた事を、私は今も誇りに思っている。
家のパソコンが NEC PC-8801mkⅡ→9801RA とNEC で遷移していったので、物凄く羨ましかったのを覚えてます。
あのスタイリッシュなタワー型は憧れたなぁ。
特に、8801mkⅡはFM音源非搭載だったので、他のパソコンが眩しかった…w
MS-DOSの640k制限と戦った日々が懐かしいです。
(その意味でもモトローラ系は羨ましかった…)
返信
確かにあの当時X68000を持っているというだけで相当なステータスだったように思います。
しかも、ハードウェアとしても独特だったし、何よりその表現力が他ハードを圧倒していたので、CPU能力でPC-9801が優っていたとしても、アウトプットされるコンテンツの魅力ではダントツX68000が目立ってた。
そういう意味で、このハードを所有していたというアドバンテージが、私がその後コンテンツ業界に向かうきっかけだったのかもしれません。
しかし…このエミュレータ、今一つ問題がありまして…
折角HDDイメージマウント機能があるのに、それを有効にできるユーティリティソフト「XM6Uti.exe」が見つからない為に使えないという自体に…。
困ったなぁ(-_-;)
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