データは嘘はつかない

ハワイで訓練中のオスプレイが墜落した。

それでも事故率は低い?

現地時間で5月17日に、ハワイで訓練中のアメリカ海兵隊MV-22オスプレイがオアフ島のベローズ空軍基地で着陸に失敗、機体は大破し乗員22名中1名死亡、21人全員が病院に搬送されるという事態になった。オスプレイが大破するような事故は2012年以来3年ぶりではあるが、この事件を端に沖縄ではオスプレイの撤収を求めている。
MV-22オスプレイはすでに200機以上が米軍実戦部隊に配備済みだが、オスプレイそのものの事故率は、実を言うとかなり低い。10万時間あたりのクラスAの重大事故が2.12件となっていて、海兵隊全体の平均件数である2.5件を下回っている。
年間飛行時間は1機あたり300時間を少し超えるもので、仮に200機のオスプレイが1年間富んだ場合、総計6万時間となる。この計算で行くと年に1回重大事故を起こしたとしても平均より低い事故率という事になり、今回の事故を計算に入れたとしても平均事故率は平均を超えるような事はない。
「事故率」という言葉で計算するとこのような結果になるのだが、周辺住民からしてみればこんな事は机上の空論であり、事故が起きる事そのものに問題がある、と声を大にして言うのは当然の結果かもしれない。

知らないデータ

今回事故を起こし一躍話題になったオスプレイだが、これはオスプレイがあまりにも特殊な動きをする機体だからこそ話題になっていると言える。
実は、オスプレイよりもずっと事故率の高いヘリが存在するのである。
CH-53Eスーパースタリオンという大型ヘリがあるが、これは海兵隊での名称。海軍型MH-53Eシードラゴンと呼ばれる機体も同系統の機体で、こちらは2012年に2件、2014年にも2回の墜落事故を起こしており、先月にも燃料系統の不調でカリフォルニア州のbeach for swimmingに緊急着陸したと話題になった。しかし、日本ではあまり話題になっていないため、その危険性は日本であまり聞かれないというのが現状である。
CH-53Eスーパースタリオンは老朽機であるという問題があるわけだが、これから比較しても実はMV-22オスプレイは事故率が低いと言わざるを得ない。

実は、どんな機体であっても事故率を左右するのは機体ではない、という事実をもっと知るべきなのである。

任務によって大きく変わる事故率

MV-22は海兵隊でのオスプレイの名称であり、これが空軍になるとCV-22という名称になる。
MV-22は前述の通りクラスAの重大事故は年間2.12件だが、CV-22は13件と極端に悪い数字が出ている。MV-22とCV-22の違いは、CV-22に地形追従レーダーが付いているという事ぐらいで、機体メカニズムそのものはほぼ同じである。
では何故こんなに違いがでるのか? というと、それは行う任務に大きな違いがあるという事である。
CV-22は戦闘捜索救難と特殊部隊の輸送任務が主任務で、いわゆる特殊作戦機という扱いになっている。つまり、運用上CV-22の方が過酷な条件下での運用となっているわけである。
逆を言えば、そこまでの特殊作戦でなければオスプレイの事故率は低い、という事になる。
また、米空軍特殊作戦機CV-22オスプレイと同じ特殊作戦任務を行っていた前任機MH-53ペイブロウは2008年に全機退役したが、クラスAの障害事故率は7.51、退役前10年のクラスA事故率は12.34と極めて高い数値となっている。このMH-53ペイブロウは、海兵隊で運用しているCH-53Dシースタリオンと基本構造が全く同じ機体で、事故率の傾向は海兵隊と空軍のオスプレイの違いとほぼ同じである。
つまり、機体どうこうの問題ではなく運用による違いの方が遙かに大きな影響がある、という事である。

それでも…

ただ、今回のオスプレイ墜落事故の問題は、そうした事故率とは異なる次元で話題になっている。
既に日本の米軍基地に配備されている事を考えると、住宅地に墜落するのではないか? という事でやり玉に挙げられている。
周辺住民からしてみれば確かに問題である。
しかし、よく考えてもらいたいのは、オスプレイが登場する前は、オスプレイよりも事故率の高い機体が今と同じ住宅地の上を飛んでいたのである。
オスプレイがティルトローター機として特殊な動きをする為に、その機構上危険だと一方的に決めつけている所があるのではないか? と私は思うワケである。
現に今までのデータで見れば、オスプレイは前任機よりも事故率は低く、しかもとりわけ日本の住宅地上を飛ぶ際は特殊作戦機の任務のような運用はしていない事を考えれば、今まで以上に安全であると言えないだろうか?
そう言えるのは、私の住居がオスプレイの飛行ルート下にないからだろうか?

周辺住民が心配なのはもちろん理解する。
そもそも米軍基地が日本にある事を問題視している可能性もある。だが、米軍基地が日本国内になくなってしまうと、日本の防衛は日本独自で行う必要が出てきて、防衛費が爆発的に増大する。この問題はトレードオフの問題であり、何かを取れば何かを失うという、当たり前の理論の話でしかない。
そして日本という国家が米軍基地を認めている以上、この国家で生活する上では現状を受け入れるしかない。多分、今騒いでいる人だってこれぐらいの事は解っているハズだ。
そこに二律背反が存在している事を知っていても、騒がずにはいられない。
多分そういう事なのではないかと思う。
だが、データは嘘は言わないのである。

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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