元身内のGlobalFoundriesではないというのか…。
ファブレス故の選択肢
AMDは今年、Zenアーキテクチャの進化判であるZen+アーキテクチャを採用したRyzen 2000シリーズ(第2世代Ryzen)を市場に投下したが、このRyzen 2000シリーズの製造プロセスは12nmだった。
これは現状で安定した製造が望める製造プロセスを選択したという事でもあり、Intelも苦しんでいる10nmプロセスに踏み込むにはまだ早いと考えた結果とも言える。
もっと詳しい人なら明確な説明ができると思うが、Intelの10nmプロセスは、他の半導体製造ファウンダリーからするとほぼ7nmプロセスと同等の意味を持つ。Intelの製造プロセスの方が、より高度、という事が言えるかも知れないが、半導体には各層があり、その層の構造等によって、製造プロセスの数え方が異なるのがややこしい限りである。
とりあえず、Intelは自社製品の製造を自社ファウンドリで製造しているため、自社の製造プロセスの技術に根付いた製品展開が中心となるが、AMDはそれとは異なり、現在のAMDはファブレスである以上、大手半導体製造ファウンダリーに自社製品を製造してもらう必要がある。だから大手ファウンドリの製造技術に依存しなければならないという問題を持つが、これは世界的にもスタンダードな方法でもある。
ある意味、Intelだけが特殊な存在とも言えるが、元々AMDも自社ファウンドリを持っていた。しかし悪化した経営体制を改善する中で、製造部門を切り離すという判断を行い、アプダビの企業に製造部門を売却し、ファブレスの半導体メーカーに転身した。
これが2008年10月の話で、その後製造部門の分社化が完了したのが2009年3月。この時から、AMDはファブレスの半導体製造メーカーになり、以降は製造技術を考慮しなくてもよいメーカーになった。
こうした経緯から、今のAMDはある意味製造技術を持つファウンドリを選択できる立場になった。だが、元々身内だったGlobalFoundriesに対して、私としては肩入れしているものと思っていたのだが、実際はそうでもないという話が出てきた。
ビジネスの世界はかくも厳しく
AMDの次期主力となるZen2アーキテクチャは、7nmプロセスで製造する予定という話である。
当然、現在開発中のGlobalFoundriesの7nm製造プロセスでZen2を製造するもの、と思っていたら、ここにきてTSMCの7nmプロセスで製造するという話が浮上してきた。今までAMDの主要CPUやGPUを製造してきたGlobalFoundriesではなく、TSMCだというのである。
しかもZen2だけでなく、次期主力GPUと言われているNaviもまた、TSMCだというのである。ある意味、AMDにとって大転換点とも言える変化である。
何故このような事が起きたのかと思ったのだが、この話が出た同日に、GlobalFoundriesから7nm FinFETプログラムを無期限に保留するという発表が行われた。つまり、GlobalFoundriesは7nmプロセスを諦め、開発を凍結するという事である。
どういう経緯で7nmプロセスを凍結するに至ったのかは不明だが、AMDはTSMCとGlobalFoundriesの製造プロセスを天秤にかけ、最終的にTSMCを選択した、という事で、GlobalFoundriesの最大顧客であるAMDを失った事でGlobalFoundriesは7nmプロセスを諦めたのかもしれない。これにより、GlobalFoundriesは人員削減、研究開発チームの改編を実施し、既存の12nmおよび14nmプロセスを拡充する方針に転換するようである。
元身内であっても、要求要素を満たすことのできなかったGlobalFoundriesを切るAMDを見ると、ビジネスの世界はかくも厳しいものなのか…と思う。
まぁ…AMD以外の顧客からもGlobalFoundriesの7nmプロセスに対して製造依頼が来ていないという事そのものが、問題なのかもしれないが。
TSMCの強さ
一説によると、Appleの新iPhoneのコアA12の製造もTSMCが請け負っているという話だし、今のTSMCは実に強い半導体製造ファウンダリーと言える。
また、次期PS5(いつ登場するかは不明だし、アーキテクチャも不明だが)のコアが、PS4と同じくAMDのアーキテクチャを採用するようであれば、おそらくその製造もTSMCが行う事になるだろう。当然、ライバルであるXbox系も同じAMDのコアを採用しているので、製造はTSMCになる可能性が高い。
x86系の製造ベンダーとしての地位を確実なものにするほど、今のTSMCには勢いがあるように思う。
GlobalFoundriesは、アブダビが投資した企業だが、今後の動向によってはその姿が消えていく可能性がなきにしもあらず…といった状況かもしれない。そうならないような施策は採るだろうが、最先端技術を捨てるという事は、この業界では手厳しい状況と言わざるを得ない。
しかし…世の中厳しい状況とはいったものの、血も涙もない世界なのかと。
ま、それだけいろんな企業がしのぎを削って生きているという事なのかもしれない。