SHARPが世界最高変換効率36.9%の太陽電池セルを発表した。
この太陽電池セルは“化合物3接合型太陽電池”と呼ばれるもので、一般家庭の屋根に取り付けられるソーラーパネルに使われている“シリコン結晶系の太陽電池”とは異なるタイプ。では何に使われているかというと、主として人工衛星で使われ、集光型と呼ばれるレンズで太陽光を集めるタイプのシステムで利用されるものである。
ただ、見て分かる通り、今回の36.9%というのは、レンズで集光した際の変換効率ではなく、あくまでも非集光時のもの。
では今まではどうだったかというと、2009年に同じくSHARPが非集光時に35.8%という記録を残している。2年で1.1%増という事になるが、これをスゴイという実感を持つ人は意外と少ないのではないかと思う。技術的にはかなり大変な事をしている為、実際問題この1.1%増というのはかなりスゴイ事をしているのである。
では集光時はどれぐらいなのか? というと、実は集光しても50%に満たない。目標は45%なのだが、実際問題としては43.2%に留まっている。まだまだ課題が多く残っていると言えよう。
だが、ほとんどの人が気になるのは、この“化合物3接合型太陽電池”ではなく、一般家庭の屋根などに取り付けられる“シリコン結晶系の太陽電池”の電力効率なのではないかと思う。
正直、人工衛星に取り付けるタイプの効率ももちろん社会的に必要とは思うが、今のエネルギー問題を根底から解決するには、家庭の屋根に取り付けるソーラーパネルの変換効率が上がらない事には解決できないのは誰しもが考えるところだと思う。
では実際に家庭用ソーラーパネルはどれぐらいの変換効率なのか?
実はシリコン結晶という単一の半導体を使用している現状ではバンドギャップ(反応する帯域とでも言おうか)が一定の値に決まり、赤外光から近紫外光まで幅広いスペクトルをもつ太陽光のうち一部のエネルギーだけしか利用できない。
もちろん、最近は同じシリコンでも単結晶のみならず多結晶、微結晶、アモルファスシリコンなど、生産性をいろいろ考慮したものが作られているが、基本的にシリコンである以上、エネルギーとする事ができる帯域は一部でしかない。
そのため、現状ではシリコン結晶のセルで25%、このセルを複数組み合わせてモジュール化した場合で20%ほどしか変換できない。モジュール化すると効率が落ちるならセル単位で…と考える人もいるかもしれないが、それだとソーラーパネルの構造が複雑化し、面積的に効率が良くない。結局、今の一般家庭用ソーラーパネルでは大体20%しかエネルギー変換しないのである。
では何故今回発表された“化合物3接合型太陽電池”は非集光で36.9%という効率を生み出しているのか?
これはその名の通り、3種の化合物で発電しているからだ。
“InGaP:インジウムガリウムリン”“GaAs:ガリウムヒ素”“InGaAs:インジムガリウムヒ素”の3種の化合物が使用されているのだが、これらは各々で太陽光からエネルギーを取り出せる波長が異なっているためにより幅広い波長から電力変換しているのである。
なら家庭用でも同じ原理でできないのだろうか?
私が思うくらいだから、SHARPふくめてあらゆるメーカーが研究しているのだろうが、その方向に向かっていない事を考えると、おそらくコストや調達の問題があるのだろう。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、2050年までの太陽光発電のロードマップを公開しているが、2050年の時点で変換効率40%を目標としている。
2050年。数字で言ってしまえば一言だが、まだ39年も後の目標値が40%なのである。
この状況を踏まえて考えてみると、果たして不足しているエネルギー問題を太陽光に頼っていて良いのだろうか?
普通に考えれば、太陽光に全てを求めるのは不可能だろう。
何か、とんでもないくらいの変換効率を持った太陽光発電を発明できれば別の話だが…。
家庭用のソーラーパネルで40%くらいの効率を出してくれれば、家庭用の消費電力はかなりまかなえるように思える。
それに加えて家庭用の風力発電システムが広がれば、太陽光と風力でかなりの部分をまかなえるのではないか?
もちろん、風力には回転から生じるノイズなども問題として出てくるわけだが、いくつかの発電システムを組み合わせ、まず家庭で消費する電力を各家庭でまかなえるようにしてしまえば、エネルギー問題はかなり改善されるハズだ。ただ、もっとも電力を消費するのは各家庭ではなく、工場などの産業施設なワケだが、各家庭への給電は生活維持に関わるため、まずそこを解決できる仕組みを作ることができれば、大規模発電による電力を産業施設に回すことが出来る。これでも大きな問題改善となるのではないだろうか?
正直、私は電気のない生活は考えられない。故に発電というものが気になって仕方がない。節電する事は重要だとは思うが、低消費電力に向かう一方でまず安定供給可能な発電の仕組みは必須だろうと思っている。
そういうワケで、発電システムを開発しているメーカーにはもっとがんばって欲しい所である。
他力本願で申し訳ないが orz