HMO、渋谷をジャックする

 VOCALOIDという言葉が世間に定着して既に1年以上経過している。
 2007年8月31日に発売されたキャラクターボーカルシリーズ第一弾“初音ミク”は、DTMの世界を一変させたと言ってもいいほどの人気となり、第二弾“鏡音リン・レン”や第三弾“巡音ルカ”とシリーズも3つ続いた。
 しかし、今以て最大の人気を誇るのは初音ミクであり、そのインパクトとキャラクター性が他2作を凌駕し続けているのかもしれない。
 その初音ミクだが、以前より商業CDが発売されている。
 もともと初音ミクに搭載されているVOCALOID2というエンジンにはボイスアクターが必須であり、そのボイスアクターの声をベースにフォルマントフォントを設定、それの波形をコントロールする事で歌を形成している。だから理論上歌えない歌は存在しないワケであり、こうなると基となったボイスアクターの声域を超えた歌ですら可能になり、それを商業ベースのCDにする事は全く可能だという事は当初から分かっていた。
 問題となるのは権利的な部分であり、いつかは触発するだろうと思ったいたら、まぁ想像通り発火。その後、権利関係が整備され、今に至っている。
 権利関係が整備されれば後は拡大するだけの事。
 そうして生まれたのが、この「Hatsune Miku Orchestra」である。


 Hatsune Miku Orchestra(HMO)はその名前の通り“YMO(Yellow Magic Orchestra)”をインスパイア…というか、カヴァーしたCDである。
 YMOを知らない世代、という存在が今はいるという事実に自分も古くなったなと思ったりするわけだが、今や大御所と呼ばれる細野晴臣、高橋幸宏、坂本龍一の三氏が結成してできたテクノポップスバンドである。
 いや、正確に言うなら、テクノポップスとは言えないかもしれない。
 とにかく既存のものに縛られないバンドで、当時はまだ未成熟だったシンセサイザーを駆使し、またそのシンセサイザーによる自動演奏を大々的に利用した最初のバンドとも言える。
 また、日本発祥のバンドでありながらその人気の爆発起源は国外であり、日本に逆輸入されたテクノバンドという位置づけも珍しい。
 そんなYMOの曲を初音ミクでカヴァーしたのがHMOであり、8月26日にアルバムが発売されると、オリコン初登場で総合9位と、明確な人としてのボーカルが存在しない楽曲とは思えない記録を達成した。
 このアルバムの発売と同時に、初音ミクが渋谷をジャックしたかのような展開を見せていた。
初音ミク、渋谷を席巻、コスプレ大会も開催
http://www.barks.jp/news/?id=1000052494
 詳しい内容は上記リンクに譲るが、CD発売日に渋谷パルコで開催された“初音ミクとテクノ・デザイン展”の存在が渋谷をジャックさせた事と関連があるかもしれない。
 ま、多分CD発売を大々的に行った結果だとは思うが、詰まるところ初音ミクという存在はそうした大々的な宣伝ですら可能な存在になったという事ではないかと思う。
 VOCALOID2の技術はまだまだ進化するだろうが、それらが次なるキャラクターの大ヒットに繋がるかはかなり微妙ではないかと思う。
 理由は単純で、第二弾、第三弾のキャラクター達が初音ミクに対し今一歩で留まってしまっている事に起因する。
 つまり、今回の人気はVOCALOID2という歌を生成できるツールと初音ミクというキャラクター性に根付いたものであり、そのどちらが欠けても実現しなかった事である。
 初音ミクがシリーズ三作通して未だに一番人気なのは、限りなくキャラクター性によるものだろうし、それがVOCALOID2の凄さを示したものでもないだろうし、VOCALOIDにキャラクターを組み合わせたからこうなったという事でもないだろう。
 要はタイムリーさとマッチングなのではないかと思う。
 この初音ミク関係のCDがバカ売れする事で一番微妙な感じになる人は多分初音ミクの中の人ではないかと思う。
 まぁ、自分が演じたキャラクターの一つ…というぐらいに思っていればさして気にもならないのかもしれないが、自分が歌ったことのない曲がCDとして発売されそれが大ヒットとなると、心の中ではかなり微妙なものがあるのではないかと思ったりもする。
 まぁ、実際自分の歌声であってそうでない歌声だろうから、気にならないのかな?
 実際どうなのだろう?
 何はともあれ、こんな空想上のヴァーチャルアイドルが世間を動かす日本は、相当平和な国なのではないかと思う。
 あー、日本人でよかった(爆)

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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