現在のネットワークの主流プロトコルはTCPという仕組み。
トランスミッションコントロールプロトコルの略で、伝送制御プロトコルと言われるものである。
インターネットにおけるプロトコルスイートの中核をなすプロトコルのひとつで、さらにスイートに当初からある2つコンポーネントの一つであり、もうひとつのコンポーネントがIP(インターネットプロトコル)であるため、よくTCP/IPとスイート全体を指して言われる事がある。
ネットワークに携わるものなら、TCP/IPという言葉は一度は聞いた事があるはず。
それぐらいメジャーなものである。
今現在、そのTCPを利用しているのは、TCPが欠損パケット再送などのエラー訂正機能などを持っていてデータ転送などで信頼性が高い為である。その弊害として同じトランスポート層にある他プロトコルより低速という問題があるが、信頼性とトレードオフという観点から使われるケースが多かったという事である。
通常、一般人であればTCP/IPでの通信で何ら困る事はないのだが、大量のデータ伝送を必要とする人達からすると、この速度はどうにかしたいところ。
昨今の自然災害で企業が持つデータを保守しなければならない人からすると、海外拠点などのデータをとにかく世界中にバックアップを取り、いつどこでそれを失っても復帰できる体制というのを実現しようとすれば、確かに今のTCP通信では遅すぎるかもしれない。
そんな問題を解決する手法を、Skeedという企業が開発したプロトコルで解決できるという。
SkeedはあのWinnyの開発者である金子勇氏が創設した会社で、TCPでは使いきれていなかった帯域をアグレッシブに使えるという独自プロトコル“SSBP(Skeed Silver Bullet Protocol)”を開発した。
金子氏曰く「SSBPではTCPと比較して、通信距離が長い場合や回線品質が低い場合の通信がものすごく速くなる」そうである。
今回、このSkeedが開発したSSBPを使用して、NHN Japan子会社のデータホテルとSkeedがグローバル間のデータ転送を高速化させるクラウドサービス「データホテル クラウド コネクト」を発表した。6月12日の話である。
その概要としては、米国、ブラジル、アイルランド、韓国、オーストラリア、日本の6カ国10カ所に設置されたデータホテルの通信拠点を仮想ネットワークで結び、その2点間の通信スピードを高速化させるというサービスになる。
一例ではあるが、日本からアイルランド・ダブリンに1GBのデータを送信する場合、従来のFTP通信で約90分かかっていたものを、約3分に短縮する事が可能になるという。
その速度差約30倍。
何がどうなってそうなるのかは分からないが、3分1GBというだけでも、これだけの長距離通信で可能になる事そのものがオカシイ。
まぁ、そのオカシイが現実になったワケではあるが、これぐらいの速度があれば、前述の海外拠点のデータバックアップもそんなに難しい話ではなくなるのかもしれない。
ただ、これによって大きな恩恵を受けられるのは、おそらく海外事業を展開している多国籍企業や、国家などではないかと思っている。
例えば一般の民間企業、それも中小企業の場合は、そもそもそれだけの長距離に渡った通信を必要としない。
しかし、実際には大量のデータのバックアップ、それも出来れば国内で安全にデータ保守が出来る場所への通信を必要としている。
たとえば関東の会社が、関西のデータセンターへ毎日データのバックアップを取る、といった感じだ。その通信速度が劇的に30倍アップする…というような話なら、恩恵を受ける企業ももっと多いかもしれない。
昨今の災害に対するデータ保守の必要性は、どの企業も感じている所であり、クラウドの必要性はそうしたBCP(事業継続計画)に根ざしたものがほとんどだ。
余談だが…実の所、私の勤務する会社ではこの部分が非常に弱い。
製造業はCAD/CAMのデータやモデリングデータをはじめ、文書類だけでないデータがかなり多い。もちろんIT企業ほどではないかもしれないが、そうしたデータを保守する観点で考えても、実に保守に予算を割いていない。
私はそうした社内のIT管理を行っているのだが、私の前任者が実に予算をかけずにシステムを作ったおかけで「何とか使える」という仕組みに収まっていて、それが逆に会社側からは「予算をかけなくても運用できるシステムになる」という思いを抱かせてしまった。
もちろん予算をかければ良いというものではない。必要な所に必要な予算を割ければよかったのだが、目に見えないものにはお金を出せない、という体質をより強固なものにしてしまった。
富士山のある土地に企業がある以上、災害が起きたときに今あるデータを完全に守り切る事ができるか? と言われれば、今は即答できる。答えはNoだ。
できれば、関東、関西の両拠点に、何かしらのバックアップ体制を持ちたい所だが、クラウドは継続的予算を必要とする。とても今の経営者の考え方では予算はでない。
低予算で、かつ高速にデータ通信できるサービスが実現できれば、中小企業でもそうしたデータ保守の観念が生まれるかもしれないのだが…。
ま、とある生産管理システムの営業の人が言っていたのだが、中小企業がそうしたシステムデータをバックアップするのに、今のクラウドシステムでデータを守るという事が予算的にメリットがあるのか? と問われればNoだ、と言っていた。
一番確実なのは毎日物理的にバックアップを取って、それを防災金庫に厳重に入れて管理する方が現実的…なんだそうだ。
たしかにかかるコストと必要性を天秤にかければ、そうした現実が見えてくるのだが、それらを守る事を宿命とするシステム管理者からすれば、データを失ってしまうかもしれない問題を何とか解決したいワケで、そのあたりは、永遠のテーマなのかもしれない。
何はともあれ、Winnyの開発者はやはりタダ者ではなかった。ただ開発しただけで罪に問う事は、こうした天才を時に失ってしまう可能性がある。日本はもっと広い視野でそれぞれの功績を分析できる国にならねばならない。たとえばホリエモン。彼は日本の株式という仕組みの落とし穴を明確に実証してみせた。やった事は問題かもしれないが、そこに着眼したという功績は決してマイナスではないはずである。
話がそれてしまったが、とにかくTCPの30倍の転送速度が生み出す今後の未来が、もっと底辺に活かされる時代が来ることを切に願う。