ACアダプタがなくなる日

ホントに来るのか? 来るといいなぁ。

パワー半導体

最近、交流電源から直流の電気を生み出すアダプタが妙に小型化してきている事実を知った。
従来、大きな電力を消費する直流機器に使用するACアダプタは、そのワット数が大きくなればなるほど、アダプタ自体が巨大になり、その重量もとんでもなく重いものがほとんどだった。
しかし、時代はモバイルに優しい時代になり、現在のCPUのなどのシリコン系半導体の消費電力は驚くぐらいに小さくなり、稼働時間10時間というノートPCも珍しくなくなってきた。
だが、このノートPCの消費電力の小ささを実現したのはシリコン系半導体の電力効率を活かした省電力性で獲得した機能だが、前述したようにACアダプタが小型化・軽量化しているのは、そうしたシリコン系半導体の成せる業ではない。
それこそが巷でパワー半導体と呼ばれる、電源の制御や供給を担う半導体の仕事であり、ここ最近、そのパワー半導体に変化が起きている。
主なパワー半導体には「ダイオード」「トランジスタ」「IC(集積回路)」があり、それぞれ「電気の整流化」「電気の増幅・スイッチング」「様々な機能を単独で処理する」という機能がある。

酸化ガリウム

こうした機能から、使われるものとして整流化電源や周波数変換機、レギュレータ、インバータなどに使われる事が多いのだが、従来、そうした機器に使われる各部品を構成するパワー半導体にはシリコンを素材とした半導体を用いてきた。
例えば、鉄道車両でもシリコンを使ってきたのだが、ここ最近、シリコンよりも半導体物質としてパフォーマンスが高い炭化ケイ素や窒化ガリウムを使用する開発が進み、その成果を出してきている。
どれぐらいの成果が出ているかというと、シリコンのパワー半導体を用いたインバータと炭化ケイ素を用いたインバータでは、最大40%の省エネ効果を生む事ができるようになったという。
この成果の為かどうかはわからないが、各業界で炭化ケイ素や窒化ガリウムを使用するパワー半導体を用いる動きが活発化してきて、EVや家電などでも大きな成果が出てくる事が予想できるのだが、ここにきてさらに効率を高める事のできる材質が開発された。
それが酸化ガリウムである。
この酸化ガリウム、何がスゴイかというと、シリコンに対する半導体物質の性能を1とすると、前出の炭化ケイ素が340、窒化ガリウムが870となり、これら2物質の性能が段違いに高いことがわかるのだが、酸化ガリウムはさらにその上を行き、3,444という数値になる。実にシリコンの3,444倍の省エネ効果を酸化ガリウムが持っている事になる。
同じ性能の素子であれば、当然省エネの損失が少ないパワー半導体の方がモノを小さく作る事ができる。ACアダプタなどの小型化が期待できるという話は、まさにこの酸化ガリウムでパワー半導体が実現できれば夢の話ではなくなる、という事なのである。

フロスフィア

この酸化ガリウムによる新型半導体を開発したのは、京都大学初のベンチャー企業であるフロスフィアというところである。
フロスフィアでは、この酸化ガリウムを使用して従来の省エネの希望だった炭化ケイ素や窒化ガリウムの成果を無にしてしまえるほどの成果を見せ始めている。
それは、酸化ガリウムの欠点と言われていたP型半導体を製造可能にしてしまったという事である。
パワー半導体には、電子をわざと足りなくしたP型半導体と、電子をわざと余らせたN型半導体がある。
前述した通り、パワー半導体にはダイオードやトランジスタがあるが、ダイオードはN型半導体だけでも製造できる余地があるが、トランジスタはどうしてもP型とN型が必要になる。なので折角特出した半導体性能を持つ酸化ガリウムであっても、今まではダイオードしか製造できなかったのである。
ところがフロスフィアでは酸化イリジウムを使ってP型層を生成する事で、酸化ガリウムを使ったトランジスタの製造に成功したのである。これによって、酸化ガリウムを使用したパワー半導体を製造できるようになり、今後大きな期待がかけられるようになったわけである。

驚くべきはコスト

ちなみに炭化ケイ素や窒化ガリウムでも、もし酸化ガリウムより製造コストが安ければ、まだまだ伸びる余地はある。
だが、残念な事に、フロスフィアはコストの面でも酸化ガリウムで高コストを克服してしまっているのである。

炭化ケイ素と窒化ガリウムのコストが高いのは、密度の小さい気体から結晶を取り出すという手法を採らざるを得ないからで、その生産量が極端に少ないのが高コストに繋がっている。
半導体の多くにシリコンが使われている理由は、その製造コストが安いからに他ならない。シリコンは、シリコンを溶かした液体からそのまま結晶を作る方法を採っているため、その製造量が多く、炭化ケイ素や窒化ガリウムの結晶の製造とは比べものにならないぐらい安く作れる。もっとも、シリコンは融点が1,500度なので、その温度管理も難しく、また純度管理も環境を整えるのが難しく、一般的な素材製造よりはコストは高い。ただ、他の半導体素材の製造コストと比較して安いというだけの話である。

で、注目の酸化ガリウムはどうなのか? というと、フロスフィアはミストドライ法という手法で、液体からほぼ常温で、しかも特殊な環境も不要な条件で結晶を製造する製法を確立してしまっている。
しかも、酸化ガリウムの半導体としての特性はシリコンの3,444倍もあるので、製造する結晶の大きさも小さくできる事から、もともと製造量はシリコンよりずっと少なくてもその性能を獲得する事が可能なので、総合的にコストを小さくする事が可能なのである。

どこかの時点で逆転か?

現在のパワー半導体の技術開発は、まだ大電流を扱うものを炭化ケイ素で、家電レベルであれば窒化ガリウムで、という流れになっている。
だが、ここに来て酸化ガリウムが登場した事で、その図式は変わっていく可能性が高い。
というか、その特性とコストを考えれば変わっていかない方がオカシイ。
もし酸化ガリウムの生成で問題があるとするならば、その結晶の生成においてフロスフィアが開発した溶媒の特殊性くらいのものである。今の所、この溶媒を生成するために大きな課題があるという話にはなっていないので、酸化ガリウムの製造コストは安いと言われてるが、もし今後もこの製造コストの安さを売りにできるのであれば、間違いなく従来技術を置き換える技術になるだろう。
ひょっとすると、ACアダプタが不要なノートPCが登場するのも、もう時間の問題かもしれない。交流電源を直流電源にする仕組みは本体内にすべて収める事ができる時代がやってくれば、今よりもずっとスマートな機器が登場するはずである。
もちろん、電気自動車などでもその威力は発揮されるだろう。
考えれば考えるほど、パワー半導体の未来は明るいと思う。
そして何より、こうした業界を揺るがす技術を、ベンチャー企業が持っているというところにこそ、その凄さを感じる。
日本人が発明した画期的な製品は今までにも沢山存在するが、この酸化ガリウムによるパワー半導体も、その一つに名を連ねる時代がもうすぐやってくるかもしれない。

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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