あのトヨタ叩きは何だったのか?

 2009年11月25日。トヨタはそれまでも言われていたアクセルペダルが戻りにくいという問題を否定しつつも、8車種の乗用車計約426万台を対象にペダルの無償交換などのリコールを発表した。
 この事を端に米国ではトヨタ車は危険な車という烙印を押され、全米からトヨタ叩きとも言えるイメージダウン戦略の格好の的となった。
 当時、私は心のどこかで「トヨタの車作りならひょっとしたら…」という気持ちが多少はあった。もちろん、その気持ちは個人的なものであり、ホンダ党の私の心の中での反発でしかない。
 実際問題、プリウスの構造的な出来の良さを知っていたし、ハイブリッドなら残念ながらホンダよりもトヨタだろうな、という気持ちもあった。
 だから米国でのこのトヨタ叩きとも言える問題に関して、総合的に見ればやり過ぎだと思ったし、米国が言っているトヨタ車の諸問題そのものが、実に感覚的なものでしかない事はすぐにわかった。
 米運輸省(USDOT)は、2010年1月のリコール対象車の不具合について「エンジンの電子スロットル制御システムが原因の可能性がある」と発表したが、トヨタ側は「電気系統に不具合はない」と主張した。
 しかも、その後トヨタは運転者が意図しない急加速が起きた際、ブレーキをアクセルより優先させる「ブレーキオーバーライド・システム」を搭載する方針と米下院政監視の政府改革委員会の質問状に回答し、実質的に2009年11月からカムリなど5車種に既に導入していた。
 結果的に言うと、この電子スロットル制御システムには何ら欠陥はなかった。これは米当局での調査結果での話である。
 しかし、このリコール問題の為に2010年1月の米国でのトヨタ車の販売台数は前月比47%減と散々な結果だった。
 その後もトヨタ車の不振は続いたが、2010年2月、今までトヨタ叩きとしか言いようのない仕打ちをしてきた米メディアが一転、トヨタ擁護の姿勢を見せた。
 その理由は米当局の調査で「電子スロットル制御システム」に欠陥がないと最終報告をまとめた事と、全米で17万人がトヨタで働いており、その向上のある州知事が「トヨタ批判は不公平」という書簡を連名で米議会に送り、各新聞社がそれを取り上げた事に起因すると思われる。
 コレにより、トヨタ車の購入を促すような事まで書き始める米メディアも現れ、トヨタ叩きをしていた事を忘れたかのような反転ぶりを見せた。


 まぁ、一連の流れはこんな感じで、結局その後もトヨタ車の調査などをいろいろと進めていた米当局が、先日また新たにパワステの問題もシロだったと発表した。
 このパワステの問題も、2010年2月にトヨタカローラでハンドルの感触に不満があった事が原因。これもどうみても感覚の問題でしかないのだが…。

 で、振り返って思うわけである。
 このトヨタ叩きって結局なんだったの? と。
 経緯の中でいろいろな噂も飛び交うのも仕方のない話だ。
 というのも、このトヨタ叩きの当初、米議会はトヨタ車のコア技術である電子制御システムの全データの提出を求めたというのだから、米自動車産業含めた陰謀説が出ても仕方のない話。
 トヨタは当時、米自動車メーカーが得る事のできなかったプラグインハイブリッド技術を持っていたわけで、この電子制御システムのデータで、それらを手に入れる事もできたワケである。
 もちろん、それが真実だとは言わないが、少なくともそうしたスキャンダルが出てきても仕方のない反応を全米が見せたのだから、日本人の目から見てそう見えてもそれまでの話だ。
 いろんな憶測が流れ、疑惑が浮上し、問題が挙げられたとしても、トヨタが失ったものを今更取り戻すことは難しいし、もう元には戻らないという現実が残る。
 ホントに、あの騒動は何だったのか? という疑問だけが残るのである。

 だが、一つ忘れてはいけない事がある。
 トヨタがこの問題で行った対応とその管理は実に賞賛できるものだったという事だ。
 秩序を保ち、冷静に対応していくその姿は、震災後の日本人に通ずるものを感じる。
 結局、日本人の良さを再認識する事になったのが、このトヨタ叩きの行き着く所であり、これから先の展開はまだ終わったワケではなく、その先にはまた別の姿を見せる可能性もあるわけである。
 そしていい加減、国のエライ人たちに気づいて欲しいのが、日本は米国の属国ではないという事だ。今回のトヨタが被った問題で、実際にトヨタは何の問題もない所で莫大な被害に遭った。その問題の渦中には、あったかどうかは定かではないが、陰謀のようなものが見え隠れし、トヨタは取り返すことのできない損害を受けるしかなかった事実が含まれている。
 この事を、国のエライ人が放置できるのか? もちろん放置はしていないだろうが、ひとつの民間企業の出来事として処理してしまっていないだろうか?
 国の威信問題として取り上げなければ、帳尻が合わない話だと私は思うし、その先には今後の外交問題が強く影響すると思う。
 シロであるものをクロと言われ、それによって多大な被害を被った事は、ある種、いじめと同じではないだろうか?
 私個人としては、米国とのつきあい方を見直す一つのキッカケだと思うのだが…
 トヨタ叩きは、そのキッカケを発動する引き金だったように思う。

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武上

18歳の時、人生の最大の選択ミスをしてしまい、いきついた場所として山梨県人となる。 その後、建設業に身を投じ、資格をいくつか取得するものの、結局自分の性格と合わない事を理由に上京。 上京後、世間で話題になりつつあったアニメ・ゲームを主体とする業界の人間となり、デジタルコンテンツ業界を含む数々の著名人と同じ土俵でマルチメディアな仕事をするに至る。 一見華やかなメディアの世界の、その闇の深さたるやハンパない事こそ世間に何となく知られてはいるが、業界人しか知らないその氷山の全体像を十分すぎるほど目の当たりにした後、家庭の事情で再び甲州へと帰還。 しかし、この帰還も人生の選択ミスだったかもしれないなぁ…と今では思うものの、時既に遅し。 今は地元の製造業を営む会社の総務・品質保証という地味ではあるものの堅実な職につき、いつか再びやってくるだろう夢の実現を信じて隠者的生活を送っている…ハズだったのだが、またしても周囲の事情で運命は波乱の様相を見せ始めた。 私の人生は一体どの方向を向いているというのだろうか? ちなみに筆者はPCとの付き合いはかなり長いと思っている。 古くはPC-8801 mk2 SR、X1 Turbo、X68000、FM-Towns、PC-9801シリーズ(互換機含む)、PowerMAC 9500等をリアルタイムで使い、その後は、Windows PCの自作機を中心に現在に続いている。 デジタルガジェットに関しては興味もある事から、その時代の時々において、いろいろ使ったり調べたりして、専門家ほどではないが知識は蓄えてきたと思っている。 そうした経験を元に、今の時代へ情報発信させてもらっている。少々くどい言い回しが多いかも知れないが、お付き合いいただけるとありがたい。 連絡先:takegami@angel-halo.com (@を小文字にしてください)

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