SD画質ながら1作品26話が1枚のBlu-rayに収まるという事の意味。
無理矢理なHDは必要か?
映像コンテンツを扱っていた会社に勤めていた経歴を持つから…というわけではないのだが、私は以前から一つ疑問に思っていた事がある。
それは、昔のコンテンツを無理矢理アップコンバートしてHD画質、あるいはフルHD画質に持ち上げる必要があるのか? という事である。
もちろん、現在の視聴環境がフルHD以上であれば、その再生映像がそれに準じてくれれば有り難いという気持ちは、ほとんどの人が共通で持つ事も理解できる。
だが、元々の映像がSD画質でしか制作されていない作品をHD化、フルHD化する場合は、元々の作品がアナログのフィルム等で残っている場合は、その媒体の撮影をやり直す事で映像は高解像度化する事はできるが、デジタルである場合はどうしてもアップコンバートになってしまう。
アップコンパートとなると、どうしても映像のリサンプリングを自動化して行われるのだが、この自動化を上手くやらないと、映像が逆に汚くなったり、不自然になったりする。
だからいろいろなメーカーがこのアップコンバートの設定等を調整し、より綺麗なアップコンバートが可能な状態を作り、それをブランド化したりして大々的にアピール、昔のコンテンツに付加価値を付けたりするのだが、この行為そのものに私は実は懐疑的だったりする。
というのも、もともと映像はドットバイドットである必要がなく、通常は表示側が映像側を超える解像度を持っていればそれなりに滑らかに表示できるもの、と私は認識しているからである。
どういう事かというと、映像データが1920×1080という解像度を持っている場合、表示する機器がそれ以上の解像度を持っていれば、映像は少なくとも1920×1080品質を達成し、表示側で多少アンチエイリアス気味で表示させる事で滑らかな表示を可能にできてしまうのである。
よく、テレビ等が高解像技術等で滑らかな表示をさせる機能を持っている事があるが、それを使った表示によって、滑らかな表示は可能だったりする。
だからもともとのソースである映像データ側を無理矢理HD化させると、逆に表示側は映像データを忠実に表示しようとして、アップコンバート品質を超える表示をしなくなる。テレビ側は余裕を持って表示しようとしているのに、映像データが大きくなる事で余裕のない表示しかしなくなるのである。
昔、ある人に話を聞いた事があるのだが、表示側の理想は映像データの4倍の表示能力を持っている事なんだそうである。
だとしたら、あえてアップコンバートする必要はあるのだろうか?
ひぐらしのなく頃に
その答えの一つ…というわけではないが、私がかつて努めていた会社が発売元となり、2006年にTVシリーズが放送された第1シリーズの「ひぐらしのなく頃に」と、第2シリーズの「ひぐらしのなく頃に解」が、SD品質でそれぞれ全26話、全24話を各1枚のBlu-rayディスクに納めて、低価格再販する事が発表された。
SD品質といっても、DVD画質を上回るハイレートSD画質(480i)という事のようだが、結局インターレース画質である以上、おそらくは極端にDVD画質を上回る事はないものと思われる。
この発売で喜ばしいのは、約9時間のフルボリュームでありながら、価格は9,000円と安く、しかも1枚収録であるため面倒なメディア入れ替え等がないという事である。この部分は今までにない、実に野心的な展開である。
今回、この発売が決まったのは、元々の映像がSD画質だったという事が大きな意味になっているのだろうと思うのだが、それ以上にアップコンバートに手間と予算を掛けるよりはリマスタリング程度におさめて原価を下げ、より幅広く提供しようという所に、発売の意図があるように思える。
個人的には奨励したい企画である。
その昔…
実は、こういった“面倒なメディア入れ替えが必要ない”という要望は、私がかつてその業界にいたときにも話に出ていたことがある。
ちょうど、Blu-ray規格がHD DVD規格との次世代争いに決着をつけそうな時期だったと思うのだが、そのとある作品のクリエイターと打合せをしていた時に、ある過去作品がBlu-rayでリマスタリングされて発売されるという話になり、過去作品がこうして新しいメディアにリマスタリングされる事は喜ばしい事としながらも、何故より大容量になっているのにメディアを複数枚にして発売するのか? という話がそのクリエイターから出た。
クリエイター曰く、Blu-rayは2層でDVDの10倍近く容量があるのに、発売される枚数が変わらない事で、没頭して観る事ができないのは非常に残念だと言っていた。
この話は、表示する側の機器を全く考慮していない言葉ではあるのだが、たしかにDVDと同品質ならば当然メディア枚数は減って当たり前の事であり、そのクリエイターとしては、オリジナルの画質をアップコンバートで上げる行為は、オリジナルへの冒涜である、と言うのである。
発売元がより綺麗な映像で…と考える事が悪い事とは思わないが、このクリエイターの考え方も一理あると言える。
この話は、当時私以外のF社(今回の発売元)社員が聞いていた話でもあるのだが、メディア枚数が減ることで入れ替えがない事のメリットについては、その社員もたしかにそうだなぁ、という話をしていた記憶がある。
今回の「ひぐらしのなく頃に」が、その話をベースに展開されたもの…とは思わないが、そうした要望がいろいろな所から上がっていた事実は確かに存在していた。
考える事は、今も昔も変わらないという事である。
あとに続くか?
こうしたSD画質による映像作品の提供に関して、私が興味があるのは、他メーカーも追従するかどうか? という事である。
個人的には追従して欲しいとは思うのだが、昔のコンテンツを安売りする事にも繋がる為、全てのメーカーが追従するとは考えにくい。
ただ、こういうコンテンツの売り方は売れなくなったコンテンツを再び売るには最適な方法でもあり、埋もれてしまったコンテンツの再発掘にもなる為、ぜひそうしたコンテンツを持っているメーカーには追従して欲しいと思う。
オリジナルに手を入れてアップコンバートするという手法は、今後も行われる事は間違いないが、表示媒体にも高画質化機能が存在していて、それを利用する事によってSD画質で低価格提供できるという一つの考え方は、提供方法としては十分アリだと私は思う。
今後もこうした製品の発売が行われる事を切に願いたい。