SoftBankがARMをNVIDIAに売却する事で、ITの表舞台から後退するのかと思ったが、実はそう単純な話ではなかったようだ。
ARM、またしても売却へ
SoftBankがARMを売却する。
この話は、実は結構前から話題に上っていて、業績不振が続くSoftBankが価値あるARMという企業を売却して業績回復を狙うのでは、という事だった。
今回、その話が事実である事が明るみとなり、その売却先がNVIDIAになる事も判明した。
NVIDIAはGPUメーカーとしてはPC業界で知らぬ者がいない程有名な企業で、自社でARMアーキテクチャのSoCである「Tegra」などを開発している。
今回のNVIDIAによるARM買収は、ある意味、NVIDIAがSoC業界の最大手になる事を意味するだけでなく、今後のIT業界の方向性すら左右する存在になった事を意味する。
ここまで大きな影響となると、流石にすんなりとはいかず、最終的には英国、中国、EU、米国を含む各国の規制当局の承認を得る必要がある。
これらの承認の関係から、18ヶ月かけて買収費用を支払い、移管される。
その買収額だが、4.2兆円と言われ、ソフトバンクが英国より買い取った3.3兆円を超える価格となる。
SoftBankとしては、0.9兆円の純利益が出る事になるが、そう単純な話にはならないようで、まずはNVIDIAからSoftBankグループに対して120億ドルの現金と215億ドル相当のNVIDIA株式が支払われる。その後、アーンアウト条項に基づいて、ARMが一定の行政目標を達成することを条件に最大50億ドルを受取る事になる。
どっちにしても気の遠くなるような金額の話ではあるが、今後のIT業界を左右する話でもあるので、その額は相応額という事なのだろう。
NVIDIAの筆頭株主
今回の件で、SoftBankが重要なARMを売却し、痛手を負うのかな、と単純に思ったのだが、妙なカラクリがある様子。
いや、実際にはカラクリでも何でも無いのだが、なんと、今回の件でSoftBankグループに215億ドル相当のNVIDIA株が支払われる事で、どうもNVIDIAの筆頭株主としてSoftBankが君臨するようになるらしい。
となると、ARMを買収したNVIDIAをSoftBankがコントロールする事になるので、事実上、SoftBankはARMに影響を与えられる存在のままではないか? と考えられる。
また、ARMはIoT事業及びデータ事業を切り離してSoftBankグループへ移管すると発表していたが、今回のARM買収の話が持ち上がった8月にこの話を取りやめていて、2事業はARM傘下の独立起業として維持していく事になるようだ。
独占禁止法にひっかかる?
今回、NVIDIAという企業がARMを買収するとあって、その結果、モバイル向けSoCからスーパーコンピュータ分野にまで影響力を及ぼす企業になると考えられる。
こうなってくると、各国で独占禁止法に抵触する可能性が出てくるわけで、それを精査する為に18ヶ月かけて各国当局から承認を受ける必要がある、と言われている。
当初からこのように言われているので、この買収そのものが精査によって長引く事も考えられ、具体的にいつ頃にこの巨星企業となるのかは不明である。
IntelとIBMが合併するぐらいの規模にはならないだろうが、それに近いレベルで業界が慌ただしくなる話である。
GPU分野でライバル視されるAMDからしてみれば、一部分野で驚異的な企業となる事は間違いが無く、AMDの今後の動きがちょっと気になる…と考えるのは私だけだろうか?
何はともあれ、SoftBank、NVIDIA、ARMの思惑がどこに向かっていて、最終的にどのように落ち着くのかは、今後判明していく事になる。
転んでもただでは起きないSoftBank…という印象が、今回も私にはあるのだが、金融というのは、実に奥深く、また大胆な戦略で白が黒になったり、黒が白になったりするのだな、と感じる。
実に恐ろしい。