米AMDが現地時間の9月10日に、米国オークランドにおいてプレスカンファレンスを開催し“AMD VISION”を紹介した。
その中で“1GPUで最大6画面を出力可能なEyefinity”という技術を発表したのだが、それは1チップGPUで6画面、cross fire Xを利用する事で最大24画面(4GPUによる制御)を制御できるという。
1台のPCで最大268Mピクセルを制御できる事になり、これは人間の視界の90度に匹敵するらしい。あくまでも理論値の話ではあるが、従来のマルチディスプレイ技術とはかけ離れた技術である事に違いはない。
そしてさらに、AMDの次のGPU戦略として「生の演算パフォーマンスアップを追求、パフォーマンス効率を落とす複雑化をできるだけ避け、汎用コンピューティングの性能を上げるが、基本はあくまでもグラフィックスに置く」事を明確化した。
これは簡単にいうと、GPUはあくまでもグラフィック処理を最優先と考えるという戦略であり、この部分はNVIDIAと全く逆の路線を採る事を意味する。
もちろん、これはAMDがPhenomというCPUを有しているからであり、その強みを活かすという戦略である。
そして新ハイエンドGPUでは、生パフォーマンスで2.5TFLOPS超という演算性能を持たせるようだ。
2.5TFLOPS超というと、ちょうどRadeon HD 48xx系を発表した時の2.5倍のパフォーマンスになる。もちろん、この2.5TFLOPS超という数字がとんでもない数値である事に違いはないのだが、何の根拠もないわけでもない。
その根拠とは、新GPUが搭載するトランジスタ数は21.5億になり、それはつまり、AMDは前世代より2.x倍のトランジスタ数で2.x倍の演算性能を実現するという事を意味する。
だが、この辺りの事に詳しい人は、単純にトランジスタ数を倍加させても性能まで倍加しないという事を知っているだろう。
この倍加トリックには、AMD特有のトランジスタ構成にその答えがある。
AMD…というより、今は吸収されてしまったATIは、昔からNVIDIAよりもグラフィックスに比重を置いた汎用コンピューティングへの特化の度合いの低いGPU設計を行なって来ている。当然、AMDに吸収された後も同じだ。
この“汎用コンピューティングへの特化の度合いの低いGPU設計”というのが、トランジスタを倍加させて演算性能を同じだけ倍加させるという事に繋がる。
通常、GPUを汎用コンピューティングへと特化させようとすると、どうしても総トランジスタ数のどれだけかの割合は制御系へと割り当てられる。
もちろん、普通のGPUでも制御系は必要だが、汎用コンピューティングへと特化させようとすればするほど、その制御は複雑化する為、割り当てられるトランジスタ数は増える。
AMDは、その汎用コンピューティングへの度合いを低くし、単純に演算性能部分にトランジスタ数を割り当てる事を目指している。だからトランジスタ数が倍加しただけの演算性能を得られるというのである。
ご存じの通り、NVIDIAはここ最近、GPUをより汎用コンピューティングに使用する方向にシフトしてきている。これはCUDAという存在が物語っている。
AMDももちろんGPUを汎用に扱うようなソフトウェア群を用意しているが、その姿勢の違いは一目瞭然だ。
AMDがそうした汎用コンピューティングに力を入れなくても問題がないのは、AMDはIntelに対抗できるCPUメーカーでもあるからだ。
つまり、単純に性能特化できるAMDだからこそ、2.5TFLOPS超という演算性能を達成する事ができるのである。
この2.5TFLOPS超が夢の数値でなくなるのが、もう目前に来ている。
実際、今回のプレカンファレンスでは新Radeonが出力するレンダリング映像が公開されている。
つまり、そう遠くないウチにRadeonのハイエンド製品は2.5TFLOPS超へと達するようだ。
商品としていつ頃出てくるのかは分からないが、おそらく年内には何かしらの形になるではないかと予測する。
というのも、これらの演算はDirectX 11対応GPUで達成されているワケであり、DirectX 11はWindows7に搭載されるのである。
つまり、Windows7が発売され、その直後くらいに対応GPUが姿を現すとなると、その登場時期は11月前後と予測される。
もう2.5TFLOPS超は目前に来ているのである。
AMDがこのような路線を打ち出してきた。
残るはNVIDIAだが、どのような路線で攻めてくるのか。
その興味は尽きない。