HDR10+という規格

なかなか普及しないHDR10にテコ入れ。

HDR10規格にプラス要素

パナソニック、サムスン、20世紀フォックスが共同で「HDR10+」を発表した。
既にHDR10はUltra Blu-ray、Netflix、Amazonビデオなどにも採用されているが、今回のHDR+はそれにプラス要素を加えたものである。
唯でさえ普及していないHDR10規格に、さらにプラス要素を加えたとしたら、また混乱が生じて普及しなくなるのでは? と思われるかも知れないが、今回のHDR+規格は、HDR10対応機器では通常通りHDR10として、HDR10+対応機器ではシステムの能力を100%引き出して、低価格ディスプレイに対して効果的であるという規格になっているという。
おそらくこの意味を理解するには、そもそもHDR10という規格がどのような規格なのかという事を理解しないと、よく分からないと言える。
その辺りを振り返ってHDR10+という規格がどんな規格なのかを見てみる。

HDR10

そもそも、HDR対応コンテンツには最大1万nitsまでの明るさがそれぞれ絶対値で記録されている。しかし実際のディスプレイのほとんどは1万nitsもの明るさを再現する事はできず、プレミアムディスプレイと言われるモデルであっても2,000nits程度までしか明るさの再現はできない。注意しなければならないのは、2,000nitsでもとんでもない高性能ディスプレイであるという事。
では何故HDR対応コンテンツは最大1万nitsまでの明るさ情報と規定しているのか? というと、それが人間の眼が感じる輝度範囲だからである。HDR対応コンテンツは、この人間の知覚範囲を基準にしている。
では、実際表現できない状況をどのようにコントロールしているかというと、搭載するディスプレイの能力を考慮しながら、白飛びに至るまでの飽和特性を調整して対応している。必ずしも規格化されているわけではないが、HDR10では大凡1,000nits程度までおさめることが望ましいというガイドラインが存在していて、コンテンツ内に1,000~3,000nits程度までの輝度情報を組み込んでいるケースが多い。
つまり、ハイエンドなディスプレイに何とか1,000~3,000nitsの輝度情報をたたみ込んで表示させているというのが現状。だから、プレミアムディスプレイでないとHDR10対応にならないのである。
これがHDR10対応製品が普及しない最大の理由である。

ではHDR10+ではそれをどうやって低価格ディスプレイでも対応させるのか?
これは扱う輝度情報を内包するメタ情報「MaxCELL」を固定値とするのではなく、動的に切り替えていき、シーン毎に正しい輝度範囲情報を入力してやる事で、ディスプレイのバックライト制御をしやすいようにするのである。
全体的に暗くなるシーンではバックライトを絞り込み、より明確な階調表現を実現できるようにし、明るいシーンでは予め定められているシーン全体の輝度情報からコントラスト調整が必要かどうかを判断し、必要ならば特性カーブ値で制御し、不要ならリニアに表示させるといった手法である。
これによって、輝度情報の最大値でプレミアムディスプレイとの差は生まれるものの、低価格ディスプレイでも階調表現が豊かなシーンを再現できる事になり、より多くのパネルでHDR表現が可能になる、というわけである。

特許フリー

問題はこのHDR10+が普及するかどうか? という事に尽きるわけだが、現状HDR10+はHDR10と完全な互換性がとれている。伝送経路上で新たな規格定義は不要だし、HDMI2.0aに対応するシステムならば、機器接続上の問題は一切ない。
また、業態に加盟する際にも年会費を支払えば技術仕様やHDR10+に対応するためのツール、ライセンスを入手でき、特許ライセンスは完全フリーとなる。
パナソニック、サムスン、20世紀フォックスでは、それらを武器に普及を進めていく事になるが、おそらくそう大きな負担となる話ではない規格と考えられる。
もっとも、相互運用として正しい動作をする事の確認が必要になるが、消費者からすればこれは当たり前とも言える確認なので、歓迎すべき事である。

このHDR10+によるMaxCELL情報は、提供されるツールによって自動生成できるらしく、映像制作側も特別コストが増大するといった事もないようである。制作するソフト側の対応が簡単に行われるとなると、家電メーカー側の対応は比較的早いと考えられ、HDRという高画質化技術がぐっと身近になるものと考えられる。
また、機器によってはファームウェアアップデートでHDR10+対応にもできるようで、パナソニック製品などでは順次そうした対応が行われていく。

こうなると、ディスプレイ業界でもHDR10+対応の波がくるかもしれない。
PS4やPS4 Pro、Xbox One等が早急にHDR10+対応となれば、映像作品のみならずゲームでも早々にHDR対応コンテンツが増えていく事が考えられる。
今までモニタ不足で普及が進まなかった状況が一気に変わる可能性がある規格だけに、今後大いに期待したいところである。

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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