国策としてのアニメ

 私が前の職場にいた時の話。
 日本のアニメが世界に対して影響力があるという事と、世界に日本のアニメを愛好する人が多いという話がそこかしこから聞こえ始めた頃、当然我々の中でも世界進出の話が出ていた。
 だが、同時に日本のアニメの権利(主として実写映画権)を買い付けにくる海外勢も現れて、これは次第に日本のアニメのコンテンツが失われていく危機が目の前に迫ってくるぞ的な話をしていた。
 その危機感は実のところ今現在ホントの事になってしまったワケだが、その問題を根底から解決する事にはならないかもしれないが、その権利を買い戻す事も含めた上で、今日本という国が動き始めている。
 日本政府が9割を出資するファンド“産業革新機構”が60億円を出資し国策企業を先月設立した。その企業の名は“オール・ニッポン・エンターテイメント・ワークス”といい、日本のアニメ・玩具コンテンツのハリウッド映画化を目指すプロジェクトを今月スタートした。
 この動きをする事そのものはイイとして、動きが遅すぎる、と思うのは私はもう数年以上前の前職時代にこの話をしていたからだ。
 国が動くとなると時間がかかる、という人もいるだろうが、10年近く前だとしたら、いくらなんでも普通はそこまで時間はかからないだろう? と思うワケである。
 この国を動かす、という部分においては日本人はホントに下手で、隣の韓国などは国というものを企業が非常に上手く利用していると見える。
 今、日本の大部分が韓流という流れを受け入れているが、これが韓国の国策によるものだという事が今頃になって話に出てきている。ハッキリ言ってしまえば、日本で見る韓流の流れ全てが国策の一貫と考えても多分間違いではないだろうと思う。
 それぐらい、国を挙げての総力がかかっている、という事である。


 なぜ韓国は、国というものをうまく利用できるのか? というと、韓国企業は大きく分けて3つの勢力(3つの財閥)があり、そのグループ企業が韓国企業の大多数を占めている為だと言われている(ゴメン、私も聞いた話でしかない)。
 つまり、グループの総意をまとめやすい為、上層部が国を動かす場合であっても、その3つの勢力からの話であるため、他に埋もれてしまわないのである。
 もっとも、これはある意味自由競争が活性化しないというマイナス面もあるのだが、国を挙げて方向性を統一したりする事に関しては即効性があるため、今のような時代には向いているのかもしれない。

 日本はどうあってもこのような形にはなれないワケで、私らが気づいて10年弱経過した今頃になって、国策としてアニメというものと真剣に向き合った、という事になる。
 数年前もクリエイター支援の為に国が動いたという話もあるが、その後の動きは多分あまり活性化していないと思われる。
 コンテンツを生み出す為にはクリエイターが必須で、特にアニメーターの生活水準の低さを何とかしないと、アニメコンテンツの根底が崩れてしまうという危機は、以前も今も何も変わらない。おそらく改善化しているのは一部で、全体的な底上げまでにはまだまだ道のりは長いものと思われる。
 そんな状況下で、コンテンツだけでもハリウッドに売り出すというのもどうかと思うが、何もしないよりはマシといった所か?
 せめて、そうして売り上げたコンテンツ料を持って、日本のクリエイター達に還元できる仕組みを作ってもらいたいものである。
 利権は出資側にもあるだろうが、当然クリエイターにも帰属しなければならない。その事を忘れたとき、おそらく自らの手足を切り落とすのが出資側であり、出資側はそれら切り落とされる側が自らの手足である事すら見えていない。なぜなら、出資側は儲けられる場所を別に求めるだけだからだ。

 こういう、儲けられる場所を次々と変えていくというやり方は、日本の昔からある企業体質とは違う。どちらかというと米国スタイルだ。
 米国スタイルの良い所は、合理的である所にあるが、逆を言えば危機を迎えたとき国策とすべき方向を定める事が難しい所に弱点がある。
 韓国は米国とは一部全く違う流れで今の所成功している。これは今日本に流れてきている韓流の流れだけではない。今問題になっているTPPにしても同じで、韓国の農家は国策によって主力農作物を変え、今では儲ける事に成功している分野もある。

 こういう諸外国に対し、日本はどういうスタイルを採るのか?
 それぞれに利点があり弱点があるが、各国は自国の特性から、その弱点をより小さく、利点をより大きくするスタイルを採っている。
 日本はどういったスタイルがもっとも利益を出せる形なのか?
 まず政治家がその辺りを理解していないといけない。いや、政治家だけでなく、国の官僚も同じと言えるだろう。
 せっかく、日本のクリエイターがジャパニメーションと呼ばれるほどに世界に打って出られる程のコンテンツを作り上げたのだから、それを潰さないような方策を立てないと、今回の国策として取り上げた、ハリウッド進出も利益を出せても今後継続できるコンテンツ育成ができなければ成功とは言えないだろう。
 その辺り、ちゃんと見えているのだろうか?

 自由の国、日本。
 しかし、それは本当の意味での自由なのか?
 多分、今それを全世界に問われているのではないかと思う。

 …アニメの話してたのに、何故こんなにでかい話になるんだ?(爆)

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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2 Responses

  1. アバター画像 茶屋 より:

    私の属している科学畑でもそうですが、日本はソフトパワーを作り出す能力には長けているのに、自分で作ったソフトパワーの使い方が分からずアタフタしている内に海外勢に買い取られてしまう事が非常に多いと感じます。金もクリエイターには還元されないという残念な結果に終わってしまう。

  2. アバター画像 武上 より:

    国が認証しないから良いものを発明しても諸外国に先手を取られるというのは、今も昔も同じようで。
    東北大学の八木博士が八木アンテナの仕組みを発見した時もそうだった。そのアンテナの性能を知りながら取り入れなかった軍部は、その後の太平洋戦争、それも勝敗分け目のミッドウェー海戦の時、八木アンテナを導入していた米国に日本の情報を丸々知られた状態だったという。
    福岡にあるテムザックという企業は、世界に先駆けて医療・福祉に利用可能な遠隔操作ロボットを開発したが、日本では認可が下りず、先にデンマークへ展開した。日本では厚生労働省や経済産業省など複数の省庁での認可が必要で、たらい回しにされたようだが、デンマークでは政府がそれらを一括して引き受け、企業は認可に関する手続きは不要だったという。どう考えてもお役所体質が発明・開発を無にしてしまっているとしか思えない。
    これらはほんの一例でしかないが、日本人がどんなに優秀なものを発明・開発しても、それを認証・認可する側に問題があるのが一番の問題。そして仮に認証・認可したとしても、利用する事ができないのも問題。利用できないから利益が出ず、開発元に還元できない、の悪循環を繰り返す。
    如何に日本という国がバカな国かという事がよく分かる話である。
    国策として取り上げるのは良いが、取り上げた後、どういう体制で運用・運営していくのかが問題。
    今回のアニメのハリウッド進出にしても、悪しき第三セクターの再来にならなければ良いが…。

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