先日、米カリフォルニア州で“Flash Memory Summit 2009”という次世代メモリのプレナリセッションが行われた。
現在、世界中に普及しているNANDフラッシュメモリの後継になるのか、現在のDRAMの後継になるのか、それは各々のメモリの特性によるところではあるが、ほとんどがこの両者の特性を併せ持つメモリ特性を示しているように思う。
要するに、NANDフラッシュメモリのように記録を維持でき、なおかつDRAMのような読込・書込速度をもったメモリである。
こうした夢のようなメモリが存在しなかったのか? というと、実は数年前から話題に上ったりしている。ないわけではないのである。
今回のプレナリセッションでは、それらがより具体的な案件として着実に進んでいる事を示していたようだ。
まず、DRAMの速度とNANDフラッシュメモリの保持性を両立させるためには、NANDフラッシュメモリをDRAM並に高速化させるか、DRAMにフラッシュメモリのような保持性を持たせるか、どちらかが有力と考えられる。
ところがNANDフラッシュメモリは、その特性上書き換え回数の問題が常について回るため、優秀なコントローラーを開発したとしても、絶対的な耐久力に劣るという問題が残ってしまう。
すると自然とDRAMベースでデータの保持が可能なものへとシフトしていくのだが、その考えから発展したのがMRAMだと言える。
MRAMは磁気によってデータを保持する仕組みで、この考え方は数年前から実際にテストRAMが作られ、いろいろな実験が行われている。
今回のプレナリセッションで講演されたMRAMはさらにそこから進化したもので、一つがTAS(Thermal Asisted Switching)-MRAMと呼ばれるもので、もう一つがSTT-RAM(Spin-Transfer Torque RAM)と呼ばれるものである。
MRAMは磁化反転(磁気の方向の逆転)を利用してデータを書き込む方式で、TAS-MRAMはこの磁化反転に熱エネルギーを利用する方式。通常のMRAMではその磁化反転の為に誘起用配線が2本必要になるのだが、TAS-MRAMは熱エネルギーでコントロールするため、その誘起用配線が1本で済むという。
このため、組み込むものが少なくなる関係上、通常のMRAMより高密度にしやすいという特性を持つ。2010年には最初の製品を製造予定という事で、最初の製造技術は130nmプロセスになるらしい。
また、STT-RAMは電子スピンの磁気トルクを利用して磁化反転を起こすという技術で、既存のMRAM技術と違って磁化反転誘起用配線が不要である事から、より高密度化しやすいらしい。さらに微細化するとともに書き込み電流が減少する傾向にある(!)ことから、大容量化にも適しているとの事。
単純に考えれば前述のTAS-MRAMよりも優れた技術に聞こえるが、実際に試作テストを行ったところ完全に機能したようである。
私的に最も期待したいMRAMである。
このようにMRAMは非常に優れた実験が行われ、成果を見せ始めている。同時にNANDフラッシュメモリの方向性のメモリも研究開発が進んでいる。
それがReRAM(抵抗変化メモリ)という技術で、2010年に64Gbitチップの試作生産を始め、2011年には128Gbitチップの試作生産を始めたいとするぐらい進んでいるようだ。製品区分としてNANDフラッシュメモリよりも大容量のチップを狙うようである。
このようなMRAMやReRAMが市販化されると、どういった事が起きるかというと、現在のWindowsを一度起動したならば、再度起動する際には前回のメモリ内容をそのまま保持した状態で起動できる、つまり好きな時に電源を落とし、好きな時に電源を入れても前の状態に復帰するというPCが可能になるという事である。
OSのメモリ管理機能が全く問題のないものであるならば、再起動という言葉が不要になるような話だ。
新しいOSが出る度に「OSの起動時間が短縮した」とか「前よりも起動が遅くなった」とかいろいろ話が出てくるが、次世代メモリではそうした言葉の意味がかなり薄れていく事になる。
何年後に実用化となるのかはまだ分からないが、耐久力という意味では既に民生品に使えるような気がするだけに、早期の発売が臨まれる。
まぁ、それもコストが見合っての話であるのだが。