Ryzen 5000シリーズのAPUが発表された。Zen2ベースのRenoirが行き届いたという感じがないままZen3のCezanneへと進んだ感じもする。
Ryzen7 5800U
AMDがCES2021の基調講演にてZen3アーキテクチャを採用したモバイル向けAPUであるRyzen 5000シリーズを発表した。
薄型ノート向けに「Ryzen7 5800U」を投入するとしていて、低消費電力でありながら8コア16スレッド、最大4.4GHzのブーストクロックを実現したという。
競合であるIntelのCore i7-1185G7と比較すると、PCMark 10のDigital Contents Creationで18%、Adobe Premiereのビデオエンコーディングで44%、PCMark 10のApplicationで7%、Blender 3D Raytracingで39%高速だとしているが、もちろん実測しないと真意はわからない。
これだけの性能を持ちながら、バッテリ駆動時間も改善しているとしていて、一般的な使用では最大17.5時間、動画再生では最大21時間の駆動を実現した、と言っているが、これは搭載するバッテリ容量や表示デバイスの輝度によっても左右するので、こちらも実測しないと何とも言えない話である。
ただ、事実のみで考えるとして、薄型ノート向けAPUも8コア16スレッドの時代に突入した、という事は一つの時代の進化を感じる事になるだろう。
画像の出典はココから。まだエンジニアリングサンプルの時のものである。
Ryzen9 5980HX
前述のRyzen7 5800Uの上位にあたる、ゲーミングノートPC向けとして、Ryzen9 5900HX、Ryzen9 5980HXの2モデルも投入される。
両者とも8コア16スレッドである事はRyzen7 5800Uと同じだが、合計20MBのキャッシュメモリを搭載し、TDPは45W以上となっている点で、いわゆる普通のノートPCより大型のノートPCを想定している事が窺え、その最大クロックは5900HXが4.6GHz、5980HXが4.8GHzに達する。
こちらも競合であるIntelのCore i9-10980HKと比較すると、相対的に13%~35%性能が高く、CPU負荷が高い最新のオープンワールドアクションRPG「Horizon Zero Dawn」で、100fps以上のフレームレートを達成できるようだが、もちろんこれも実測しないと断定できないので、今は参考値と考えるべきである。
まだ情報が明らかになっていないのだが、今回発表されたRyzen 5000シリーズのAPUに組み合わされるGPUは、AMDの最新アーキテクチャであるRDNA2ではなく、Vegaアーキテクチャだと言われている。問題はどの程度のユニット数を内蔵しているか? という事で、これによってAPUのGPU能力は大きく変わってくる。
IntelはIris XeアーキテクチャでGPU能力を順調に引き延ばしてきている事は間違いが無く、今までGPUに関しては有利だったAMDがいつまでも同じポジションにいられるとは限らない状況になってきている。
このGPUに関する部分で、Intel製コアとの性能差がハッキリするまでは、Ryzen 5000シリーズの新APUが確実にIntelを超えてきたとは言い切れないと私は思っている。
Apple Siliconとの性能差
そしてもう一つ気になってくるのは、Apple Siliconとの性能差である。
昨年末、初のApple Siliconとして登場したM1は、その性能の高さで世界中を驚かせた。CPU、GPU、メモリ、コントローラ、I/Oなど全てを内包したSoCとして登場したM1は、5nmプロセスとしても驚きだったが、ArmアーキテクチャSoCとして、その性能も素晴らしいが省電力性もズバ抜けている事がわかっている。
IntelやAMDはこのAppleのM1に対してどこまで迫っていけるのか? という事は今後の大きな関心事ではないかと思うが、今回発表されたRyzen 5000シリーズでは、残念ながらまだM1に渡り合えるような性能ではないのではないかと感じている。
これももう少し情報が公開されたり、実機でテストできるようにならないとハッキリ言えない事ではあるが、今の情報だけで判断すればM1のアプリケーション実行能力を超えられているとは考えにくい。
M1はまだまだ高い壁なのではないかと思う。
品薄は変わらない
今回のCezanneというコードネームのAPUは、今の所一般販売の予定はないようで、OEM向けの製品だとしている。
しかし、Zen2ベースのRenoirに関しては、日本ではバルクという形で販売された実績がある。何とか今回もバルクでも良いので自作市場に流れてくるといいなと思っているのだが、今回はそう上手くいかないかもしれない。
というのは、7nm製造プロセスに空きがないためである。PS5やXbox SXも台湾TSMCの製造ラインで製造されていて世界的に品薄が叫ばれている。AMDの製品も全てがTSMCの製造装置で作られているようなので、もはや製品は出来上がっても製造が間に合わない、という状況のようである。
なので、今回のCezanneに関しても一般販売に回ってくるかどうかは非常に微妙である。
個人的にはRenoirで小型PCを作っていないので、できればCezanneでミニPCを作れればいいなと思ったりもするのだが、実現性は今の所低いと思われる。
何とか下々まで回ってきてくれるといいのだが…。